翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

易はスーパー・クール

12月が近づくと、そわそわしてきます。組織に属さずフリーランスで働いている私は、年の瀬だからといって特にあわただしいわけではありません。冬至が近づいてくるからです。

六つの陰陽を重ねて占う易者は、陰が極まって陽に転じる冬至の日に、易(年筮)を立てます。
易を学び始めて以来、冬至に立てる年筮は、一年の指針となってきました。

私にとって占いの中で一番おもしろいのは易ですが、易の世界は奥深く、一生かかっても学びきれないでしょう。
それでも、得られた卦の意味を探るうちに、易神からのメッセージに触れたと感じられる一瞬は、大きな感動をもたらします。

年筮以外にも、決断を下すときは易を立てます。
今年は、日本語を学ぶフィンランド人学生のヘンリク君をホームステイで受け入れるかどうか易を立ててみました。
それまでカウチサーフィンを通して外国人旅行者をホストしてきたものの、数日間のことです。18歳の学生を3週間も預かり、毎日学校に送り出すなんて、最初は断ろうかと思ったものです。
でも、易の卦から「やってみれば、世界が広がる」と読めたので、思いきって引き受けてみました。

ヘンリク君はフィリップ・K・ディックの『高い城の男』を読み、「自分の知らない世界がこんなに広いことに驚いた」そうです。
d.hatena.ne.jp

「日本人はみんな易(I-ching)を立てるの?」とヘンリク君。
「まさか、それはあのSF小説の中だけ。現実の日本では、ごく一部の人しか易をやっていない。そういえば、あなたの学校からホームステイの打診があった時、もちろん私は易を立てた」
「それでどうだった?」
「易神があなたをホストするべきだと告げたから、あなたがここにいるわけ」
「それはスーパー・クールだ!」

西洋人からすると、易はスーパー・クールか。それこそ学び甲斐があるというものです。

ボブ・ディランの「愚かな風(Idiot Wind)」に「占い師に『雷に打たれるかもしれないから気をつけろ』と言われた」いう歌詞があります。
I ran into the fortune-teller, who said beware of lightning that might strike you.
(雷はthunderだと思っていたのですが、英語では雷の光はlightning、音はthunderと区別するそうです。)

ディラン先生は歌うたびに歌詞を変えることが多いのですが、ブートレク・シリーズに収録されたバージョンでは、自分で易を立てています。

I threw the I-Ching yesterday,it said there'd be some thunder at the well.

threwとあるので、筮竹ではなくコインかサイコロを振ったのでしょう。
得られた卦は雷と井戸。六十四卦には水風井(すいふうせい)という井戸の卦もありますが、雷が入っていません。八卦で水を示すのは、兌(沢)と坎(水)ですが、井戸の水は流れず止まっていますから、沢のほうでしょう。となると、雷と沢の組み合わせで沢雷随(たくらいずい)あるいは雷沢帰妹(らいたくきまい)。
Idiot Windが世間に吹聴される愚かな噂がテーマなので、沢雷随のほうがぴったりきます。「君は愚かだ、息をする方法を知っているなんてびっくりだ」というフレーズからも、「沢」が象徴する少々頭の弱い女の子のイメージにもぴったりきます。

西洋人に易を教えることができたらおもしろいと考えていた頃もありましたが、ジャンルを絞りすぎていて生徒が集まりそうにありません。日本語だったら需要はあるはずと日本語教師の養成講座に通い始めたわけですが、この決断および学校選びもすべて易を立てました。

そして、今年の冬至(12月22日)は特別な日となりそうです。
天海玉紀さんのおかげで、ウラナイ・トナカイで易の簡単な説明と実際に年筮を立てる講座が企画中。参加者の方々と易の世界を覗いてみるのが、とても楽しみです。


ボブ・ディランが得た?「沢雷随」。