翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。

凡庸な悟りと凡庸な悪 映画『家へ帰ろう』

東京・バンコク間は空路で6時間強。

行きは深夜便なのでなるべく寝るようにして、帰りは朝便なので機内エンターテインメントの映画を見ます。わざわざ映画館まで行かないけれど、ちょっと興味のある映画を見るチャンスです。

 

選んだのがこの映画。

 新聞で映画評を読んで観たいとは思っていたのですが、テーマが重すぎます。

ホロコーストを生き延びたユダヤ人少年のアブラハムがアルゼンチンに渡り、88歳の老人となってポーランドの恩人に会いに行くロードムービー

 

突っ込みどころはあります。

このSNS時代に70年間も音信不通なんてありえるのか。

アブラハムは頑固な老人だから、パソコンやスマホを使うことに抵抗があったのかもしれません。クレジットカードさえ持っていないようで、多額の現金を持ち歩きます。だからこそ物語が展開するわけですが、アブラハムは単に頑固なだけでなく、ポーランド時代の忌まわしい過去を思い出したくなかったからでは。愛する家族をすべて失うという残酷な過去。命を救ってくれた恩人に連絡しなかったのも、過去を封印したかったからでしょう。

 

ホロコーストを生き延びたアブラハムが向かったのがアルゼンチン。

ここで連想するのが、ナチ親衛隊員としてユダヤ人の大量虐殺を指揮したアイヒマンです。ナチスドイツの敗北後、アイヒマンもアルゼンチンに逃れます。

偽名を使い、ひたすら過去を隠して潜伏していたアイヒマンが捕まったのは、1960年3月21日。この日はアイヒマンの結婚記念日でした。ブエノスアイレスの郊外で花束を買うのを調査員が目撃し、逮捕の決め手となります。

日本の既婚男性のうち何割が何十年もたった結婚記念日に妻のために花を買うでしょうか。極悪非道な殺人鬼と愛妻家が両立するなんて。

 

イスラエルで行われた裁判でも、アイヒマンはごくふつうの人でした。命令に従うだけの小役人。ハンナ・アレーストは「悪の凡庸さ」と表現しています。

 

バンコクの寺院でヴィッパサナー瞑想を体験し、師から「ミス・サトリ」と呼ばれ、畏れ多いと思いながら実は気分をよくしていました。エゴの拡大です。

 

bob0524.hatenablog.com

 

ケネス田中先生の英語で学ぶ仏教講座で、仏陀 Buddhaとは「目覚めた人 Awakened Person」であると教わりました。だれでも、目覚めれば仏陀になれるということです。

凡庸な人間も悟りに至ることがあるし、極悪なふるまいをすることもある。

人間は状況によってどんなふうにも転ぶんだと実感したバンコクの旅でした。

 

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ワット・アルン(暁の寺)の門前で眠る猫。