今年は湯治の年にすると決めて、まず来てみたかったのが島根県の温泉津。「ゆのつ」と読むとは難読地名ですが、まさに温泉ありきの街です。
最初に訪れたのは2015年でした。
島根の温泉は車がないと生きにくいところが多いのですが、温泉津温泉はJRの駅から徒歩20分。地元の人には「駅から歩きですか」と感心されましたが、東京に暮らしていると普通に歩きますし、カミーノ(スペイン巡礼)では1日20キロを歩いていたのですから、どうということのない距離です。
宿は「湯るり」。古民家を改装したゲストハウスです。温泉旅館だと食事の量が多すぎて
オーナーの近江雅子さんは島根出身で、ご主人が住職で温泉津のお寺を継ぐことになり東京から戻ってきたそうです。
若い人たちによるユニークなお店があちこちにできて、8年前とは温泉津の雰囲気が変わったのは、近江さんの「湯るり」が起爆剤となったからかもしれません。
公共温泉の薬師湯と元湯温泉がすぐ近くにあり、素泊まりなので温泉旅館の夕食を食べすぎることもありません。今回、4泊するということで「ワ―ケーションですか」と机のある部屋にしてもらいました。もちろんWi-Fi完備です。
近くには同じく近江さんが手がけたドミトリー式の宿WATOWAもあります。そこのシェアキッチンは期間限定で全国各地からシェフがやってきてお店を開きます。
和食の料理人さんが来ているというので、到着した初日に行ってみました。
本格的な京料理。地元客のリピーターが多かったのですが、カウンターは私一人だったので料理人さんやお手伝いの女性と言葉を交わすことができました。
料理人さんは栃木県出身で京都で修業されたそうです。地元の魚を使ったお造りや焼魚、あなごの天ぷら。1月なのでお椀は京風の白みそ仕立てでした。デザートのぜんざいは出雲発祥ですからいかにも島根に来たという気持ちになれました。これほどの美味を温泉津で味わえるとは想像もしていませんでした。
さまざまな縁がつながって出張料理人として温泉津を訪れるようになったとのことですが、給仕役の女性も東京出身で島根にIターンしてきたそうです。
3人で話が弾み、まるでスペイン巡礼のようだと感じました。各地から来た人が交流して、もう一生会えないかもしれないけれど、たまたま同じ場を共有することを楽しむ時間。スペインから帰国して東京でルーティンの生活に戻り、こういう体験に飢えていたのでした。
「湯るり」の玄関。共同浴場から上がると小雨が降り出していました。近い距離だからそのまま帰ろうとしたのですが、受付の親切な女性が傘をさしていけと勧めてくれました。
雨は翌日は雪に。海が近い温泉津はそれほど積もらなかったのですが、会うはずだった友人は積雪で車が出せず、今回の再会は断念。友人に会うのが大きな目的だったのですが、来ようと思えばまた来ればいいし、一人でいたからこそ多くの出会いに恵まれた旅でした。