翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

血縁ゆえの幸福と苦労

世界が騒然となっている時は、何度も楽しんだ心安らぐ物語に逃避したくなります。

ルーシー・モンゴメリの『赤毛のアン』シリーズもその一つで、NETFLIXの『アンという名前の少女』をシリーズ3まで観ました。ところが、現代の価値観によってストーリーが改変されている箇所があり、違和感を覚えました。のどかなアヴォンリーの村にはびこる男性至上主義、人種差別。さらにはカナダ史上最大の汚点の一つである先住民の同化政策のシーンは悲惨です。

もちろん、マリラとマシュウが孤児のアンを引き取ることで大きな喜びを手にするプロセスはきちんと描かれています。

手違いで孤児院から女の子がやってきて、What good would she be to us?(あの子が私たちに、何をしてくれるというの?)というマリラに、マシュウがWe might be some good for her.(私たちのほうが、あの子に何かしてあげられるかも)と答えるやりとりは、いつも心を動かされます。

 

モンゴメリにはアン・シャーリー以外の人々を描いた『アンの友達』『アンをめぐる人々』などの短編集もあります。

よくテーマになっているのが、血がつながっていない者同士の深い縁です。『赤毛のアン』び設定といい、モンゴメリは血縁をあまり信じていなかったのかもしれません。マリラはアンが進学と就職で家を離れた後、遠縁の双子を引き取り老後も安泰。子沢山のレイチェル・リンド夫人は老後は子どもたちの世話にならずマリラと同居します。

たとえば『ロイド老淑女』。

かつて愛した恋人が他の女性と結婚し娘を一人遺して亡くなってしまう。たまたまその娘が近所に下宿しているのを知り、極貧生活の中で娘が喜ぶような贈り物を無記名で贈り続ける老淑女。娘は送り主のことを「妖精のゴッドマザー」と呼び、二人の関係が明らかになった後は実の母娘よりも親密な関係となります。

そして『競売狂い』。

競売でガラクタばかり買ってくる夫がある日家に連れ帰ったのは、男の赤ちゃん。当時は親を亡くした子供の親類縁者がすぐに現れなければ共同体の誰かが育てていたのでしょう。妻はかんかんに起こりましたが、ようやく親類が引き取りに来たときは、一家の愛情を受けてすくすく成長しており、そのまま養子になったという話。

 

代々続く商家や相撲部屋などでは、息子より娘の誕生が喜ばれていたと聞いたことがあります。息子だったら出来が悪くても跡取りにせざるをえないけれど、娘なら優秀な男性を選んで婿にできたからです。子供がいなければ、夫婦養子という手もあります。

結婚して子を育てて孫ができ、家系の繁栄が続く。東洋占術はそうした吉を求める傾向がかなり強いのですが、血縁よりも家業の継承や発展を優先させるという考え方は昔からあったのです。

 

そして血縁は幸福だけでなく、とんでもない苦労をもたらすこともあります。

日本語学校で教えていたころ、北斎の浮世絵をよく授業で取り上げてきました。そこで見つけたのがこの記事。

otakinen-museum.note.jp

北斎は90歳で亡くなるまで筆を握り続け傑作を残していますが、私生活ではとんでもない苦労を抱えていました。孫息子があちこちで借金を作り、孫の母である長女とその夫も死去。北斎が返済するしかなく、孫を「悪魔」と呼びながらも面倒を見続けたそうです。

血縁はすばらしいものですが、一定の年齢になれば血縁からの解放を選んでもいいのじゃないでしょうか。

 

f:id:bob0524:20210530150303j:plain

日本語学校を卒業していく学生には、浮世絵の葉書に別れのメッセージを書いて渡したものです。

未来の自分にメモを残しておく

今年はウサギのひな人形を飾ることができました。

f:id:bob0524:20220227115604j:plain

小さな箱から取り出すだけなのに、気が付いたらひな祭りが過ぎていたことがよくありました。

今年、忘れずに出せたのは、手帳のおかげです。秋頃に新しい手帳を買うと、2月予定表の端に「ひな人形」と書き込んでおきます。年賀状とクリスマスカードの枚数、フィンランドに送るクリスマスプレゼントは11月の予定表に。年末の買い物リスト(お節料理とお雑煮用の食材)は12月にメモ。半年ごとの歯のクリーニングも2週間前を目途に「歯科医予約」と書いておきます。

そして、2月は確定申告。税理士さんにお願いしているのですが、出版社からの支払い調書を取りまとめて毎月の振込額と照らし合わせ、控除の証明書を集め、エクセルで経費の表を作らなければなりません。年に一度、気の重い作業だったのですが、数年前に細かい手順に分けた自分用のマニュアルを作りました。税理士さんから指摘されたミスも繰り返さないように書き込んでおきます。このマニュアルを確定申告の控えと一緒にファイルに挟み込んでおくと、作業に取りかかるハードルがぐっと低くなります。今年も2月中旬にさっさと終わらせました。手順がうやむやで、どれだけ時間がかかるかわからないと、人間はつい先延ばしにするものです。

 

毎年のことだけでなく、人生の先を見据えたメモも作っています。

3年前に終活に関する生前契約を結びました。高齢になって入院や施設入所の際の保証人の引き受け、認知症になった時の任意後見、死後の葬儀や財産処理などの手続きを代行してくれます。

最初は説明会だけ参加して、実際に契約を結ぶのはもっと年老いてからにするつもりでしたが、契約手続きの煩雑さを知り「年を取ってからだと面倒で投げ出すかも」と思い直しました。銀行口座から始まり、クレジットカードや公共料金の契約番号など書き出すだけでもかなりの手間です。延命処置をどこまで望むか、死んだら葬儀をどうしたいか、知らせる人のリスト、そしてお墓。気が変わったら変更することもできますが、とにかくすべての書類を埋めなくてはなりません。

年を取って判断力を失った時のための覚え書きであり、3年前の時点での考えをまとめることができただけでも、やる価値はありました。

 

ロシアのウクライナ侵攻で世界が騒然としていますが、プーチン大統領の精神状態がおかしくなっているのではないかという声も出ています。

news.yahoo.co.jp

切れ者として知られたプーチン大統領も69歳。日本では69歳はまだ若いイメージですが、ロシアの男性の平均寿命からすると晩年にさしかかっています。

ウクライナ侵攻によりルーブルは暴落、ロシアの株式市場は急落懸念で開けない状態が続いています。ここまでロシア経済を犠牲にしてまで、ウクライナ侵攻に踏み切る理由があったのでしょうか。

そして、最もおかしいのはゼレンスキー政権をネオナチ呼ばわりしていること。ゼレンスキー大統領はユダヤウクライナ人です。ナチスの名を持ち出すことはドイツ国民の神経も逆なでするでしょう。

 

「まともな判断力を持っていた人が高齢者となり、陰謀論を信じるようになったり、ネトウヨになるのと同じだ」という感想を読みました。隠居老人があやしげな理論を口走るのなら適当に流せますが、まさかプーチン大統領が?

 

プーチン大統領でさえ、老いには勝てないのだとしたら、凡人の自分の終末期はどうなるのでしょう。

今年は自分の書いたメモに基づいてひな人形を飾れましたが、将来は「どうせしまうのに、めんどう」「なんでこんなことを書いたのか」と破り捨てるかもしれません。それだけならいいですが、おかしな言動が目立つようになったらどうすればいいのでしょう。「このブログで変なことを書き始めたら、記事を削除してほしい」という条項を生前契約に入れておいたほうがいいかもしれません。

 

ウラジミールには用心せよ

昨年の夏、NHKが「映像の世紀」全11回を再放送。20世紀の前半は世界的な戦争が続いていたとんでもない時代でした。

1914年に第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパの若者たちは「クリスマスまでには帰れれる」と出征。結局、帰国できたのは4年後でした。

2020年の冬、日本でもコロナ感染が広がっていった頃「暖くなる頃までには」「夏までには」と虚しい楽観論を持ったものです。2年前に比べて緊張はゆるんでいるものの、現在のほうがたくさんの感染者が出ています。

 

ロシアのウクライナ侵攻も、国際政治のかけひきをしているだけと思っていました。「人は自分が見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる」という確証バイアスです。

 

フィンランド人と親しくなると、よくこんな質問をされました。

「日本もフィンランドも、ロシアの隣国。ロシアの脅威を感じている?」

そんなことは考えたことがなかったと正直に答えると、「のんきでいいですね」と言いたげな反応をされました。

高校生の時、我が家にホームステイしたヘンリク君は翌年大学に入学すると、時間をおかずに兵役に就き海軍に入隊しました。18歳になると半年以上の兵役の義務が課せられるのです。「フィンランドNATOに加盟していないのから」とヘンリク君。だったらNATOに入ればいいのにと思ったのですが、ロシアを刺激してかえって危険なことになると説明されました。

bob0524.hatenablog.com

 

私がフィンランドを好きになったのは、アキ・カウリスマキの映画がきっかけです。

映画に登場するレニングラードカウボーイズは、当時(1989年)のソ連アメリカが大嫌いだったカウリスマキか両国を揶揄するために作った架空のバンド。後にソ連が崩壊し、レニングラードサンクトペテルブルクとなり、バンドは「俺たちのレニングラードを返してくれ」と歌います。

レニングラードカウボーイズのマネージャー、ウラジミールはシベリアの片田舎では芽が出ないと、アメリカに進出します。カウリスマキ映画の看板俳優、マッティ・ペロンパーが演じるウラジミールは独裁的で、メンバーにろくに食事も与えず演奏させます。おそらく、ウラジミール・レーニンから取った名前でしょう。

 

今はウラジミールといえばプーチン

そして、ウクライナのゼレンスキー大統領のファーストネームは「ウォロディミル」と表記されていますが、ロシア語読みならウラジミール。

 

名前にまつわる話が好きで文春新書の『人名の世界地図』を持っています。外国人の知り合いができたら、まずこの本で名前の由来を調べます。

 

 

この本によると、ウラジミールはスラブ語で「支配」「偉大なる力」。闘争心あふれる名前です。今回のウラジミール対決、平和的な落としどころがあるといいのですが。

 

f:id:bob0524:20211108175804j:plain

2020年、JALウラジオストック便が就航したので6月に行く予定でした。ロシア式のサウナ、バーニャでもフィンランドと同じく白樺の枝で体を叩いて血行を促進します。ロシアの脅威を感じつつも、ロシアと共通の文化の多いフィンランドの人々は、どんな思いで今回のウクライナ進攻を受けとめているのでしょうか。

『スマホ脳』を実感した瞬間

ベストセラー『スマホ脳』を読んで、「なるほど!」と思うことがたくさんありました。

満足に食べることができず、病気や怪我、猛獣に襲われる危険があり、人口の半数が10歳前に亡くなっていた原始社会。現代人はそんな過酷な状況を生き残った人間の遺伝子を受け継いでいます。

 

私の父方は長寿の家系です。適正な体重維持のために気を付けている私は、血縁者と会うたびに「私はあんな自堕落なデブとは違う意識の高い人間だ」と思い上がってきました。親戚たちは単に太っているだけでなく、金銭への執着も並外れています。

 

しかし、デブで欲張りだから家系が続いているのです。

スマホ脳』には10万年前のサバンナに生きるカーリンとマリアの二人の女性のたとえ話があります。

カーリンは高カロリーの甘い果実が実る木を見つけ、1個だけ食べて満足して去ります。翌日、またお腹が空いて木のところに来ますが、もう実はありません。

一方、マリアは食べられる限界まで腹に詰め込みます。翌日も木に行きましたが果実は何者かに取られています。残念だけど、前日のカロリーが体内に残っています。人口の15~20%が飢餓で亡くなっている時代はマリアの選択が正しいのです。

 

カーリンとマリアが現代社会にワープしたらどうでしょうか。

カーリンはマクドナルドでハンバーガーを1個食べて満腹になり、機嫌よく店を出ますが、マリアはハンバーガーとフライドポテト、コカ・コーラにアイスクリームも注文。翌日もマリアは同じ注文を繰り返します。数か月後、マリアは余分な体重が何キロも増え、2型糖尿病を発症。

サバンナでは生き延びるのを助けてくれたカロリー欲求だが、現代社会には適していない。人類の歴史の99・9%の期間、私たちの生活を維持してきた生物的なメカニズムが、突如として益よりも害を引き起こすようになったのだ。

 

現代人がネット中毒になっている理由も『スマホ脳』で解き明かされています。

食料が得られるかどうかわからなかった時代、生き延びるのはあきらめずにあらゆる場所を探った人。お金を失う確率のほうが高いのに、現代人がギャンブル依存になるのはこのためです。

危険だらけの世界では、集中を分散させ外敵に素早く反応しなくてはいけません。しょっちゅうスマホをチェックする現代人は、原始時代だったらうまく猛獣から逃げていたのです。

そして、50~150人の集団で暮らしていた時代は、誰が信用でき、誰と距離をとったほうがよいか正しく判断することが生存率に直結していました。なにしろ人口の1~2割は殺人によって命を落としていたのですから。現代人のSNS中毒はこれで説明できます。

 

先日読んだ『ライフシフト』では人生100年時代の新しい生き方を提唱していました。

昭和22年(1947)年の平均寿命は男性が50・06歳、女性が53・96歳。50年ほどで倍も寿命が延びたのですから、いくらなんでも原始人の脳も少しは進化しているはずです。少なくとも私は、極端に太ってないし、ギャンブルには手を出さないし、SNSもあまりチェックしません。ゲームとアルコールにのめり込むことはありますが…。

 

先日、錦糸町に泊まり、翌朝はよく晴れていたのでスカイツリーに昇ってみました。

展望デッキに透明なガラス床があり、地上340メートルから真下の地上を見渡せます。窓から富士山や東京湾を眺めるのは何ともなかったのですが、ガラス床に立つと心臓の鼓動が早くなるのを感じました。

f:id:bob0524:20220218181227j:plain

係の人は「床と同じ強度です」と説明してくれるのですが、足を乗せるのがやっとで、飛び跳ねるなんてとてもできません。理性ではわかっていても、原始人の脳がに危険信号を発しているのです。

なるほど『スマホ脳』に書いてあることは正しかったんだと実感できた瞬間でした。

 

高齢になるにつれ代謝は落ちる一方ですから肥満にはより一層の注意が必要。もっと心配なのが人間関係への依存。寂しい年寄りは簡単にだまされたりするのでしょう。「もう十分生きたから、未来のある若い人に道を譲ろう」という謙虚な姿勢で生きれば、過食やギャンブル、人間関係への依存を抑えられるのかもしれません。

 

錦糸町のヘブンズドアへ続く道

旅のサブスクHafH(ハフ)で月一回、新宿や銀座など都内の一泊旅行を楽しんでいます。海外はおろか県境をまたぐ国内の旅もはばかられる状況では貴重な体験です。

bob0524.hatenablog.com

 

今月は錦糸町へ。

都内とはいえ東京の西側に住んでいるとあまりなじみがありません。サウナ激戦区といわれる錦糸町ですが男性専用の施設も多く、二の足を踏んでいました。ところが、カプセルイン錦糸町には100℃越えの女性用高温サウナがあると知り、いそいそと出かけました。

 

f:id:bob0524:20220218181242j:plain

 

自販機で入浴券を購入し、自分でタオルを取って女性用フロアに降りていくセルフサウナ。浴槽は水風呂のみで温かいお風呂はありません。サウナと岩盤浴の人向けに特化しているのです。

サウナ界のレジェンド、ぬれずきんちゃんの作法に習って、サウナの前に水風呂に入る「水通し」を実践している私にとっては最高の環境です。洗い場は温水も出るので身を清めて水風呂へ。

サウナは、テレビも時計もないストイックな灼熱の世界。女性客のほとんどは岩盤浴目当てなのか、貸し切り状態です。本当に熱い。視界の隅に小さなドアが目に入りました。

貼り紙には「サウナが熱ければ当然、ドアも熱くなっているので、勇気がある人だけここを開けて水風呂へ」みたいなことが書いてあります。サウナーの天国、水風呂へ直接ダイブできるヘブンズドア。しかし、サウナーにとっては汗を流さずに水風呂に入るのは地獄行きに等しい行為ですし、サウナ室に持ち込んだマットや手ぬぐいを持ったまま水風呂に入るわけにもいきません。結局、天国の扉をくぐる勇気が出なかったけれど、何度か通っているうちに道は開けるかも。通常のドアから出るにも、床に敷いてあるタオルが熱くて足の裏がひりひりしました。

洗い場で汗を流して水風呂へ。迂回したけれど、たしかに天国です。体を拭いて整いスペースへ。ふと手足を見ると、赤い斑点がびっしり。サウナー用語でいう「あまみ」、血管が拡張され血流がよくなったしるしと言われています。易の沢火革(たくかかく)、「君子豹変す」「大人虎変す」状態です。

 

すべての人を満足させようとすると、中途半端に終わりがち。「うちはこういうお客さんだけ」と振り切るのは冒険ですが、ぴたりとはまると最大級の顧客満足度が得られます。嫌われる人には嫌われていい。もう二度と来ないんだから。それよりも「あなたのここが好き」という少数の人だけと向き合いたい。灼熱地獄と水風呂天国を行ったり来たりしながらそう考えました。家の近所にある立ち飲み屋「田っくん商店」もそんなお店です。吉田類の「酒場放浪記」にも登場した名店なのですが、クリーニング店の外装をそのまま使っています。

f:id:bob0524:20220207091214j:plain

それでいて出てくるのは「ドライいちじくとサツマイモのクリームチーズ」「たことセロリと金柑の土佐酢和え」「海老しんじょ椎茸詰め」など、自家製の凝った酒肴の数々。リーズナブルな価格なのは、店構えに手をかけていないからでしょう。

 

あれもこれもと欲張らず、本当にほしいものだけに絞り込むのが天国に至る道なのかもれません。