翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

根無し草のように生きる

次はどこにワーケーションに行こうかとOtellのサイトを見ていると、伊東に移住を考えている人には補助金が出るとありました。

otell.jp

先月訪れた島根の温泉津(ゆのつ)は地域が一丸となって移住者を歓迎しているようす。若い人による個性的な店があちこちにできていました。

そんな人「ほぼ毎年、島根を訪れている」と話すと、「それならいっそのこと移住してみては?」と声がかかりました。

 

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石垣島のウォーキングツアーでお世話になった「ゆんたくガーデン」も移住を推進している一般社団法人でした。案内してくださったからも東京出身でした。

ツアーの終わりに「今夜、移住説明会がありますよ」と誘われました。一人で気ままな暮らすような旅をしていると、移住希望者に見えるのかもしれません。

 

 

日本の人口が急激に減少していくなか、自治体間で移住者の取り合いが起こっているようです。このままのペースだと消滅する市町村も出てくるでしょう。「先祖から受け継いだ土地を子孫に残していく」という従来の価値観は行き詰り、資産価値が低く売却できず、所有しているだけで負担が生じる「負動産」だらけとなるのでしょうか。

 

もっと若かったら移住を考えたかもしれませんが、高齢になってからの移住は地域に貢献するどころか負担をかけるばかりです。それに車の運転ができないと地方暮らしは厳しそう。

東京の住まいを引き払う予定はありませんが、マンションのローンを完済したからといってあの世に持っていけるものではありません。とりあえず生きている間だけの仮の宿。自由に動ける体力があるうちは、根無し草のようにあちこちを旅して暮らすつもりです。

いつまでも都会に暮らしたいと願っても、加齢により自立した生活ができなくなれば、むずかしくなるかもしれません。持ち物を減らし、フットワークを軽くしてどこでもふらっと移れるようにしておくのが理想です。

猫と温泉とワーケーション

温泉の長期滞在にぴったりのサイトを見つけました。

otell.jp

平日のおひとり様食事なしの連泊。部屋の掃除もありません。ワーケーションを銘打っているので、Wi-Fiとデスクが完備されています。

温泉宿の稼働は週末や祝日が多く、どこも人出不足です。空いている部屋をワーケーションに貸し出せば、宿側は手間がかかりません。

 

早速登録して、伊東の暖香園に月曜日から金曜日まで滞在してみました。伊東は東京からアクセスがいいし、2月の寒い時期に「暖香園」という名前が魅力的です。料金は4泊5日で27,280円と入湯税4日分600円でした。

 

ベッド2つの広々としたツインルーム。押入れを改装したスペースに仕事用のデスクとチェア。これは仕事がはかどりそうです。

リタイアしつつあるのですが、会社勤めと違って自由業は発注があれば細々と仕事を続けることになります。温泉の合間にパソコンに向かうのにちょうどいい仕事量です。

ワーケーションなので眺望は不要ということで1階の部屋になったのでしょうが、女性浴場のすぐ脇でした。内風呂と露天だけでサウナと水風呂はありませんが、気軽に温泉に入って出ることができます。団体向けのホテルらしく、平日はほとんど貸し切り状態でした。

 

そして伊東の暖香園を選んだのは、駅から徒歩圏で食事の場所にも困らないからです。宿の近くにコンビニも、ファミリーレストランもあります。

 

朝風呂を浴びたら、海岸のほうへ向かいます。目指すは干物屋さんの杉国商店。好きな干物を選んで焼いてもらい、ご飯セットで朝食になります。

 

店内に三毛猫の姿が。看板猫のみーちゃんです。

店の方には奥の席を勧められたのですが、せっかくなのでみーちゃんと相席に。

「猫、お好きなんですか?」

「はい、大好きです。堂々として、立派な招き猫ですね」とみーちゃんを褒めると、注文したアジの干物にみりん干しもおまけしてくれました。

 

みーちゃんは干物が焼けたおいしそうな匂いにも動じず、じっと外を見ています。干物屋の看板猫がお腹を空かせて、売り物に手を出すようでは困ります。たっぷりご飯をもらっているのでしょう。お店の方は、みーちゃんにお金をたっぷりかけていると話していましたが、肥満による生活習慣病の治療かもしれません。

宿に戻って少し仕事をして、午後1時に大浴場が開くので一番風呂へ。仕事はそんなに詰まっていないので、読書やNetflixの時間もたっぷりとれました。

 

温泉地に別荘を買う人もいますが、自宅以外に掃除や維持管理の手間と費用がかかるのは大変そう。格安料金の温泉宿連泊プランを利用するのはなかなかいい方法です。仕事から完全にリタイアしてもワーケーションと偽って利用させてもらうかもしれません。

 

睡蓮の葉の上の蛙

英国人ジャーナリスト、オリバー・バークマンの著作がおもしろくて、次々と読んでいます。

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『限りある時間の使い方』は目の覚めるような発見に満ちていました。そして『ネガティブ思考こそ最高のスキル』は哲学や仏教の教えを現代風に噛み砕いています。

 

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原題"amtidote"は解毒剤。副題に"Happiness for peope who can't stand positive thinking"とあり、自己啓発書の説くポジティブ思考に疲れた人々に平安をもたらす書といったところでしょうか。

 

この数十年間、仕事中心の日々を送ってきた私は、リタイア後の生活にうまく適応できていません。締切や目標、ゴールのない状態に慣れていないのです。

何もしないでぬくぬくと暮らしている罪悪感をやわらげてくれたのが、この本の「目標は危ない」という章。明確なゴールを設定し、人生をコントロールしようとするのは苦しいだけ。生き方は苦しいだけ。不確実な状態に耐える力、あるいは不確実」という

 

ティーヴ・シャピロというアメリカ人のビジネスコンサルタントが登場します。かつては「ゴール中毒」の重症患者で、目標をたっせするために狂気じみた日々を送っていました。

彼が変わるきっかけとなったのは、ある友人との会話。

「あなたは、将来について多くのことを考え、エネルギーを使い過ぎている」と指摘し、自分を蛙のように思うようアドバイスしたのです。

睡蓮の葉の上で飽きるまで日向ぼっこをしなさい。退屈したら、別の睡蓮の葉に移り、しばらくそこで時間を過ごしなさい。これを、何度も何度も繰り返して、気の向く方向に動き回りなさい。

成果を求めて突き進み、喜びを味わうのを計画達成まで先延ばしするのではなく、今現在を楽しむ姿を象徴するのが蛙です。

 

蛙と睡蓮のイメージが頭の中に広がりました。

旅に出るのは、睡蓮の葉を移動するため。日常生活でも、スポーツクラブのダンススタジオや八百屋さんの店先がそれぞれ睡蓮の葉なんだと思うことにしました。どの葉の上でもリラックスして、その瞬間を楽しみたいものです。

 

「縦の旅行」ができているか

引き続き玉村豊男の『旅する人』からのエピソード。

日本にやってくる外国人観光客のツアーガイドのアルバイトを始めた時、先輩からこんなアドバイスがあったそうです。

 

要は、金魚の入った金魚鉢を、水もこぼさず金魚も殺さずにA地点からB地点に運ぶことなんだよ。

 

バス一台をまかされ、外国人観光客30~40人をまとめてお世話。観光案内でなく食事や買い物などすべての行動の相談相手になります。

せっかく日本まで来たからあれもこれもと詰め込んでも、客にとっては有難迷惑。特にアメリカの観光客は高齢者が多いので疲れると体調を崩しがち。とにかく到着した空港から出発する空港まで平穏無事に過ごさせるのが最適なサービスだというのです。

 

これは日本人の海外パックツアーも同じようなもの。異国は言葉も通じないし危険なこともあるけれど、添乗員と一緒にバスの中にいる限りは無事に旅ができます。玉村豊男はサファリツアーのライオンバスにたとえています。

 

 もしも本当にライオンの姿をこの目で見、その存在を感じようとするのなら、少なくともバスから降りてライオンたちがいるのと同じ平面に立ち、ライオンたちが吸っているのと同じ空気を吸わなければいけないだろう。しかし、それは危険である。人々はそれよりも、安全で、快適な、日頃慣れ親しんでいる環境にできるだけ近い空間の中に身を置きながら、ただライオンを間近に目撃したことを証明する記録を持ち帰りたいと願っているだけなのである。

 

金魚鉢やライオンバスから外に出る旅を常に目指してきました。基本的に一人旅で、交通機関や宿も自分で手配します。

 

スペイン巡礼の道標の上にいた猫。

昨年秋の7週間にわたるスペイン巡礼は、私にとって旅の集大成のような体験でした。アルベルゲ(巡礼宿)やバルで誰かと一緒になることはよくありましたが、基本的に一人で歩き通したことで大きな充実感を得て、多くの出会いに恵まれました。

 

しかし、見聞を深めたようでいて、私は同じところをぐるぐる回っていただけではないかという気もするのです。

 

先日の関東地方の大雪。高速道路が通行止めになって、トラックの運転手さんたちは20時間近く車内で待機しているとニュースで伝えていました。雪で交通が混乱するからといって、契約の理由などで休むという選択は許されないのでしょう。室内で何不自由なくぬくぬくと過ごしているのが申し訳ないのですが、現代の快適で便利な生活はこうした人々の働きによって支えられていて、こんな状況にならないと可視化されないのです。

カズオ・イシグロが「地域を超える『横の旅行』ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かを知る『縦の旅行』が必要だ」と述べています。近所に住んでいてもまったく世界に住んでいる人のことを知るべきだと。

世界一周をするよりも、日々起こっていることの背景に思いを馳せるほうが、深く世界を認識できるのかもしれません。

 

幅広いジャンルの読書も一つの助けとなります。

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旅のスタイル

今年はウィークデーを中心になるべく旅に出るようにしていますが、いわゆる観光のようなことはあまりせず、旅先でも日常の延長のように過ごしています。若い頃に読んだ玉村豊男『旅する人』の影響です。

 

パリ大学言語学研究所に入学後、東京大学仏文科卒の玉村豊男は毎年のようにパリを訪れるのですが、有名な教会や寺院、博物館や美術館などの観光名所にはほとんど行かなくなったそうです。

 考えてみると、日本で暮らしているときに、連日お寺や教会ばかり訪ね歩いている人はまずいまい。

 美術館博物館にばかり毎日通っている人も滅多にいないだろう。いるとすれば模写中の画家か美術評論家くらいのものだ。

 ごく普通の人は、仕事場と自宅のあいだを往復し、そのどちらかに近いところで毎日の買物をしたり一杯飲んだり、要するにごく狭い限られた範囲の中で生活している。その生活が、一年三六五日の大半を占めている。そういう人が、外国へ行ったからといって、突然お寺ばかり巡り歩くのはおかしいではないか。三日で五か所の遺跡を見るのは、不自然ではないか。

 

だったら旅先で何をするのか。

玉村豊男は、ふだんやっていることを旅先でやってみるそうです。ふだんやっていることとは、家の周りを散歩したり近所の喫茶店で本を読んだり、駅前の飲み屋で一杯やるなど。旅先で自分の住んでいる街のように行動してみると、「文化や環境のかたちが肌身に滲みるように即物的に理解できる」と書かれています。

 

そのためにもできるだけ荷物は軽くします。キャスター付きのキャリーバッグは、いかにも旅行者然としているので、海外旅行でも使いません。これも玉村豊男の影響です。

私がキャスターつきのトランクを嫌う理由は、せめて旅をするときくらいは、自分の生活のために必要なものは自分の手でしっかりと持ちたいからである。

 

年を取って体力が衰えて、旅行の荷物を自分で持てないようになったら、旅を卒業するタイミングです。

 

今週はJALの「どこかにマイル」で石垣島へ。たしかウラナイ8の玉紀さんが初めての「どこかにマイル」で石垣島へ行ったはずですが、私にも当たりました。先週は島根で雪に囲まれていたというのに、石垣島は季節外れの陽気でTシャツ一枚で十分でした。

荷物はこれだけ。「旅行というより、隣町に来たみたい」と友人に驚かれたことがあります。スペインの7週間の巡礼でも機内に持ち込めるバックパックに必要最低限のものを詰めましたが、空港では巨大なスーツケースと山のようなお土産物を運ぶ乗客が大多数でした。