日本を代表するエンターテインメント業界を揺るがすスキャンダル。
これまで見て見ぬふりをしてきたことも、欧米のコンプライアンス基準だと許されないと言われますが、アメリカの映画界だって大物プロデューサーのバーベイ・ワインスタインの悪事が明らかになったのは2017年のことです。
きっかけはアカデミー賞授賞式。司会者のセス・マクファーレンが主演女優賞の候補を紹介した際の「これでもあなたたたちはハーベイ・ワインスタインを好きなふりをしなくていいですね」という一言です。
外部の人間には意味がわかりませんが、映画関係者たちから「それを言っちゃっていいの?」というざわめきが起こったそうです。
不思議に思ったニューヨーク・タイムズの記者が取材を始め、映画の役を得るためにはワインスタインの要求に従わざるを得ず、断れば映画界から干されたと証言する女優たちが次々と出てきたのす。アカデミー賞の主演女優賞候補になるほど出世すれば、もう性被害の心配はないと言い放ったセス・マクファーレンとこの記者がいなければ、ワインスタインは今もハリウッドの重鎮として君臨していたかもしれません。
日本では少年の性的被害が問題となっていますが、アメリカやフランス、ドイツのカトリック教会では神父の罪が次々と告発されました。神父は妻帯が禁じられているため、神学校に入る同性愛者はけっこういるそうです。教会に集う敬虔な少年たちを指導しているうちに、つい欲望が抑えられなくなったのでしょうか。
銀幕や舞台で活躍するスター、信者の尊敬を集める聖職者。光り輝く存在だからこそ、闇も深いのかもしれません。
そして、平凡な人間も闇とは無縁ではありません。
大学時代、新聞記者だった講師によるジャーナリズムのクラスがおもしろくて大好きでした。教えてもらったはずの記事の書き方はほとんど忘れてしまいましたが、この言葉だけはずっと覚えています。
「君たちもやがて結婚を考えるようになるだろう。心配性の親なら相手の家系を調べて問題を見つけ、あんな家の子と結婚してはいけないと言うかもしれない。叩いてホコリの出ない家なんてない。自分の気持ちを第一に結婚を決めるべきだ」
社会部の記者として、普通に見える家の裏側のホコリをさんざん見てきたのでしょう。
妖怪人間は闇に隠れて生きて「早く人間になりたい!」と叫びますが、人間になったところで闇がなくなるわけではなく、闇を抱えて生きていかなくてはならないのです。
下関の奥座敷、川棚温泉。日帰り入浴で訪れた浴室の壁一面に、種田山頭火の句。心の闇が言葉に凝縮されています。
「どうしようもないわたしが歩いている」
闇を抱えても、歩いていくことはできると思い至りました。