翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。2025年夏、ガルシア=マルケスの聖地巡礼でコロンビアへ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで四刷になりました。

上海のおのぼりさん

上海は東京から飛行機で2時間半ほどの距離。こんなに近いのなら、もっと行っておくべきでした。

 

Alipayで地下鉄に乗車できて一安心。繁華街の南京東路で降りました。

地上に出ると、広々とした道にまばゆいほどの照明。東京の銀座とは比べ物にならないほどのスケールの大きさです。

 

外灘(バンド)まで出ると西洋風の重厚な建物がライトアップされていました。ヨーロッパでも、これほどゴージャスな景観の都市はめったにありません。

 

都会に出てきた田舎のネズミ状態。見るものすべてにびっくりするおのぼりさんです。

そこで目に入ったのがこの看板。

サンリオのショップがあるんだ! 「可愛」は国境を超える! 小学生のときからサンリオに夢中で60代になっても文具をコレクションしています。中央に陣取ったハンギョドンに励まされる日が来るなんて想像もしていませんでした。

 

そして、上海と言えば蟹。街中で見かける「蟹小籠包」「蟹黄麺」の看板。

観光客でも入りやすそうな店に行ってみました。

メニューが貼ってある受付の女性に注文するのではなく、とにかくテーブルに行くようにと言われました。英語ではなく中国語でしたが、身振りで何となくわかります。

テーブルに貼られているQRコードを読み取ると、中国語の表示が出ただけで先に進めません。しかたなく受付に戻って画面を見せると、まずAlipayのアプリを開いてそこから注文する方法を教えてくれました。「謝謝」とお礼を言うと、にっこり笑顔に。日本みたいな丁寧さはありませんが、過不足のない対応です。

 

テーブルからの注文して支払いも済ませると、厨房から料理が運ばれてきます。

欧米のようにチップを考えなくていいし、飲み物は無料の白湯を自分で取りに行けました。なんという明朗会計!

売上がすべて把握されるのだから、脱税もできないでしょう。政府にすべての情報が筒抜けなのは怖いようでいて、不正がなくなります。

財布やクレジットカードを持ち歩かずにすむのでスリやかっぱらいの心配もありません。Alipayの支払いにはコード入力が求められるので、盗んだスマホで買い物をするのは困難。そして、徹底的な管理社会の中国で犯罪歴が付くのは致命的なので、前科者はラオスとかカンボジアで活動しているのではないでしょうか。

 

その後、地下鉄でQRコードの読み取りがちゃんとできてなくて改札から出られなくなったこともありましたが、あわてて窓口に行くと若い職員は英語で対応してくれました。あれこれ恐れていたけれど、まさに「杞憂」だったわけです。外国人旅行者にとっては、東京より断然、上海のほうがスムーズでしょう。

 

上海の旅は入って来た情報量が多すぎて、まだ整理できていない状態。日本との関係はむずかしい局面のようですが、旅人が自由に行き来できる世界が続くことを願っています。

 

上海、財布を持たない旅

上海を旅してきました。JALのチケットを買ったのは、日中関係がこじれる前のことです。上海は昔から国際都市ですから、反日感情がストレートに向けられることはありません。

それよりも気がかりだったのは、完全キャッシュレスへの対応です。現金がほとんど使われていない上海で買い物をしたり地下鉄に乗ったりできるでしょうか。

出国前にAlipayのアプリをスマホに登録し、パスポートやクレジットカードと紐付けました。「個人情報が中国に盗まれる!」と危惧する人もいるでしょうが、仕事もろくにしていない観光客の情報なんて何の役にも立たないはずです。

支払い用のQRコードが表示できるようになりましたが、本当に使えるのか。

試しにAlipay対応の日本の店で使ってみたかったのですが、訪日中国人専用で日本人が日本国内で使うことはできないようです。出発直前に、上海の地下鉄には買い物用とは別の専用QRコードが必要と知りあわてて準備しました。

 

そんなわけで、羽田から上海浦東(プードン)空港への機内では落ち着かない気持ちでした。

Alipayが使えなければ、空港からホテルまで配車アプリを使い、食事はホテルのレストランで食べて宿泊費と合わせてクレジットカード払いをすれば飢えることはないと最悪の場合を想定しました。パッケージツアーにすればこんな気苦労はないでしょうが、旅した実感が得られませんし、異国の地で直接やり取りしたいのです。

 

機内で読んだのがパール・バック『大地』。

貧しい農夫だった王龍は働き者の妻の阿蘭と共に身を粉にして働き、お金を貯めては土地を買います。銀行なんてありませんから、収穫を売って得た銀貨は寝台の後ろの壁に穴を掘って中に入れ、泥で塗りつぶして保管。ようやく豊かになってきたかと思えば飢饉の年が来て、一家6人は餓死を免れるために南の豊かな都市へ。銀貨2枚で汽車賃を払い、お釣りの銅貨でパンとお粥を買います。都市に着いたら、雨露をしのぐ小屋がけをするためにむしろを6枚購入。阿蘭と幼い子供たち、老いた父は物乞いをして小銭を稼ぎ、王龍は人力車を借りて車引きに。一日の借り賃は銀貨半枚分です。

こんな物語の舞台となった国に、まったく現金を持たずに旅をするとは!

 

浦東空港に着陸したら、まずスマホのeSIM を切り替えて中国政府から送信された入国許可のQRコードを表示。入国審査の外国人用列に向かうと、その場で入国申請をしている欧米系の旅行者たちがいました。なんと呑気なことかと思いましたが、QR コードは申請後すぐに送られてくるので、問題ないのでしょう。

無事に入国でき、配車アプリで一気にホテルまで行きたいところ。ウーバーは使えず、Alipayに入っているDiDiを使うのですが、駐車場が広すぎて待機スポットがわからず、地下鉄にしました。祈るような気持ちで上海メトロのQRコードを改札にかざしてゲートがすっと開いた時、本当の意味で中国入国が許可された気持ちになりました。

 

ホテルは明代の庭園で上海の観光スポットである豫園の近く。中国式の庭園の周囲に華やかな商店街(商城)が広がります。右手前が豫園商城。中国風建築の背後に広がるのが外灘(バンド)の高層ビル。

 

日が暮れると目を見張るような夜景が広がります。

推し宿に課金

推しという言葉が一般的になって、推しを持たない人生はつまらないという風潮です。ただし、推しへの愛があまりにも強くなって課金が過ぎると生活が圧迫されます。

BTSを推しているようでいて、ほとんど課金していない私。ダンスからハマったので、曲だけを聴くことはなくyoutubeの視聴がほとんどです。CMが入るのがいやでyoutubeプレミアムに加入したぐらい。ソウルや釜山の聖地巡礼にはよく行きますが、旅のついでといった感じです。

ライブの抽選に申し込もうかとも思ったのですが、知り合いがJ-HOPEの埼玉アリーナ公演のVIP席に当選し、大喜びで出かけたら隣の客がすべての曲を大声で一緒に歌いさんざんだったと聞きました。

作家の推しは本を買う程度だから金銭的負担はそれほどありません。昨年はガルシア=マルケス押しが高じてコロンビアまで出かけしたが、これも旅行の一種です。

 

女性一人で温泉を楽しむという本を読んでいたら「推し宿に課金」という言葉が出てきました。私がお金をかけるのはこれだ!

 

今のところ、一番の推し宿は新潟・栃尾又温泉の自在館。

初めて訪れたのは一昨年の11月。

bob0524.hatenablog.com

 

お湯と食事がすばらしくて、すぐに再訪したかったのですが、人気の宿なので一人部屋の連泊がなかなか取れず、二度目はほぼ一年後になってしまいました。この時は地元の住職による坐禅会にも参加。

bob0524.hatenablog.com

 

一年に一回のペースではなく、定期的に泊まることにして、お正月明けに4泊5日で行ってきました。

 

東京ではそろそろ杉花粉が飛び始めます。自在館は杉の木に囲まれていますが、雪が積もっていれば花粉は飛ばないので、花粉症の症状は出ませんでした。

 

ぬる湯は冬用に温度調整され寒すぎることはありませんでした。離れの大浴場に行くには一度外に出なくてはいけないので、凍結した雪道が不安でしたが、ドーム状の屋根にすっぽり覆われていました。

4泊5日、どこにも行かず、ひたすらお湯に入るだけ。食事は遅めの朝食と早めの夕食の一日二食で済ました。

山奥の温泉まで来て鮪の刺身や海老の天ぷらを食べるるのはあまり気が進みません。その点、自在館の食事は日替わりの湯治食。毎日メニューが変わるので連泊しても飽きません。

雪景色を眺めながら朝ご飯。

魚沼産コシヒカリが美味し過ぎて、つい食べ過ぎるのが難点。

 

お湯も食事もまさに私の理想。宿の人はみんな感じがいいのですが、必要以上のサービスはせずほったらかしてくれるのも心地いい。おひとり様が多いので食堂でも孤独感は感じません。大浴場では会話もなく一人一人が静かにお湯に向き合っています。

湯治の宿なので体の悪いところを治す目的で来ている人が大半でしょうが、私はアルコール断ち。朝も昼も夜もぬる湯に延々と入りたいので、お酒を飲んでいる暇がありません。アルコール依存症で精神科に強制入院となるぐらいなら、自在館で暮らせばいいのでは? 先のない高齢者のどうしようもない病気のために社会保障費を負担してもらうぐらいなら、自在館に自費で長期滞在するほうがずっといい。これからはもっと頻繁に来ようと誓いました。

 

推し宿から高齢者の医療費負担減まで妄想が広がりましたが、このすばらしい宿をひたすら推したい。人気があるのでなくなることはないでしょうが、光熱費、食材、人件費の高騰でちゃんと利益が確保できているのか心配です。高いお酒や追加料金で課金できないので、一泊でも多く連泊し、ファンレターのつもりで「お客様の声」を書いて渡してきました。

コロンビアで出会ったベネズエラ人

お正月気分を吹き飛ばしたアメリカによるベネズエラ攻撃。

昨年夏のコロンビア旅行は、無事に帰国できるか不安がありました。麻薬カルテルは衰退し政府との交渉のために外国人を誘拐することはなくなったと聞いたのですが、新たな危険は隣国のベネズエラから入国する不法移民。失うもののない彼らは旅行者を襲って金品を強奪することもあるでしょう。現地のガイドさんから、歩きスマホは控えるようにと忠告されました。

実際に行ってみると危険なことはなく、コロンビアの人は親切で明るい印象しか持ちませんでした。私が訪れたのはベネズエラ国境と離れたボゴタカルタヘナ、アラカタカだったから。経済破綻で極度の貧困に陥ったベネズエラ人にとって、文化も言語も似ている隣国は真っ先に考える避難先でしょう。

 

ボゴタのエルドラド国際空港に到着したのは深夜近く。ホテルのシャトルバスの最終便に乗る予定でしたが、乗り遅れたら自力でタクシーに乗るしかありません。バス乗り場には複数のホテルのシャトルバスが乗り入れています。待っている乗客に声をかけ、同じホテルに行く人を探したところ、親切そうな夫婦が「安心して、私たちと同じ」と声をかけてくれました。これで一安心。スペイン語を話しているので、コロンビア人だとばかり思ったら、ヨーロッパ旅行帰りのベネズエラ人で首都のカラカスに住んでいるとのこと。

え、ベネズエラって経済が破綻しているんじゃないの、と不思議でしたが黙っておきました。とりあえず政権が続いているのですから、体制側にいる人は夏のバカンスも楽しめるのでしょう。

 

そしてカルタヘナのホテルのルーフトップバーでもベネズエラ人に会いました。

カリブ海に沈む夕日を見ながら白ワイン。カウンターで隣に座った男性の息子さんが日本のアニメ好きで、親子で日本旅行も楽しんだと聞き、会話が弾みました。話の途中で息子さんはすでに亡くなっていると知り、言葉を失う私。「いいんだよ、いいんだよ、日本人と思い出話ができてあいつもきっと喜んでいるだろう」と返されました。

この人もユーモアがあって温厚で、経済的にもゆとりがありそう。とても経済が破綻した国の人だとは思えませんでした。

 

トランプ大統領の決断は許されるべきではないとされる一方で、豊かな資源に恵まれたベネズエラの国民が壊滅的な政治によってどれほど酷い状況に置かれていたかも報じられています。

私がコロンビアで会ったベネズエラ人は政府側でしょうが国民を苦しめる極悪非道の人ではありませんでした。一人一人の人格がどうであっても、体制に巻き込まれると個人にはなすすべはありません。ハンナ・アーレントの説く「凡庸な悪」。第二次世界大戦中のドイツでユダヤ人迫害に関わったナチスの幹部は組織の歯車として無自覚に命令に従っただけの平凡な人々でした。

 

ボゴタシモン・ボリバル広場。

思い立ったらどこでも自由に旅に出られるような平和な世界でありますように。

天山湯治郷の羽衣で3泊4日

毎年12月には、箱根の天山湯治郷の羽衣に行くことにしています。

tenzan.jp

箱根は人気の温泉地でインバウンド客も多く、高級な旅館が並びます。ひなびた湯治宿が好みですが、そもそも一人でも泊まれる宿はそう多くなく、羽衣は貴重な存在です。

基本が3泊4日で予約は電話のみ。木曜が定休日なので、金土日か月火水の3泊となります。週末のほうが混むだろうから月曜からの3泊にしています。予約は3か月前からの受け付けなので、12月に泊まりたい場合は9月に電話します。ご常連はチェックアウトの際に次の予約をしていくと聞きました。3か月ごとに泊まっているのでしょう。そして、直前で空きがあれば1泊でも泊めてもらえるそうです。

 

料金は朝食付きで2名で泊まると1泊目が12000円、2泊目が11000円、3泊目が10000円と連泊するごとに1000円ずつ安くなります。一人泊だと2000円アップ。夕食は1980円で玄米菜食の定食をお願いできます。

 

この宿に毎年来たくなるのは、食事が好みにぴったり合っているから。音楽や本は徹底的に洋物好きなのに、食事は和食派で薄味が好きです。

ある日の夕食。お椀は揚げ豆腐と白菜、椎茸、ねぎ。小鉢は胡麻豆腐。酢の物はモロヘイヤ、長芋、オクラ。煮物は蓮根まんじゅう、ニンジン、きくらげ、エリンギ。揚げ物はトンカツのように見えて、車麩のフライです。ご飯は岡山産の玄米。

 

朝食には魚料理が出ます。火をつけてもらうのは湯豆腐。遅めの9時15分を選ぶと、お昼になってもお腹がすかず、6時の夕食前にちょうどいい空腹に。一日二食で済ませています。

羽衣に泊まると、日帰りの「天山」「一休」に入り放題ですが、時間帯によってはかなり混んでいるので、羽衣館内の温泉によく入りました。ちょっと熱めのお湯ですが、窓から入る12月の箱根の冷気に当たるとちょうどいい交互浴になります。

 

同じ時期に滞在した女性3人は90歳の仲良しグループ。一人だけ東京で二人は西日本から。90代になっても誘い合わせて温泉に来るなんてすばらしい。東京の女性は、たまたま私と同じ杉並区の人で、10年待ちの高齢者施設に入所。介護不要の自立した高齢者向けで、旅行も外出も自由だとか。私も今から申し込んでおこうかと思ったくらいです。

 

温泉の記事を読んでいたら「推し宿に課金する」という言葉が出てきました。このところのインフレなのに、昨年と同じ料金で大丈夫なのかと心配になります。部屋の大きさは同じなのに一人泊だとその分利益が減り、かえって迷惑になっているのかもしれません。

宿の人によると、お正月と連休中は一人泊を受け付けていないけれど、それ以外ならおひとり様が大歓迎とのこと。むしろお断りなのは、団体で盛り上がる騒々しい客のようです。天山湯治郷は人気の日帰り施設ですから、そちらで利益を確保し、小さな湯治宿には機嫌よく静かに過ごしている客がいればそれでいいのかもしれません。

 

来年の12月も、羽衣で3泊できるといいのですが。気に入った温泉宿をローテーションで回すような一年が理想です。