翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

一人旅の勇気

2013年、癸巳(みずのとみ)の年。
東洋占術では、2月4日の立春で年の干支が新しくなるのですが、一気に切り替わるのではなく、徐々に壬辰の気が退化して、癸巳に取って代わられつつあります。

癸巳の年には、変化のスピードが加速して、これまでと同じ生き方を続けようとしてもうまくいかないでしょう。

人生は旅にたとえられることが多いのですが、お仕着せのパックツアーではなく、航空券やホテルも自分で手配する旅をしなくてはいけなくなるような年になります。
パスポートは自己責任で管理。英語ができなければ、旅先でファストフードを食べるしかありませんし、行きたいところにも行けません。一方、ハイテク機器を駆使する人は、最新の情報を得て効率的な旅ができます。情報を得るだけでなく、自分の頭で考えることがますます重要になってきます。

昨年末からカウチサーフィンを始めて、旅人に接する機会が増えたので、そんなふうに考えるようになりました。

人生は、基本的に一人旅です。
「私は結婚しているから、一人旅じゃない」と考える人もいるかもしれませんが、「おひとりさまの老後」で上野千鶴子が指摘している通り、夫婦は同時に亡くなるわけではなく、男性より女性は平均寿命が長く、年上の男性と結婚しているケースが多いので、ほとんどの女性は最終的に一人旅になってしまうのです。

今思えば、私の人生の方向づけたのは、30年以上前のアイルランド一人旅。
この旅を経験したことで、組織で働くのではなくフリーランスでやっていく踏ん切りがつきました。

当時はカウチサーフィンはおろか、ネットも携帯電話もなくて、なんとも心もとない思いをしたものです。
旅程は3ヶ月だったのですが、途中で日本に帰りたいと思ったこともしばしば。

幸い、アイルランド人はフレンドリーで親切な人が多く、楽しい思い出もたくさんあります。

今思えば、カウチサーフィンの原型のようなことも体験しました。

アイルランド島の西、 ゴールウェイ湾に浮かぶアラン諸島のイニシュマン島を訪れた時のこと。島にはB&Bが1軒しかなく、レストランもパブもないので、一日三食B&Bで食べます。
島に滞在している観光客は宿の定員である8人ほど。東洋人は私一人でした。
客同士で自然に親しくなり、ダブリン在住のマーフィー夫妻は「一人旅じゃ大変でしょう。ダブリンではぜひ我が家に泊まって」と声をかけてくれました。

最初は、見知らぬ人の家に泊まるなんて、と思いました。
マーフィー氏は陽気で話好きな典型的アイリッシュ。マーフィー夫人は若い頃、ロンドンで学んでいて、大使館関係の日本人の家に招待されて天婦羅をごちそうになったこと、衛星放送で相撲中継を見るのが好きだと話してくれました。

それならお言葉に甘えてみようかな、とお宅に行ってみると、バストイレ付きの客室のある豪邸でした。マーフィー氏はアメリカ系の大手製薬会社の重役でした。

それからの旅は、ぐっと楽になりました。
アイルランドの面積は北海道と同じぐらいです。北アイルランドも含めて国中あちこちに足を伸ばし、旅に疲れたらダブリンに帰ってマーフィーさんのところで英気を養えます。実際にはそんなにちょくちょくお世話になったわけではないのですが、そういう知り合いがいるというだけで、気持ちが楽になります。

2011年、東日本大震災のニュースを目にしたマーフィー夫妻は「アイルランド西海岸の別荘に、好きなだけ滞在していいから」と声をかけていただいたのですが、「東京は大丈夫だから」と丁寧に辞退しました。

私がカウチサーフィンで出会いたいのも、一人で日本を旅する人。
二人旅なら異国を旅しても、お互いに母語で話し、助けあうことができます。
あえて一人旅を選び、ストレートに異文化の中に入ってみる勇気のある人に、ささやかな助けの手を差し伸べたいのです。

それがマーフィーさんから受けた恩を返すことになるし、異国の旅人と接することで、私も一人旅に出る勇気をもらえるはずです。