釜山が外国人旅行者に親切なのは、2030年の万博を控えているかもしれません。
誘致のための広報大使を務めたのはBTS。メンバー7人のうちジミンとジョングクが釜山出身です。
二人のゆかりの場所を巡る聖地ツアーに申込みました。英語のツアーなので、世界中からやってくるARMYと交流するのもおもしろそうだったから。
ところが、最少催行人数まで集まらなかったため、キャンセルになりました。そこで、ツアーで紹介されていた聖地に自力で行くことにしました。
まず目指したのが、書洞迷路市場。ジミンが中学校の帰りにによく寄っていたと「マンナブンシク」という店があります。
「迷路」と名前の通り、細い通りに食品や日用品の小さな店がずらりと並んでいる市場です。
地下鉄やバスで市場まで来ても、お目当ての店を探し当てる自信がないのでタクシーで行くことに。乗り込む前に運転手さんに店の名前と住所を見せると、困り顔。やっぱりむずかしいのかとあきらめかけていたら、「乗ってください」というジェスチャー。
温和そうな初老の運転手さん。ナビに住所を入力し慎重に車を進めて行きます。何か所かある市場の入口ではなく、路地の脇に車を止めました。どうやら一番近い場所まで来てくれたようです。「ここに、あります」と運転手さんから日本語が!
「あります」「います」を区別するのは日本語だけで、外国人学生たちは「鈴木さんがあります」「駅がいます」といった間違いをしがちですが、運転手という職業がらか「あります」をちゃんと言えるように学んだのかもしれません。
路地を通って市場に入り、あとは店の番号を頼りに「マンナブンシク」を探しました。ここかなと思って店の前に立つと、「何を探しているの?」と声がかかります。店の名前と住所のメモを見せると「ここ!」と満面の笑顔。韓国語はわからないけれど表情が豊かだから、だいたい通じます。
愛想のいい女性二人が切り盛りしている小さな店。個人客がわざわざ店を探して来たことをとても喜んでいるようで、団体ツアーでどっと押し寄せるよりよかったと思いました。
ハングル語のメニューしかないので、ネットの写真を見せて注文しました。
手前の卵料理がジミンの大好物だというケランマンドゥ。白滝を卵でとじたもので、1500ウォン(約150円)。キンパ(韓国風海苔巻き)やニラ焼きも頼んでも合計で500円もしませんでした。育ち盛りの中学生が学校帰りに立ち寄るような気軽な店です。店内で食べるほか、持ち帰りで注文する人も。関西の庶民的なタコ焼き屋に近い感じでしょうか。
ケラマンドゥは軽い塩味。たれをつけずにそのままで素朴なおいしさを味わいました。白滝で卵をかさ増ししている節約料理の一種で、白滝の替わりにモヤシを使ってもよさそう。
今や世界に誇るスーパースターのジミンですが、これを食べていた頃は進路に悩んでいた中学生。親からは安定した職業を望まれていましたが、担任の先生の説得で釜山芸術高校へ進学。優秀な成績で首席入学だったとか。
ジミンたちの華やかな成功の影で夢が果たせなかった人もいます。選抜に残れず家に帰され、今は公務員となっている元練習生のキム・ジフンさん。BTSの7人とそう大きな差はなかったはずですが、小さな差が人生を大きく変えたのです。
スターの聖地巡礼なんて、軽薄そのもののようですが、人生の巡り合わせについて考えさせらる貴重なスポットです。はるばるスペインの聖地を目指す巡礼に出ようとしている私ですが、聖地は世界中どこにでもあると実感しました。