中野・スオミ教会のフィンランド語入門講座、2カ月目の10月を迎えました。
「この猫は小さいけれど、あの猫は大きい」
「あれはどんな猫ですか?」「白い猫です」
猫を使って基礎的な構文を練習しながら、とても不思議な気持ちになりました。
というのも、私がフィンランドという国を意識したきっかけは、「フィンランド語は猫の言葉」という一冊の本だったのです。
- 作者: 稲垣美晴
- 出版社/メーカー: 猫の言葉社
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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フリーのライターになる前、広告制作会社にコピーライターとして勤めていた私は、とある自動車のタイアップ広告の原稿を担当しました。各方面の文化人が登場し、車を運転してもらうという記事風広告シリーズです。
そのうちの一人が、フィンランド語翻訳家の稲垣美晴さんでした。
取材前の下準備として稲垣さんの著書「フィンランド語は猫の言葉」を読みました。
本に書かれていた景色の描写や、フィンランド人の国民性に心ひかれ、「いつか旅してみたい」と思ったものです。
著書から意志の強い知的な女性をイメージしていたのですが、実際にお会いした稲垣さんは、あたりのやわらかい小柄な女性。取材はスムーズに進行しました。
シリーズ広告だったので、他にも文化人を取材したはずなのですが、覚えているのは稲垣さんだけです。
その後、アキ・カウリスマキ映画を見たのも、このときの記憶が影響していたのかもしれません。
稲垣美晴さんの本で薪が準備され、
カウリスマキ映画で着火され、
レニングラード・カウボーイズのヨレ・マルヤランタで燃料投下。
「フィンランド語を専門にするなんて、奇特な」と思っていた私が、20数年後にフィンランド語を学び始めるとは。
世の中には不思議な巡り合わせがあるものです。
占い学校に通い始めたとき、ファンタジー好きの友人に「ハリー・ポッターみたい」と言われました。ホグワーツ魔法魔術学校では占いの授業もありましたね。
西洋かぶれだった私が東洋占術を選んだため、最初は用語を覚えるのに苦労しました。
行き帰りの電車で「けんだりしんそんかんごんこん」「こうおつへいていぼきこうしんじんき」など、呪文のように繰り返したものです。
易の八卦、乾兌離震巽坎艮坤に、四柱推命の十干、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸です。
これらの言葉は、新しい世界への扉を開いてくれる魔法の言葉でした。
ライターだった私を占い師に変えたのですから。
占いのお客さんの誕生日を聞いて命式を立てれば、風景画が浮かび上がってきますし、迷っていることがあると聞けば、筮竹を手に取り、天からの答えを伝えます。
そして、今の私にとってフィンランド語は新しい魔法の言葉です。
「タマ・キッサ・オン・ピエニ(この猫は小さい)」という響きからして、呪文のように聞こえます。
若き日のアキ・カウリスマキは小津安二郎の映画を見て、文学へのあこがれを捨て、映画の道に進むことを決意したのを「赤いヤカンを探すことにした」と表現しています(赤いヤカンは小津のカラー第一作「彼岸花」に出てくる重要アイテム)。
私は、フィンランドで小さな猫を探すことにします。
「カウリスマキ、小津を語る」
ヘルシンキで見つけた猫。残念ながら、本物の小さな猫にはまだ出会っていません。