日本語教師時代のストレスを癒してくれたのがサウナでした。
週3日教えていたのですが、失敗続きで胃の痛くなる日々。月火水の勤務が終わって水曜日の夕方に行くサウナが心の支えでした。サウナの熱さと水風呂の冷たさを交互に繰り返していくうちに、細かいことはどうでもよくなってきます。
カウチサーフィンでフィンランドを渡り歩いた時も、さまざまなサウナを体験しました。一戸建ての家はもちろん、コンドミニアムなら曜日ごとに住民に割り振ったサウナがあります。ホテルにも大浴場ではなく大サウナがありました。フィンランド人にとってサウナはなくてはならない生活設備なのでしょう。
ヘルシンキ郊外に住む編集者エリカは夫と子供2人の4人暮らし。エリカの友人で日本に興味があるというカップルと私のカウチサーフィン仲間のスザンヌを招いて、8人でホームパーティを開いた後、サウナタイムとなりました。まず女性5人が入り、そのあとに男性タイム。8畳ほどの広々としたサウナは、来客のおもてなしにも使えます。会ってすぐの人の前で裸になるのに抵抗がないのはフィンランド人と日本人だけでしょう。
フィンランドのドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』を観に行きました。
フィンランド製作“サウナドキュメンタリー”が公開、サウナの魅力を再発見 - 映画ナタリー - 映画ナタリー
監督のヨーナス・バリヘルはタンペレの公衆サウナで、二人の男性のプライベートな会話を耳にしたことでこの映画の構想を得たそうです。
フィンランド人、特に男性は寡黙でシャイ。それがサウナだと心がほぐれて心の底に溜まっている感情を吐露することに気づき、映画にすべきだと思い立ったとのこと。
フィンランド人にとってサウナは神聖な場所です。フィンラン人の旅行者や留学生を日本のサウナに連れて行くと、テレビがあることにびっくりします。神聖な場所に世俗の情報やCMを流すテレビがあるなんて! サウナは自分の内面と向き合える格好の機会なのですから、テレビのないサウナが増えることを願っています。
それにしても映画『サウナのあるところ』で語られる内容の暗いこと…。テレビ東京の『サ道』のフィンランド版かと思いきや、まったく違いました。
離婚して会えなくなった娘のこと、犯罪歴があっても今は真っ当に生きている自分、先に亡くなってしまった妻や母、子供、サンタクロース役の苦労、業務の事故で人が死んでしまったこと…。世界一幸せな国のフィンランドのイメージとはかけ離れています。
サウナは告解室にもたとえられます。裸になってロウリュ(蒸気)に当てられると、この世に遺しておくべき言葉を語りたくなるのかもしれません。
フィンランドでサウナは出産、そして死者を弔う場でもありました。熱と冷を交互に体感するのは、まさに生と死。心臓に負担がかかって体に悪いという人もいますが、サウナで死ねるなら大往生だと思います。
人は、裸で母の胎内を出て、裸でこの世を去っていく。サウナは生と死の接点でもあるのでしょう。
これまでの最高のサウナはアンネのボーイフレンドのご両親の別荘。タンペレ郊外の湖畔にあり、サウナで体が温まったら湖に裸で飛び込みます。となりの家は100メートル以上先です。夏の終わりに訪れましたが、次回はぜひ冬に体験したいものです。