翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

「さあ、あなたの暮らしぶりを話して」

ミステリーの女王として名高いアガサ・クリスティーは二度の結婚をしています。
最初の結婚は夫に浮気されてさんざんな結果に終わりますが、二度目は14歳年下の考古学者と結ばれました。
お相手のマックス・マローワンが結婚を決意したエピソード、自分もかくありたいと思うのですが、なかなかできません。

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夫の古代遺跡発掘調査に同行した際の記録『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』。

原題は"Come, Tell me how you live"。
日本学校の作文のクラスで、このフレーズが頭の中をぐるぐる回っています。

週2回のクラスで6週間12回を1サイクルとして、各回、学生のレベルは違っても同じテーマで書くようにしています。一通りテーマを決めて教材を作ったら楽ができるかと思ったのですが、繰り返し受講する学生もいるし、顔ぶれによって興味の対象も微妙に違うので、毎回、頭をひねっています。

「自己紹介」「私の家族」「私の国」…と展開していくのですが、ある時「私の家族」でほとんど同じ作文が提出されました。チリ人の学生二人です。
「どうして同じですか?」といぶかしがるがる私に、「僕たちは兄弟なんですよ」と二人。そりゃ、両親の名前や年齢、趣味が同じになるはずです。

やさしそうなホセがお兄さんで、茶目っ気たっぷりのニコラスが弟。寮の二人部屋で仲良く暮らしているようです。一計を案じて、次のクラスではそれぞれ別のメモを渡しました。
ホセには「ニコラスさんはどんな弟さんですか」、ニコラスには「ホセさんはどんなお兄さんですか」で始まり、テーマがかぶらないようにしました。

それから、祖母が日本人だというデンマーク人の学生がいます。
彼の祖母は50年ほど前に単身でデンマークにわたり、デンマーク人と恋に落ちて結婚したのです。そして孫は柔道をやり、日本語を勉強するために来日。
「あなたはおばあさんの話を書くべきだと思う。とても勇気のある人でしょう。私はとても知りたい」とうながしました。

そうしたやり取りを、他の学生たちがうらやましそうな顔をして見ていました。
上級レベルの学生には、テーマに関係なくフィクションでもなんでも自由に書いていいことにしていますが、そこまで達していない学生は、白紙を前に好きなことは書けません。
そこで私がモデル文を渡して、言葉を変えて書けるようにしているのですが、興味のないテーマだと、80分のクラスはあまりにも長い。みんな、自分の話を書きたいのです。

そこで、共通テーマはあるものの、前回のクラスで書いたものに対する質問など、学生一人一人にメモを渡すようにしました。
すると、みんな、一気に熱心になりました。質問も活発に出て、80分でも足りないぐらいです。

この路線、けっこういいかもしれないと思ったのですが、準備に時間がかかるのが難点。
学生の作文を読み込み、それぞれの日本語のレベルに応じて適切な質問を考えるのですから。
しかも、作文クラスの受講希望者が増えて1クラスで収まらず、2クラスになってしまいました!

仕事と思うから重荷になります。
日本語学校で教えるのは、もともと趣味で始めたようなことです。
旅先で出会った人に「さあ、あなたの暮らしぶりを話して」と会話したかったのですから、世界各地からやって来た学生を相手に質問を投げかけるのは、とても楽しいことです。そして、学生たちも作文の時間を楽しんでくれたら、こんなにうれしいことはありません。


足利学校の「かなふり松」。読めない漢字や意味のわからない言葉を紙に書いて松の枝に結んでおくと、翌日にはふりがなや注釈が書き込まれていたそうです。
私がやっているのも同じようなことです。