翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

「デンマークに有名なところは、ありません」

日本語学校の作文クラスで教えています。
選択クラスなので、さまざまなレベルの学生がいます。思い思いに好きなことを書く学生がいれば、ひらがなやカタカナの練習をしている学生も。一人一人、自分に合った課題に取り組んでいるのを確かめたら、あとは質問が来るまでひたすら待ちます。

作文のクラスは、授業中は楽だけれど、終わってからの添削が大変だと聞いていました。私はびっしり添削するのはあまり好きではありません。学生の作文じゃなくなってしまいそうで。
その代わり、できるだけ感想を書き込むようにしています。

最初は学生の作風?に合わせた読み物を渡そうとしました。書く力は読む力に比例すると考えたからです。
たとえば、短編SFマンガの原作に挑戦している学生には星新一ショートショート、日本人の彼女との洒落た関係を書いている学生には村上春樹の短編『4月のある晴れた朝に100 パーセントの女の子に出会うことについて』。
でも、それは教師の一方的な押し付けでした。
そこで、学生が書いたものに対して、教師の私も書くことにしたのです。自分の作文に対する日本人の感想こそ、彼らが読みたいものだろうから。

好きなことを書けるレベルまで達していない学生は、作文の教科書の文例を使って、自己紹介や出身国について書きます。
デンマーク人の学生が自国について「有名なところはありません」と書いてきました。
「そんなことはないでしょう、アンデルセンの人魚姫の像とか…」という私に、学生は「うーん、アンデルセンは有名ですが、人魚姫の像を見てもおもしろくありません」。

さらに読み進むと「私の住んでいるところは退屈です」とあります。どうして自国に対してこんなに評価が低いのでしょうか。

そこで思い出したのが、Jante Law(ジャンテロウ)。1933年デンマーク人のライター、アクセル・サンダモセが考案した人生観です。

1.Don't think that you are special.
 (自分を特別だと思うな)
2.Don't think that you are of the same standing as us.
 (私たちと同等の地位であると思うな)
3.Don't think that you are smarter than us.
 (私たちより賢いと思うな)
4.Don't fancy yourself as being better than us.
 (私たちよりも優れていると思い上がるな)
5.Don't think that you know more than us.
 (私たちよりも多くを知っていると思うな)
6.Don't think that you are more important than us.
 (私たちよりも自分を重要であると思うな)
7.Don't think that you are good at anything.
 (何かが得意であると思うな)
8.Don't laugh at us.
 (私たちを笑うな)
9.Don't think that anyone of us cares about you.
 (私たちの誰かがお前を気にかけていると思うな)
10.Don't think that you can teach us anything.
 (私たちに何かを教えることができると思うな)
11.Don't think that there is something we don’t know about you.
 (私たちがお前について知らないことがあると思うな)

幸福度ランキングで世界トップになることが多いデンマークですが、人と比べて優越感や劣等感を抱くことがないから幸福度が高いと読んだことがあります。その根底にあるのが、こうした考え方なのでしょう。

「日本食で一番好きなのは、牛丼です」とデンマーク人学生。
「牛丼って、吉野家の?」
「はい。私は吉野家より、すき屋のほうがおいしいと思います」
デンマーク人、本当に見栄を張らないんだ。安価な牛丼でも、本当に好きなら堂々と宣言する姿勢に好感を抱きました。
こんな発見があるから、作文の授業を一番楽しみにしているのは教師の私です。


フィンランド人もあまり自慢や自己主張をしません。昨年、我が家にホームステイしたヘンリク君のお母さんも「フィンランドは何もない小さな国だから、子供にはしっかり教育の機会を与えることが何よりも重要です」と強調していました。