翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

「高慢と偏見」から得られる教訓

先月(11月)、水曜日になるとテレビの前にかじりついていました。
イマジカで「水曜日はジェーン・オースティン」と銘打ってドラマや映画を放映していたからです。

最終日の25日は、BBC版の「高慢と偏見」を一挙放送。原作を何度も読み、NHKの放送で一度観ていたにも関わらず、午後2時半から6時間、一気に観てしまいました。

高慢と偏見 [DVD]

高慢と偏見 [DVD]

  • 発売日: 2002/04/05
  • メディア: DVD

なんといってもコリン・ファースのダーシー役に尽きます。
そして、娘の縁談に命をかけるミセス・ベネット、上流階級からの引き立てに目の色を変えるコリンズ牧師といった俗っぽい役も、よくこんなぴったりの人を見つけてきたものだという見事なキャスティング。話の筋はすべて頭に入っていても、ストーリーに引き込まれました。

ヒロインのエリザベス・ベネット役については、ちょっとイメージと違うような気がしたのですが、いたずらっ子のような笑顔が、機知に富み快活でさばさばとしたエリザベスの性格をよく表現していました。
対するダーシーはいつも不機嫌そうなしかめっ面だったのが、徐々にエリザベスへの恋心が芽生えてきます。

高慢と偏見」は、生まれた家柄の差を超えて、愛情によって結ばれるラブストーリーですが、それだけではありません。エリザベスやジェーンのように愛を求める人もいれば、現実的に割り切り、折り合いをつける人もいます。エリザベスの親友、シャーロット・ルーカスです。

エリザベスに求婚して断れたコリンズは、あろうことか翌日には近所のシャーロットに結婚を申込みます。牧師という立場上、独身でいては社会的信用が得られないし、引きたてを受けているキャサリン・ディバーグ夫人に結婚するように忠告されている以上、できるだけ早く身を固めなくてはいけなかったのです。

「そんな馬鹿な、冗談でしょう」とおどろくエリザベスにシャーロットは淡々と説明します。
"I am not romantic, you know; I never was. I ask only a comfortable home; and considering Mr Collins's character, connections, and situation in life, I am convinced that my chance of happiness with him is as fair as most people can boast on entering the marriage state."
(私はロマンチックじゃないし、これまでも一度も結婚に夢なんか持たなかった。ただ心地よい家庭が欲しかっただけ。コリンズさんの人柄、縁戚、今の身分から考えると、この結婚は幸福を保障してくれるはず。他の人の結婚にひけを取るとは思わない)

その後、エリザベスはコリンズとシャーロットの新婚家庭を訪れたところ、けっこううまくやっているようす。
家の中はきちんと整えられ、BBCのドラマでは「夫に屋外の庭仕事を勧め、夫婦で顔を合わせる時間はごく短くしている」といったことをシャーロットがエリザベスに打ち明けていました。
平成の日本にもよくいそうな夫婦の形です。

高慢と偏見」がいくら好きだといっても、この時代に生まれたいかというと、答えはノーです。
イマジカでは「ジェーン・オースティンに恋して」というタイムスリップドラマも放映していましたが、女性には自活の手段があまりなく、結婚は自分の魅力以上に財産(女性なら持参金)がものを言う時代です。そもそも、労働者階級に生まれたら一生働き詰めの人生でしょう。

エリザベスのように有産階級に生まれても、男きょうだいがいなければ、実家の財産は従兄弟に相続されます。一時は姉のジェーンがお金持ちと結婚しそうで、「私は独身のままでも、姉の子供にピアノを教えて暮らせる」なんてセリフもありました。この時代、数少ない女性の自活の道が住み込みの家庭教師でしたが、姉の家ならそう居心地は悪くないでしょう。
ところが中盤、姉の結婚の雲行きがあやしくなるし、妹の不始末により良家との縁組が敬遠されそうな事態となり、相当心細い思いをしたのではないでしょうか。

たいした財産のないエリザベスがダーシーに見初められたのは、彼女の持つ気(nature)によるものでしょう。
大金持ちだから家事はすべて召使まかせ、仕事の大半は社交となると、妻は一緒にいて楽しくなるような才気あふれる女性が望ましいとダーシーは考えたはずです。

エリザベスの性格についてはこんなふうに描かれています。
It was not in her nature, however, to increase her vexations by dwelling on them. She was confident of having performed her duty, and to fret over unavoidable evils, or argument them by anxiety, was no part of her disposition.
(くよくよ考えて苦しみを大きくするのは、彼女の気質ではなかった。自分のやるべきことをやったと確信できたら、避けることのできない不幸に悩んだり、不安のあまり口うるさくなるようなことは決してなかった。)

こんな気質だったら、たとえ結婚できず、財産に恵まれなくても、それなりに心楽しく過ごせたかも。
一方、シャーロットは自分はそんなタイプではないから、愛情に期待せずとにかく結婚しようと考えて行動しました。

エリザベスと姉のジェーンが、シャーロットの結婚を話すシーンでは、「人は人、自分は自分」という結論に落ち着きました。占いの鑑定場面でよく感じることですが、世間一般の幸福の形に自分をあてはめようとするのではなく、何が自分にとって幸福なのかを見極めるために占いは役にたちます。

高慢と偏見」が単なるロマンス小説とは一線を画し、時代を超えて愛されているのは、単一の成功法則を押し付けることなく、ユーモアあふれる筆致でそれぞれのキャラクターを描いているからです。

高慢と偏見」については、こちらもどうぞ。
d.hatena.ne.jp


東京・北区の旧古河庭園。イギリス風の邸宅にはバラが似合います。