翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

カズオ・イシグロの生誕地を訪ねて

今年最後のJAL「どこかにマイル」で長崎へ。

4つの候補地は、那覇宮古島・大分・長崎。寒さが厳しくなってきたので沖縄に行くのもいいし、大分は温泉天国。長崎にもずっと行ってみたいと願っていたので、どれになっても最高という組み合わせでした。

 

長崎に行きたかったのは、カズオ・イシグロが1954年に生まれ5歳まで過ごした地だから。

到着してまず向かったのは、彼が生まれ育った新中川町。長崎駅前から市電で5つ目です。川が流れ山が迫り、坂道には住宅が立ち並ぶ閑静な街でした。

昔の面影は失われているものの、初の長編作品『遠い山なみの光』の舞台だと思うと胸に迫るものがありました。

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

 

 淡々とした静かな物語ですが、読み方によっては身の毛がよだつホラー。

登場人物のほとんどが女性で、会話部分も多く、元は英語で書かれたものだと意識せずにすらすらと読めます。

「これはリアルな日本ではなく、カズオ・イシグロの日本だ」と感じたのは一か所だけ。主人公の悦子が義父のために急いでお弁当を作るシーンです。

「じゃ、お弁当を作ってさしあげますわ、一分もかかりませんから」

「それはありがとう。それなら二、三分待たせてもらうかね。じつを言うと、お弁当を作ると言ってくれるんじゃないかと、待っていたんだよ」

<中略>

「何を作っているのかね」

「たしたものじゃありませんわ。ゆうべの残りものですから。急におっしゃったんだから、このくらいでがまんしてね」

「それでも、あんたはなかなかうまいものを作るからな。卵で作っているのは何かね。それも残りものというわけじゃないだろう」

 まるで原節子笠智衆の会話のようです。それもそのはず、カズオ・イシグロ小津安二郎の映画にも大きな影響を受けたそうです。

ゆうべの残りものを詰めながら、卵料理だけは作る悦子。お弁当に入れるのだから卵焼を連想したら、オムレツでした。おそらくカズオ・イシグロのお母さんはイギリスで卵焼きではなくオムレツを作っていたのでしょう。

 

カズオ・イシグロの一家が渡英したのは、海洋学者であるお父さんがイギリス政府から国立海洋学研究所に招致されたからです。今でこそ一家で海外赴任は特別なことではありませんが、当時はかなりの決断だったのではないでしょうか。

両親は毎年のように「来年は日本に帰る」に言うのでカズオ・イシグロもそのつもりだったのに、帰国が実現することはなく、彼が再び故国の地を踏んだのは5歳で日本を離れて以来、約30年後です。

 

カズオ・イシグロが小説家になったのは、記憶の中にある日本を永久保存するためだとインタビューで語るのを聞いたことがあります。彼の小説の中では「記憶」は重要なテーマの一つです。

5歳の子供が異文化で生きていくのは並大抵のことではなかったでしょう。『遠い山並みの光』では、親に連れられて外国に行くのを嫌がる子供や、悲劇的な結末も描かれており、彼自身の葛藤をうかがわせます。

しかし、その特異な経験が小説という形で結晶したのはすばらしいことです。

 

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山と海が一望できる長崎の独特の景観。グラバー邸など明治の洋館が残されている一方で、中国のお寺や孔子廟もあります。クルーズ船の寄港地にもなっていて、多くの外国人観光客が街を散策していました。

世界に開かれた街だからこそ、カズオ・イシグロの両親も外国に移住するハードルが低かったのかもしれません。

5人のゲイに生活を改善されたい Queer Eye(クィア・アイ)

月800円でネットフリックスを申し込んで、映画やドラマを楽しく見ています。

当初はコンマリの『片づけの魔法』を楽しみました。

 

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演技や台本のない出演者の行動を放映するアメリカのリアリティ番組。もちろん少しは演出もあるのでしょうが、元々が外国ものだから嘘臭く感じられません。

コンマリの『片づけの魔法』はアメリカの広々とした家インテリアやポップな生活用品を見るのも楽しい。

 

そして、『片づけの魔法』よりパワフルなのが『Queer Eye(クィア・アイ)』。『片づけの魔法』では、出演者が自分の持ち物をすべて出して「スパーク・ジョイ」かどうかで分類していかなければいけませんが、『クィア・アイ』では5人のゲイがおぜん立てしてくれることも多いのです。ファッションや美容は本人が店に行きますが、インテリア担当のボビーは出演者が大切にしている物は残し、好みのテイストを聞いてリフォームしてくれます。

 

5人の担当は、インテリア、カルチャー、ファッション、美容、フード。なるほど、衣食住のすべてを整えてもらえば、人生も好転します。しかも5人は「ファブ5」。fabulous(ファビュラウス)という形容詞にふさわしく、おしゃれで陽気、包容力のあるゲイたちです。

 


Queer Eye | Official Trailer [HD] | Netflix

 

エンジニア、警察官、トラック運転手など出演者の職業はさまざまですが、自分の殻に閉じこもって変化を嫌うタイプがよく登場します。

 

アプリ開発事業を手掛けるインド系エンジニアは、スティーブ・ジョブズの例を出して毎日同じ黒いTシャツを着ていることを正当化しようとします。

Well, it's because if you spend less time thinking about your outfit, you can spend more time creating. That's why Steve Jobs wore the same thing every day.

服のことを考えなくてすめば、その時間をクリエィティブなことに使える。だからスティーブ・ジョブズは毎日同じ服を着ていたじゃないか。

 

ファッション担当のタンはこうした出演者に対し、「コンフォートゾーンから出よう」とよく言います。これまでと同じもっさりした格好をしていれば傷つくこともないけれど、もっと自分の個性を活かしたほうがいい。クリエイティブな人間なら、服装でもそうみせよう。スティーブ・ジョブズまで上り詰めていなければ、まず周囲に好感を持ってもらわないといけませんから。

 

 

6人の子供を持ち、昼間はエンジニア、夜間はスーパーの品出しというダブルワークを続ける疲れた男性も登場します。家の中がみごとにめちゃくちゃ。奥さんも疲れ切っています。

おそらく敬虔なカトリック教徒なんでしょうが、性的嗜好人間性は関係ないと言い切りファブ5と信頼関係を築きます。アメリカでは同性愛は市民権を得たと思っていたのですが、保守的な南部では偏見も強く、ファブにも親に家を追い出されたり、学校でいじめにあったメンバーもいるそうです。

 

この回のテーマはオーガナイズ。家が片付いて、お父さんはしみじみこう語ります。

 

When I used to walk into my house, the disorganization, it was a remainder that I'm not enough. Now when I walk in, I see organization structure, and I feel peace. I see home.

かつては散らかった家に帰るたびに、自分の不甲斐なさを感じていた。今の家は整然として安らぎが感じられる。これこそが家だ。

 

おおみそかまであと10日ほど。organizationにはほど遠い我が家ですが、なんとかこの境地に達したいものです。 

 

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たまに高級ホテルに泊まるとあまりにもオーガナイズされた状態に居心地が悪くなります。ほどほどでいいから、乱雑じゃない部屋が好みです。

 

バランスのいい人生なんて真っ平

北海道の雪のニュースを聞くたびに、本格的な冬の訪の前に釧路を旅した幸運をかみしめています。11月中旬、JALの「どこかにマイル」でたまたま釧路が当たったのですが、広々とした澄みきった青空を見ただけでも行った甲斐がありました。

 

釧路湿原摩周湖が定番の観光コースですが、初冬の風景は寂しいだろうから、厚岸(あっけし)に向かいました。

 

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牡蠣で名高い厚岸。ちょうどシーズンです。駅から歩いていける道の駅コンキリエで食べることにしました。

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ここで痛恨のミス。

牡蠣は私の好物ですが、最も好きなのは牡蠣フライ。生牡蠣はあまり得意ではなく、加熱された牡蠣とそのもの衣のマッチングが大好きなのです。

 

それなのに、メニューを見て選んだのは牡蠣フライ2個とおかずがバランスよく配合された松花堂風のお弁当。牡蠣フライは2個で十分、厚岸の味覚をあれこれ味わってみたいし、栄養バランスから考えても最適な選択だと思えたのです。

 

しかし、牡蠣フライを口に入れた瞬間、激しく後悔しました。なんておいしい牡蠣フライなんだろう。これまで食べた牡蠣フライでは最高かも。2個じゃとても足りません。牡蠣フライに特化した定食を頼めばよかった…

 

「食べ物の恨みはおそろしい」と言いますが、今年も犯したさまざまな過ちのうち、痛恨のミスはこれかもしれません。厚岸は釧路から電車で54分。おいそれと再訪できる地ではありません。

 

東京でも「厚岸の牡蠣」をうたったレストランはあります。しかし、現地で食べるおいしさにはかなわないでしょう。

 

これからの一生、厚岸の牡蠣フライを夢見て生きるのかも。くやしいですが、貴重な教訓を得ました。「バランスのいい人生なんて真っ平」。四柱推命では木火土金水のバランスの取れた命式をよしとしますが、そんな命式はめったにないし、生きていくうちに巡りくる大運や流年、流月でバランスは崩れていくものです。世俗的には自分にない五行をプラスすることが開運につながりますが、大局的な見地ではバランスを取ろうとあくせくするより、偏りこそ個性と割り切って自分の偏りを最大限に活かせる道を選べばいいのです。

 

私の世代でのバランスの取れた生き方は、「そこそこの企業に腰掛け就職をして、適齢期で結婚して専業主婦となり二人の子供を育てる」。四柱推命を知る前からそんな人生は無理だとわかっていました。どこにも雇われないフリーランス、結婚するけれど経済的な自立を貫き、子育てはとても無理だから子供は持たないという偏った人生を選んだのは大正解でした。それなのに厚岸のランチ選択でまちがえるとは! 貴重な教訓でした。

 

フィンランドからのクリスマスプレゼント

だらしない性格を直したいと願っているのに、改善されません。

 

英語で"organaized"。住まいがきちんと整っているだけでなく、約束はしっかり守り先延ばしをしない。段取りがいいからあわてることもない。

そんな人に私はなりたい。しかし現実は"unorganaized"です。

 

私の知人で最もオーガナイズされた人といえば、フィンランド人のエリカ。カウチサーフィンで泊めてもらいました。

エリカの職業は編集者で、同業だと思ったのですが、彼女が担当しているのは数学の教科書。与太話ばかりの週刊誌のライターとは全く違います。

 

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エリカとは毎年、クリスマスプレゼントを交換しています。

我が家に届くのは12月に入ってすぐ。すべてがオーガナイズされたエリカですから、年間の用事もスケジュール化して早めに済ませるようにしているのでしょう。

一方の私は、エリカからプレゼントが届いてからプレゼントを探し始めます。なかなかいいものが見つからず時間がだけが過ぎ、ようやく包装を終えて郵便局に行くと、長蛇の列。

 

今年は11月中旬にエリカからこんなメールが来ました。

2、3日前にあなたへのプレゼントを送ったのだけど、フィンランドでは郵便局職員がストライキ中。これから2週間、航空便の発送はないらしいから、到着が遅れると思う。ごめんなさい、でもいつかはきっと届くだろうから待っててね。

フィンランドの社会制度はかなりうまく機能しているように想像していたのですが、現場では問題もあるのでしょう。

 

フィンランド関係のニュースでうらやましいと思ったのは、世界最年少、34歳の女性首相が誕生したこと。母はアルコール依存症の父と離婚し、貧しい家庭で育ったというサンナ・マリン氏です。母は同姓パートナーと暮らし、家族では初めての大学生。

フィンランドでは大学の学費は無償の上、生活費も支給されます。貧しい家庭の子でも大学に行けますが、日本と違って私立大学なんてありません。大学はすべて国立ですから、それなりの成績を収めなければ入学できません。そして、大卒と高卒の生涯賃金はそれほど変わらないので、無理して大学に行く必要もないそうです。

 

エリカからのプレゼントは昨日届きました。 f:id:bob0524:20191212111945j:plain

ファッツエル社のチョコレートやサルミアッキ、ノートに布の小さなバッグなど、フィンランドを身近に感じられます。私からは日本のお菓子やお茶、日本製のムーミングッズも送っています。

 

来年こそは私もエリカのようにオーガナイズされた生活を送りたい。日本語教師を辞めて時間のゆとりもあるんだし。手始めに来年の手帳の11月のページに「エリカにクリスマスプレゼント発送」と書き込みました。来年3月に向けて確定申告の準備もそろそろ始めなければ。その前に年賀状…と、オーガナイズされた生活とは程遠い師走の日々が続きます。

 

人生を変えた読書 呂不韋と高島嘉右衛門

来年に思いを馳せると、自分の運気より株式市場の動きが気になります。来年は市場が冷えそうな庚子(かのえね)の年。下がった時に株を買い、高値に転じるのを待つわけですが、タイミングを読むのは本当にむずかしいものです。

 

株をやっているなんて、あまり大っぴらに言わないほうがいいのでしょう。

映画『ジョーカー』で地下鉄でジョーカーに撃たれた3人組は、トーマス・ウェインの会社に勤めるサラリーマンですが、字幕には「wall street men 3」とありました。アメリカは日本より株式投資が浸透しているはずですが、額に汗することなくクリック一つで儲ける行為に対して根強い反感があるようです。

 

それでも、資本主義社会では、お金を回さないと生きていいけません。

占い学校で「東洋占術で開運したかどうかのバロメーターは、財をどれだけ成したか。あるいは古代中国だったら科挙の合格と出世」と聞きました。本当の幸せとか、心の満足、清貧とか、そういうのは一切考えない。身も蓋もないと思いつつ、痛快でした。

 

それまで西洋かぶれで生きてきた私はすべてが新鮮で、湯島聖堂の講座にも足を伸ばすようになりました。そして「陰陽五行思想の原理と応用」という講座で『呂氏春秋』を知ったのです。講師は日本女子大学の谷中信一先生です。

 

呂氏春秋』は中国の戦国時代末期、秦の呂不韋が学者を集めて編纂させた書物で、各季節に対応して人々がやるべきことが記されています。これは東洋占術の記事を書く際のネタが満載です。

呂不韋という人物に興味を持って読んだのか、この本。小説だから読みやすく、占いの大家も登場します。  

奇貨居くべし (飛翔篇) (中公文庫)

奇貨居くべし (飛翔篇) (中公文庫)

 

一商人から秦の宰相にまでのぼりつめることができたのは、呂不韋が「奇貨(掘り出し物)」を見抜く目を持っていたから。

有力な宰相に取り入って大きな利益を得ていたところ、政変が起こり官立の倉庫に預けていた荷がすべて官のものとなり、大きな損害を受けます。「大損害だ」と肩を落とす部下に呂不韋は「たまには大損もよい。大きく捨てなければ、大きく得られないということもある。危機を、好機の入り口とみなす心胆の目が必要だ」と諭します。呂不韋が単なる商人で終わらず、次への一歩を踏み出す前の台詞であり、ぐっときました。株式相場が大きく揺れる時、このことばを思い出します。私も最終的には自分のためだけでなく社会のために財を動かしたいものです。

 

そして、易の先生が教えてくれたのがこの本。

 

大予言者の秘密―易聖・高島嘉右衛門の生涯 (角川文庫 緑 338-57)

大予言者の秘密―易聖・高島嘉右衛門の生涯 (角川文庫 緑 338-57)

 

作者が推理小説家の高木彬光氏ですから、とても読みやすくなっています。

明治の易聖・高島嘉右衛門の本業は材木商。地震による大火直前に材木を買い占めて大儲けし、翌年の台風で負債を背負う。その後、今でいう「外国為替管理法違反」で投獄。明治維新後は実業家として横浜を近代都市へと変貌させる一方、易で政治のアドバイスも行う。

 

こうした本を読んでいるうちに、単に占いのロジックを学ぶだけでなく、私も「財」を回してみたくなりました。私は四柱推命で「財」の気を余るほど持っていますし。

といっても商売を手に出すのは大変だし、昔の占い修業のように競馬場に行って賭けるのも気が進みません。

というわけで株式投資に落ち着きました。べつにネットにかじりついているわけではなく、買ったら基本的に長期保有。市場が大きく動いた時だけ、買ったり売ったりしています。

 

株式投資は誰にでも勧められるものではありませんが、スケールは小さくても「財」を介して世の中と関わっているという感覚は私にとってかけがえのないものです。