アン・タイラーを読み始めたきっかけは、平安寿子のペンネームの由来だと知ったから。平安寿子がこんなにおもしろいんだから、アン・タイラーはもっとおもしろいだろうと思ったのです。
期待以上のおもしろさでした。一度読んでも数年たつとまた読みたくなります。
今回はこの本を再読。
- 作者: アンタイラー,Anne Tyler,中野恵津子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/03
- メディア: 文庫
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最初に読んだ時は、主人公の男性の恋のゆくえをはらはらしながら追って、気が付いたら読了していました。
主人公のバーナビーはボルチモアの名家に生まれた次男。親の期待に背いて大学を中退し、高齢者相手の便利屋みたいなことをやっています。屋根裏部屋の片づけから、買い物や通院の付き添いまで、日本なら介護保険のサービスでカバーされるような仕事も引き受けています。
どうしてそんな仕事を始めたのか。そのいきさつがおもしろい。
バーナビーは高校時代にちょっと道を踏み外して、近所の家に忍び込んでは他人の手紙を盗み読んだり、思い出の品をポケットに入れていました。
親が裕福だったので示談に持ち込み、少年院に行く代わりのような高校に入れられます。大学が始まる前に夏のアルバイトをしようとしても、バーナビーの前歴が知られていため、どこも雇ってくれません。父親のコネでホームセンターで働き始めたものの、店長から徹底的にマークされます。
ある日、女性客が板を買いに来て、棚に取り付けるために幅6.5センチ、長さ60センチの板が欲しいと言います。
バーナビーは板はそのままで売ることを知らず「切ってあげましょう」と陳列台からのこぎりをつかんでおもむろに切り始めます。
型にはめられることを嫌う彼の性格をよく表しています。
店長は大激怒し、クビを宣言。非行少年を雇わなくてすむ格好の口実だと思ったのでしょう。
女性客はただちにバーナビーを雇うことにしました。高齢者向きのサービスを提供する会社の経営者だったのです。
「高齢者や体の弱い人たちが本当に必要としているのは、あなたのような心の優しい人なの」と。
そして、バーナビーの態度に引きつけられたと言います。
起こったことには大しては逆らわないという態度だったわ。大騒ぎしなかったでしょ。まるで『うん、そうか、それが人生というものならそれでいいよ』と言ってるみたい。私はそこに感動したのよ。この子は”ゼン”みたいに達観していると思ったわ。
バーナビーは結婚相手としては難ありですが、人間的には魅力があります。高齢者の手助けには最適な人物です。
そんな彼が仕事を続けて得た所感。
人間、肚を決めれば見苦しくない老後を送れると思っていた。でも今は、見苦しくない老後などというものはないと思う。たとえあったとしても、それはまったく偶然にすぎない。
さらっと読み飛ばして記憶にとどまらなかったこんな文章が、ひしひしと身に迫ってきます。
前回読んだ時は、親の介護なんて先のことだと思っていたし、自分の老いを意識することもあまりありませんでした。
次に『パッチワーク・プラネット』を読む時はどんな箇所に心を動かされるのでしょうか。それとも、もう本なんて読まなくてなっているのか。
私の母は活字中毒で、「旅行に出ると読まなくちゃいけない新聞が溜まってしまうから大変」と言っていました。
そんな母が「あんなに好きだった本も、読みたいと思わなくなった」と嘆き始めたのは70代半ばごろ。他人事のように聞き流していましたが、私にもそんな時は確実に来ます。そう考えると、限られた時間にできるだけたくさん読まなくてはとあせってしまいます。
ベトナム、ハロン湾の船着き場。本を読むのは、船に乗って別の世界に行くようなものですが、それには気力と体力が必要なんでしょう。