翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

新しい扉を開ける勇気

旅に出るとあちこち歩くようにしており、穂高養生園ではスタッフの方のガイドで原生林に足を踏み入れることもできました。

bob0524.hatenablog.com

 

歩くことがあまり苦にならないのは、30代から続けてきたスポーツクラブのスタジオレッスンのおかげです。ズンバが日本に入ってきた2007年から、夢中になって参加しています。音楽に合わせて体を動かすことがこんなに楽しいとは。子供時代は運動神経が鈍くて体育の授業がいやでたまらなかったのですが、ズンバは誰でも大丈夫。音にまったくついて行けない高齢者が参加しているのもご愛敬。「年を取ってズンバのレッスンに出られなくなったらどうしよう」と心配した時期もあったのですが、足腰が立つうちは大丈夫。そもそもズンバはエクササイズではなく「お祭り騒ぎ」なんですから。

 

スポーツクラブに入会したのは、プールで泳ぐため。運動神経が鈍くて体育の授業が本当に嫌いだったのですが、村上水軍の血統のせいか、水の中では伸び伸びと動けます。そして、プールだけで飽き足らず、スタジオレッスンの扉を開いた30年前の私を褒めたい。何歳になっても勇気を奮って新しい扉を開けたいものです。

 

福岡サウナラボの扉を見つけるに迷いましたが、開けて見るとめくるめくサウナの世界が広がっていました。新しい場所に出かけるのは、精神の若さを保つ効果もあります。

新しい扉を開けようという意欲があるうちは、若さを保てます。

ゆで卵で考える仕事の本質

穂高養生園のマクロビ料理は、評判通り手間暇かけられたすばらしいものでした。

ある日の朝食。厨房から香ばしい匂いと揚げ物の音がしていました。コーン、さつまいもとワカメを米粉かき揚げにしてあります。春菊の花も食べられます。野菜は穂高養生園の農園か契約農家のものです。

朝食で思い出すのが、先日の福岡の旅で2日目に泊まったHafH Fukuoka THE LIFE。1か月3000円たらずのサブスクを利用して1泊できるのですから、あまり期待していませんでした。

チェックイン時、鍵は渡されず、ロック解除の暗証番号やWi-Fiのパスワードが書かれた紙をスマホで撮影するように言われました。そして、チェックアウトの手続きは必要ないとのこと。なるほど、合理的です。

thelife-hostel.com

 

半個室の女性用シングル、修道院のようなシンプルな作りで気に入りました。部屋は5つあって、共用のトイレとシャワーが2つずつ。お風呂は隣にサウナラボもあります。

「半個室」というのは、壁が天井までなく上部がつながっているから。消防法の関係で完全個室にはできないのでしょう。プライバシーは守られますが、音が筒抜けです。この日は3部屋しか埋まっていませんでしたが、満室だとちょっとつらいかも。

 

朝はどこかのカフェでモーニングを食べようと思っていたのですが、朝食付きとのこと。1階がお洒落なカフェになっているのです。

メニューは3種類あり、ハニーバターのバケットにしました。

ゆで卵が完璧な半熟卵でした。

固ゆで卵はサラダに入れるには便利ですが、卵本来のおいしさがあるのは半熟です。パン、サラダもコーヒーもおいしくて、感動の朝ごはん。ハフで安価に泊まっているのが申し訳なくなるぐらいでした。

 

店を出る時、給仕してくれた女性スタッフに「卵のゆで具合が完璧でした」と声をかけると「ありがとうございます。調理担当が喜びます。ぜひ伝えておきます!」と満面の笑み。そんな反応が返ってくるなんて、ここはいい職場なんでしょう。そういえば、最初に窓際のカウンター席を選んだら「そこは朝日が当たってまぶしいから」と別の席を勧めてくれる気配りの人でした。

 

オープンしたのが2020年3月ということは、コロナ禍にまともにぶつかりさぞかし大変だったでしょう。期待していたインバウンド客も途絶えたし。

それでも、無料の朝食に完璧な半熟ゆで卵を出し、同僚への誉め言葉をあんなに嬉しそうに受け止めるスタッフがいるのです。これからの発展を祈らずにはいられませんでした。

ゆで卵一つでも、世界に影響を与えることができる。与えられたノルマを機械的にこなすのではなく、ささやかでも心を込めた仕事をやってみたいと思いました。

俗世でサバイバル

穂高養生園から自宅へ戻りました。

あの独特な雰囲気は何と表現したらいいのでしょう。呑兵衛の私がお酒のことを一切思わない空間。そして、朝10時半、夕方5時半の一日二食でお腹がすくこともなく、近辺のトレッキングコースを歩き回っていました。そして温泉に加えて水風呂が! サウナより水風呂を愛する私にとって、こんな完璧な環境は他にありません。

そして、穂高養生園のスタッフは自然と共生し、訪問者に安らぎを与えるという使命を帯びた天使のようなイメージ。厨房はホールからガラス越しに見渡せます。何時間もかけて調理して、細部から手の込んだマクロビ料理ができあがるのです。

食べた後の食器は自分で洗うのがルール。最初は「客なのに、なんで皿洗いを。旅に出たらのんびりしたいのに」と思ったのですが、食器だけならそんなに大変じゃありませんし、厨房スタッフへの感謝の行為です。一人一枚用意された布巾で食器を拭き上げるのは、食後の楽しい儀式となりました。

タオルや歯ブラシは持参、チェックアウト前にシーツ、掛布団カバー、枕カバーは外して所定の籠に入れておきます。そしてシャンプー、ボディソープ、洗濯洗剤は備え付けのものを使い、香りの強い製品や柔軟剤が使用禁止なのは、化学物質過敏症の方への配慮です。

 

三泊四日の滞在を終えて、下界へ。

自宅で荷をほどき、翌日の朝食用のバナナや牛乳、ヨーグルトを買うために「まいばすけっと」へ。有人のレジが二台、セルフレジが一台のコンパクトなお店ですが、定番商品がスーパー価格で買えて野菜や生鮮食品もあるので、我が家の冷蔵庫と呼ぶほど活用しています。

私の前のお客さんが何だかもめている様子。セルフレジが使用中だったので、「次のお客様」と呼ばれてレジの台にカゴを乗せると「まだ客がいるのに、次の客を呼ぶんじゃないよ!」と怒気をはらんだ女性の声が飛んできました。会計が終わったのに、まだ文句を言いたかったのでしょうか。

ああ、再び俗世に戻ってきたんだと実感した瞬間です。穂高養生園ではこうしたクレームや悪意、いら立ちとは一切無縁の世界でしたから。

怒りの女性が店を出るのを確認して、レジの若いお嬢さんに「気にしないでね」と声をかけました。「お気遣い、ありがとうございます」「こちらこそ、いつもありがとう」という会話で、少しでも心の傷が癒されるといいのですが。

サービスが売りの一流ホテルやレストランならいざしらず、コンビニやファストフードの店員さんに多くを求めすぎる人がいます。その一方で、レジの担当者の人格をまったく無視する人も。「イヤホンをしたまま会計をするお客さま、私たちはロボットじゃありません」という投書を読んだことがあります。

 

穂高養生園は天国のような場所ですが、たまに行くからいいのであって、ずっといたら浮世離れして退屈しそう。トラブルも起こるし、思い通りにならないことも多いけれど、私は俗世で生きることにします。

 

俗世と天国を結ぶ特急あずさに乗ると、いつも心が弾みます。

駆け込み吉方位取りで心のある道を歩く

7月となりましたが、東洋占術の12ヶ月は少しずれて7月7日が節入りで未月となります。ということは、6日までは午の月。戌方位への吉方取り、まだ間に合うと穂高養生園に出かけました。伊豆のやすらぎの里と並び称されるリトリート施設です。

やすらぎの里はコースによってチェックインの曜日が決まっていて、同じ日に来た人にまとめて説明会、簡単な自己紹介の時間もあります。朝のヨガやトレイルウォーク、マッサージ、講座、観光など盛りだくさんのプログラムがあり、すべて出るとなるとけっこう多忙です。

穂高養生園は2泊以上で空きがあれば何曜日からでも可。チェックイン時に簡単な説明があり、あとはご自由にといった感じ。プログラムも朝の散歩とヨガが交互にあるだけです。厳密なのは一日二回の食事時間。朝10時半と午後5時半。遅れる人は食事なしとなります。数時間かけて調理されたマクロビ料理、出来立てを食べてほしいからでしょう。1日2食で足りない人は蕎麦屋でもカフェでもご自由にというのも、やすらぎの里との大きな違いです。

やすらぎの里は一食500カロリー、1日1000カロリーというしばりがありますが、穂高養生園はマクロビの理念に沿っていれば良しとするのか、ある日の夕食はかなりボリュームがありました。

メインは肉を使わないシェパードパイ。デザートのお茶のティラミスは餡子との二層です。

 

朝のプログラムは参加自由。10数人が泊まっているのに、朝の散歩の参加者は3名だけでした。原生林を歩きたいという希望が出て、車で登山口へ。途中から登山道でもない道なき道へ。スペインの巡礼の道を歩くために登山用のウエアと靴を買いそろえ、この日も登山の装備は万全だったので、山に慣れている人と思われたのかもしれませんが、都会の平坦な道しか歩いていない私は着いて行くのがややっと。途中、熊の痕跡も見ましたし、猿や鹿も出没するそうです。


ガイドさんは根っからの自然好きで、穂高養生園に来る前は知床で熊猟師に弟子入りしていたとのこと。樹木の説明もしてくださったのですが、とても覚えきれません。

原生林をずんずん進みながら「舗装された道や踏み込まれた登山道とちがって、大地を直接、足裏に感じられる」。そうなんでしょうけど、滑って骨でも折ったらどれだけ迷惑をかけることか。そんな不安が見透かされたのか「足裏から着地して、地面を信頼してしっかり踏めば滑りません」とアドバイスされました。

「どの道もしっかり見るんだ。そして自らに問う。この道には心があるか。心があるならそれは良き道だ。心がなければ何にもならん」という、カルロス・カスタネダの師の言葉を思い出しました。

占いの道を歩いているから、吉方位へ向かう。いつかはスペインの巡礼の道を歩きたいからトレイルウォーキングの装備も揃えた。そして、熊が出てきそうな原生林を歩いている。この道には心があるから、ここまで来たのです。

福岡ソバーキュリアスの旅

『飲まない生き方 ソバーキュリアス』という本を手に取ったのは「このままアルコールを飲み続けていいのだろうか」と感じていたからです。

ソバーキュリアスとは、英語のsober(しらふ)とcurious(好奇心)を組み合わせた造語。アルコールを飲まない生き方を選択することで、人生にどんな変化が起こるかを観察する感じでしょうか。著者はイギリス人の女性ジャーナリストです。

 

代り映えのない毎日が退屈で、日が暮れたらついアルコールに手が伸びる…。だったら、刺激のある日を送ればいいのでは。

 

そんなことを思ったのは、今月のJAL「どこかにマイル」福岡の旅でまったく飲まずに過ごしたからです。

 

お世話になっている編集者が福岡の旅から帰ったばかりで、朝から午後2時まで朝食を出す居酒屋「いとおかし」を教えてくれました。

ネットの口コミによると、朝は夜勤明けの人で大盛況らしいので、ドーミーインで朝のサウナを満喫し、10時過ぎに行ってみました。

1階のカウンター席はいっぱいで、2階に案内されました。広いテーブル席に案内されて恐縮。親切な店員さんが「そんなに小さくならないで、堂々と座ってください」と言ってくれました。他の席では元気な男性グループがご飯大盛のお代わりも頼んでいるようす。店員さんが「お残しは許しまへんで」と返していたので、朝定食のご飯を半分でお願いして、刺身盛り合わせを付けました。

 

朝定食の魚は日替わりで、この日はほっけ。副菜の辛子明太子がおいしくて、ご飯を半分にしたのを後悔しましたが、刺身まで食べるとこの量がちょうどでした。お冷がビールジョッキで出てくるのも、サウナの後にはありがたい。

福岡の海の幸を満喫。会計時に「新鮮な魚をたっぷりいただけて幸せです」と伝えると「それはよかった! またぜひ、いらしてください」。こんな店が地元にあれば通い詰めるのに。

 

二日目の宿は旅のサブスク、ハフ福岡へ。ドーミーインから近いし、サウナラボ福岡のすぐ隣という抜群の立地です。1階はお洒落なカフェバー。寝る前にカウンターで一杯飲む気満々で、夕食は食の専門誌の編集者におすすめされた「牧のうどん」へ。

 

「いとおかし」の朝食を昼食と兼ねていたので、かなり空腹。うどん一杯なんて軽いものとたかをくくっていました。

讃岐うどんと比べてたしかにコシがないけれど、だしが抜群においしい。食べ進むうちに、うどんがだしを吸って膨張していきます。そこで小さなヤカンに入っただしを追加していきます。

満腹になってもまだうどんが残っているし、追加投入しただしも残すわけにもいきません。かしわめしや稲荷、おにぎりとセットで注文している人もいましたが、どんな胃袋をしているのでしょう。

なんとか食べきったものの、お腹の中でうどんが膨らんでいるようでアルコールを入れるゆとりがなく、この日もシラフで寝ました。

 

思いがけずソバーキュリアスの旅となった福岡。自宅にいても、新しい体験を心がければ飲まずに済むのではないかと思い至りました。大げさなことでなくても、新しい食材を買うとか、知らない道を歩いてみるとか。ただ、この暑さで不要な外出を控えているため、やはりアルコールが友達になってしまいがちです。ソバーキュリアスの本には「友達になったアルコールはいずれパートナーとなる。このパートナーは毒気が強いんです」という医学博士の言葉が紹介されていました。