NHKのEテレ「100分de名著」、録画がかなり溜まっているので少しずつ観ています。
日本史が苦手でも『平家物語』の回ははとてもおもしろく、ためになりました。
解説と朗読の両方を担当するのは能楽師の安田登氏。
「諸行無常」、「栄枯盛衰」は仏教を学んでいると繰り返し出てくる概念ですし、易の基本思想でもあります。
人生がたまたまうまくいっているからといって、有頂天になってはいけない。
反対に、うまくいかないことが続いても、絶望してはいけない。
安田登氏によると、「平家が全員、思い上がっていたわけでなく、サスティナビル(持続可能)にしなくてはいけないと考えた人もいた」とのこと。
でも、これが本当にむずかしい。幸運に恵まれると、ずっとその状態が続くような気がするのです。人は信じたいことを信じる傾向がありますから。
『高慢と偏見』の回も最高でした。ジェーン・オースティンのこの小説は、何回も読み返しています。
末の妹の駆け落ちにより、自分たち姉妹は良家との縁組とは無理だと考えるエリザベス。娘ばかり生まれたベネット家では、財産は遠縁の男性が相続することになっていますから、絶望的な状況です。
ところが、高慢で鼻持ちならなかったはずの大金持ちのダーシーの尽力により、スキャンダルは封印され、最後はエリザベスとダーシーの縁組も整います。
ことの顛末を伯母に伝える手紙でエリザベスは「姉のジェーンより幸せだ、ジェインが微笑だとしたら、私は大笑いだ」と書きます。
I am happier even than Jane: she only smiles, I laugh.
解説の廣野由美子教授によると「大笑い」というのは、駆け落ちした末の妹リディアの口癖。
エリザベスが軽蔑していたはずの母親の虚栄心が彼女の心にも芽生えたのではないかと辛口の詩的です。
『平家物語』と『高慢と偏見』。東西の名著を通して、共通の教訓が浮かび上がってきます。『高慢と偏見』は映画のブリジット・ジョーンズのシリーズで現代によみがえりましたが、広大な敷地の英国貴族で税金が払えなくなって没落していった家もたくさんあります。
そして50代後半の私は、日本経済の栄枯盛衰も目の当たりにしてきました。
先日、訪れた鬼怒川温泉。
東武鉄道の鬼怒川温泉駅から一つ先の鬼怒川公園駅まで行って、川沿いに下っていくと、廃業した旅館が並んでいます。
バブル経済が永遠に続くような気がして、事業を拡大。銀行からも大量の資金が融資された時代。団体客の画一的な温泉旅を見込んだ旅館は徐々に市場のニーズと乖離していき、バブルが弾けると資金難に陥ります。
権利関係が複雑にからみあっているのか、売却も再建もされず放置されたまま霧の中に立つ建物群をながめていると、7月というのに寒気がしてきました。
ボブ・ディランの『廃墟の街 Desolation Row』が頭の中で自動再生。
Now the moon is almost hidden, the stars are beginning to hide
The fortune telling lady has even taken all her things inside
今、月はほとんど隠れ、星も隠れ始めた
女性占い師でさえ、道具を片付けた
月も星も見えないのでは、運命を占うことさえできません。
占い師は運命がお見通しだと思われがちですが、そんなことはなく、運が悪かったり、経済的に困窮している占い師も山のようにいます。
経済アナリストも同じです。誰も暴落を予測できません。
ニューヨーク株式市場が最高値を更新していますが、そろそろ潮時なんじゃないか…。かといって数年前からそう考えて投資を控えていた人はチャンスを失ってきたわけです。
後付けの解説なら、いくらでもできますが、今を生きる私たちは「諸行無常」「栄枯盛衰」の教えを胸に、ダメージを最小限にするような方法を選択するしかありません。