翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

海を眺めながら読むガルシア=マルケス『生きて、語り伝える』

四月中旬、伊豆やすらぎの里の1週間滞在はお天気に恵まれ、連日快晴。

この旅は「海を一望するテラスで本を読みたい」という一念から実現したものです。

 

その本はガルシア=マルケスの自伝『生きて、語り伝える』。

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帯の文からしてそそられます。

「何を記憶し、どのように語るか。それこそが人生だ――。」

代表作『百年の孤独』を読み始めると止まらなくなり、夜を徹して読了しました。奇想天外でありながら現実のどこかにありそうなマジックリアリズムはどうして生まれたのかずっと不思議でしたが、ネタはすべてガルシア=マルケスが8歳まで暮らした祖父母の家にあったのです。

 

昨年11月、やすらぎの里の養生館にこの本を持ち込んだのですが、手つかずのまま持って帰りました。本館の見学で海が一望できるテラスを目にして「読むならここだ!」と思ったからです。目の前に海があれば、スペインと土着の文化が濃密に混ざり合ったコロンビアのカリブ地方に思いを馳せることができます。

 

いつかはコロンビアに行きたいとずっと願ってきました。首都のボゴタは高地にあり、同じ国でも『百年の孤独』の舞台と文化が異なります。日本からボゴタまで飛んで、そこからカリブ地方に行こうと思えば行けるでしょうが、隣国ベネズエラの政情不安もあり、一昨年の秋の旅の行先はスペインにしました。そして今はコロンビアどころか日本の外に出ることは不可能です。

 

しかし、書物の旅なら心は自由に飛んでいけます。そもそもガルシア=マルケスが書いたのは過去の正確な記録ではなく、記憶に基づいた物語なのですから。

たとえば、祖父(『百年の孤独』のアウレリャノ・ブエンディア大佐のモデル)の姉のペトラおばさんの思い出。

目が見えないのに、匂いだけを道しるべにして両目が見えているかのように家の中を歩き回っている姿。腰まで垂れた長い髪、思春期の少女のような緑色の澄みきった目、ときおり自分に向けてささやくように歌う歌…。

成長したG・ガルシア=マルケスが寄宿高校から休暇で帰省し、母親にこうした思い出話を語ると、母は何かの思い違いだろうと言います。ペトラおばさんは彼が2歳の時に死んでいたのです。

 

人生の物語なんてそんなもの。実際に起こったことより、どう覚えているか、どのように語るかで決まるのです。

限られた人生だから、可能な夢は叶えていく

昨年11月に続いて、また伊豆高原のやすらぎの里に来ています。断食がメインの施設ですが、今回も養生食(1日1000カロリー)のコースです。

前回、養生館を選んだのはサウナと水風呂があるから。赤沢温泉海の見えるサウナにも歩いて行けます。しかし、本館を見学させてもらった際、海を一望できるテラスを見て「気候のいい4月半ばにここに来よう!」と決めまた。

 

帰る際に次の予約を入れていく常連さんも多いので、昨年12月に予約を入れました。その時は春先にはコロナも収まっていると期待し、2月に父が亡くなるなんて想像もしていませんでした。

 

出発の2日前、夢に父が出てきました。元気な姿で、旅行に出発するところ。自分で運転するのは疲れるから、バスで行く。バス停まで見送ったら「留守中、ニューヨークの旅番組を録画しておいてほしい」と頼まれました。

 

夢から覚めて、父を本当に見送ったんだと思いました。「ニューヨークの旅番組」が意味するのは、「旅をせよ」あるいは「ニューヨーク市場で稼げ」という教え? いや、父は小説家志望だったから「海外文学を読み続けろ」でしょうか。

 

前回、養生館でご一緒した方は、やすらぎの里に来たきっかけは、お母様が亡くなったことだと話してくれました。

「母の死を受け入れるために静かなところで過ごしたかった。断食コースだったので、どんなに悲しくても食べなかったらお腹が減るんだとわかってちょっとおかしかった」

父の四十九日と納骨も終わり、私にとってもいい区切りです。

 

父と母はやりたいことがたくさんあっただろうけど、死ぬ前にどれだけ実現できただろう。

私の長年の夢は「季節ごとに気に入った場所に長期滞在する高齢者になりたい」。気が付いたら、今がその夢をかなえるタイミングでした。これ以上待っていたら老化で移動する体力も気力も衰えます。

入所時の面談で、「体調は良好で定期健診でひっかかることもない。特にダイエットの必要もない。少々仕事をしながらゆっくり楽しみたい」と告げると、大沢代表に「すばらしい!」と感心されましたが、この状態があと何年続くか保証はありません。

 

初めてやすらぎの里を利用したのは15年ほど前。もうそろそろ常連にランクアップしてもいい頃でしょう。「もっと年を取ってから」「もっと資産を増やしてから」なんて言ってるうちに人生が尽きてしまいます。

 

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4か月ぶりに看板犬の海ちゃんと再会。海が一望できるテラスでお昼寝中。

 

この世はすべてレンタルスペース

エリザベス女王を支えてきたフィリップ殿下が99歳で死去。1947年の結婚当時は、イギリス生まれではなくギリシャの王族で、姉たちはナチス関係者と結婚していたため、かなりの反対の声があったそうです。王族、皇族の結婚に国民が口をはさみたくなるのはどの国も同じなんでしょう。

 

エリザベス女王の名言。

Work is the rent you pay for the room you occupy on earth.

仕事とは、自分が地球上で占めているスペースの賃貸料である。

 

莫大な資産を有するイギリス王室の女王であっても、スペースを借りていると考えていることに驚きました。

 

一人静かなワ―ケーションにこっそり出かけていますが、ホテルが連泊でない場合、チックアウトしてチェックインまでの時間を過ごす場所に悩むことがあります。

 

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熊本の最終日は、空港バスの出発までスターバックスのテラス席で過ごしました。

 

空いているカフェならいいのですが、混雑してくると長居するのがはばかられます。

最近はコワーキングスペースが各地にあり、利用した時間だけ料金を払うドロップインで利用しています。Wi-Fiと電源があり、パソコンが広げられるデスク。ドリンクも飲み放題でカフェより快適です。そんな場所でずっと続けている雑誌連載のため、アメリカのビジネス事情を翻訳していると、自分がどこにいるのかわからなくなります。

 

東京の自宅だって、ローンを完済した、好きな間取りにリノベーションをしたといっても、あの世に持っていけるわけではありませんから借りているようなもの。宗教家は「肉体だって借りもの。寿命が尽きればお返しする」と言います。この世はすべてレンタルスペースだと割り切れば、欲や執着心から解放されるのかもしれません。

仕事に忙殺されていた若い頃は、リタイアしてのんびり暮らしたいと願っていましたが、賃貸料の支払いは一生続けなくてはいけないので、ささやかでも仕事を続けたいと思うようになりました。

どうせ買うなら使用頻度の高い物を

映画『ノマドランド』の影響で、所有物はできるだけ少なくしようと思いました。

しかし、定住生活では、あれこれ必需品を買わないわけにはいきません。

 

以前、風水の大家に取材した時、「数年に一度しか出番のないよそ行きの服やバッグ、宝石を買うより毎日部屋で目にするカーテンを新調するほうがずっといい」という話を聞きました。毎日カーテンを開け閉めするたびに幸せな気持ちになれるからです。

 

その点では昨年買い替えた換気扇(フラット形レンジフード)に大満足です。

なにしろ、掃除をしなくていいのです。

換気扇掃除といえば大掃除の定番ですが、なにかとあわただしい年末には手が回らないことが多く、「暖かくなってからやろう」と先延ばし。毎日、換気扇のスイッチを入れるたびにどんよりした気持ちになるし、家に人を招いてもキッチンには入ってほしくありませんでした。

 

2年前に築20年のマンションのリノベーションを行い間取りを変更し、フローリングや壁紙を新しくしました。

キッチンは特に不満がなかったので手を付けなかったのですが、リノベーション後に換気扇を新しくしました。普通の家電のように店ですぐに買えるわけではなく、店頭で申し込みをして設備業者のアポを取り、実寸を測り見積もり。代金を支払ってから取付工事となります。手間がかかりましたが、それだけの価値があります。

 

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約2か月に一度、洗浄ランプが点灯したら、お湯をセットして自動洗浄。排水はあまり汚れていないので本当にきれいになっているのか半信半疑ですが、そういうものだと割り切って使っています。

説明書によるとファンフィルターの交換は10年に一度とありますが、うちはあまり料理をしないのでもっと持つかも。うまくいけば一生、このままでいけるかも。とにかく、換気扇掃除から解放されたのは大助かりです。

 

ラベンダーの香りとキサー・ゴータミー

父の四十九日法要のために神戸の実家に行くと、仏壇の前の大量の枯れた花が放置されていました。

 

母が亡くなった時は、兄の奥さんができた人で「遺骨を一人ぼっちにするのが忍びない」と四十九日まで自宅で供養してくれました。

父の時は、兄が実家にちょくちょく泊まると言っていたのに。男性だから枯れた花の処分まで気が回らなかったのか、それにしても49日間も放置するなんてあんまりだと思いました。風水では枯れた植物は大凶ですし。

 

私にとっては姪、父にとっては初孫である兄の長女が体調不良のため四十九日法要を欠席すると連絡がありました。もしかしてコロナ?と不安になったのですが、おめでたでした。姪は去年結婚し、コロナで披露宴をせず、姪のご主人とは父の葬儀で初めてお目にかかりました。スポーツマンタイプのきりっとした好青年で、これなら父も安心して旅立っただろうとうれしくなりました。

姪のご主人が長崎に転勤となり、兄夫婦は引越しの手伝いで上京し姪の体調不良でそのまま付き添うことになったと聞きました。

 

死者より生者の都合が優先されるべきだし、父にとっては何よりの供養でしょう。

 

枯れた花を片付け、お線香をあげました。

ウラナイ8の仲間、ユミコさんからいただいたラベンダーの香りのお線香です。香りが立ち昇り、ユミコさんも昨年、お父さんを亡くしたんだと思い出しました。

 

そして、ケネス田中先生の英語で学ぶ仏教講座で取り上げられた「キサー・ゴータミー」まで連想が広がりました。

最愛の息子を亡くしたキサー・ゴータミーは仏陀に子どもを生き返らせる薬を求めます。仏陀は「芥子の種をもらってくればいい」と言いますが、「今まで死者を出したことのない家からもらうこと」と条件を付けます。

町中を探し回り、死者を出したことがない家なんてないことを知り、キサー・ゴータミーは息子の死を受け入れることができました。

 

ユミコさん、そして同じくウラナイ8の仲間のともみんさんもお父さんを亡くしています。どう言っていいのかわからず、ちゃんとしたお悔みも言えませんでした。

介護生活が長かった母の死は受け入れられたけれど、先月まで元気だった父の死は衝撃的でなかなか受け入れられませんでした。でも、こういう思いをするのは私だけでなく、世間に無数にある話です。ラベンダーの香りをかぐたびにキサー・ゴータミーを思い出すでしょう。

  

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富良野のファーム富田。ここのお土産店でもラベンダーのオイルを買いました。