翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

エイト・ミリオン・ゴッズ

我が家に滞在中のオランダ人学生、クラウス君。

ホームステイを打診されたのが10日ほど前。短期留学生が殺到する超繁忙期だったこともあり、事前のメール交換もなく、来日当日にいきなりの対面となりました。

どうせまた日本のアニメやゲーム好きのオタクだろうと踏んでいたのですが、予測は外れました。

「日本の何に興味がある?」と聞くと、「日本の文化や歴史」とのこと。趣味はスカンジナビアの小説を読むこと。

これはちょっと困った…。

トーマス君みたいな日本オタクなら、中野ブロードウエイやBOOKOFFに一人で行って楽しみますが、クラウス君はどうおもてなしすればいいのでしょう。

 

そもそも、クラウス君はどうして日本に来たのかというと、これまでヨーロッパから出たことがなく、お父さんに「できるだけ遠くへ行きなさい」と言われたから。

これまでヨーロッパ各地に一人で旅行していたから、家族はまったく心配していないとのこと。「アムステルダムから特急に乗れば、ブリュッセルもパリもすぐ行ける」とクラウス君。

日本留学の申し込みがぎりぎりになったのは、ギリシャでバカンスだったからだそうです。日本語の予備知識は皆無。ひらがなも書けません。

あまりにも大胆でよくわからない展開ですが、会話してみるとクラウス君は知的好奇心が旺盛なことがわかってきました。

 

大学ではカルチュアル・スタディーズを学びたいとのこと。それなら、ひらがなを覚えるより、現地で日本を体験したほうが有意義だから、いきなり日本留学となったのでしょう。

「どうして日本の高校は制服があるの?」「どうして犯罪率が低いの?」といった質問をされました。

日本人の主食は米で、稲作は共同体が団結しなくてはいけないから…みたいな話をしつつ、「オランダだって、堤防の穴にずっと手を突っ込で国を救った少年がいたじゃない」と私。「ああ、ハンス」とクラウス君は吹き出します。はるばる日本まで来てあまりにもオランダ的な名前が出たからでしょうか。

 

そして、質問されっぱなしではなく、こちらからも打ち返さなくては。

「二ホンとニッポンは同じ?」には「ネザーランドとダッチとホランドは?」

「どうして自殺が多いの?」には「安楽死が選べるって本当?」

 

安楽死から宗教談義に発展。

「一部の保守的な宗教者は今でも安楽死に反対している。人間の生死を決めるのは神だからって」

「あなたはそう思わないの?」

「全然。宗教を信じてないもの」

「だったら日本が気に入るかもね。神道には八百万の神がいて、しかも私は仏教も好き。結局、何も信じていないってことかも」

直前まで滞在したギリシャの神話をイメージすれば理解しやすいでしょう。神様だってとんでもない奴がいるし、馬鹿なこともする。

「エイト・ミリオン・ゴッズ! ここ最近で聞いた中で一番いい話だ。日本はすばらしいね」とクラウス君。

 

以前通った英語で学ぶ仏教講座では、神道の神はゴッドではなくスピリット(精霊)と訳すべきだと学んだのですが、800万という数字に加えてゴッドのGを小文字にして複数にすると欧米人にはかなりのインパクトがあります。

 

話は盛り上がりましたが、クラウス君は2001年生まれの16歳。私とは40ほど歳の差があります。

年齢も国が違っても、興味のあることなら臆することなくどんどん会話する。フラットな関係とはこういうことでしょうか。

 

クラウス君の滞在は2週間と最短ですが、いろいろと思い出深い期間となるでしょう。そしてフィンランドもいいけれど、オランダもけっこうおもしろいと思い始めました。

 

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オランダ人留学生を受け入れる

カウチサーフィンのサイトを通して日本語学校のホストファミリーを依頼された縁で、その学校で教えることになりました。

 

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教え始めるようになってからも、フィンランド人学生のホームステイを受け入れています。東京の家は狭いし、日本人は家に人を泊めたがらない上に相手は外国人。アコモデーション担当者は、ホストファミリー探しにいつも苦労しています。

ホストファミリーには実費として一日2500円の謝礼が支払われます。あれこれおもてなしをしていると赤字になりますが、中には郊外の広い家で3人、4人とまとめてホストして収益を出しているホストファミリーもいるそうです。

外食に連れて行かず、まとめて食事を作ればコストは下がりますし、学生同士で通学方法やSuicaの購入など教え合うので、ホストの手間もかかりません。

ホームステイの学生に「どんな食事をしているの?」と聞くと、だいたいカレー、うどん、焼きそば、お好み焼き、ギョウザなど。寿司や天ぷらはめったに聞きません。なるほど、お手軽料理をローテーションすればメニューに頭を悩ませることもありません。

 

宿泊者の身元がしっかりしているし、最短でも2週間の長期滞在ですから、Airbnbから乗り換えるホストもいるそうです。

ライター仕事が途絶えたら、郊外の部屋数が多く家賃の安い家を借りて、寮母として日銭を稼ぐのもいいかもしれないと夢想しています。「センスのある損」をするつもりが、ちゃっかり小銭稼ぎにシフトしたりして。

 

先日、学校に行くと、アコモデーション担当者から相談を持ちかけられました。もともとホストファミリーが不足しているところに、お盆の時期。急な申し込みがあって、受け入れ先が見つからない学生がいるとのこと。

フィンランド人じゃないんですけど、もし、できたら…」と申し訳なさそうに打診されました。

ホストファミリーを求めていたのは、オランダ人の学生でした。

即座に頭に浮かんだのがこの本。

 

思い出のアンネ・フランク (文春文庫)

思い出のアンネ・フランク (文春文庫)

 

 著者のミープ・ヒースはアムステルダムの隠れ家で暮らしたアンネ達を支えました。

ミープはオランダ人ではなく、ウィーン生まれのオーストリア人です。もともと丈夫な子供ではなかった上に、第一次大戦後の深刻な食料不足で栄養失調になり、「このままでは命が危ない」と、食料事情のいいオランダに養女に出されました。里親はすでに5人の子持ちで生活は豊かではなかったのに、ミープが健康になるように懸命に育てました。

すくすくと成長したミープはオーストリアに帰ることなく、アムステルダムで就職したのがアンネ・フランク父親が経営する食品会社です。 

戦時中で食料が乏しくなり、自分たちが生きていくのも大変なのに隠れ家の二家族を食べさせるのは大変な苦労だったことでしょう。しかも、途中から歯科医のデュッセルさんまで隠れ家生活に加わります。

 

6年前、私はこんな文を書きました。この時はカウチサーフィンを始めていませんでした。

ゲシュタポによる連行後、戻ってきたのは父親のオットー・フランクだけでした。ミープがナチの目をかわして保管していたアンネの日記は、世界中の人に読み続けられることになりました。

アンネ・フランクのように、後世に残るような文章を書くことは、私には無理でしょう。そして、ミープ・ヒースのような崇高な献身もできません。
せめて、ミープがユダヤ人をかくまっていることを薄々気づいて、何も言わずにジャガイモを多めに袋に入れる八百屋さんぐらいの行為はできないものかと思っています。

 

もちろん、戦時中の緊迫した事情と現代ではとても比較にはなりません。

それでも、さまざまなことがつながって、人生には思いもよらない展開が待ち受けているものだと実感しました。

 

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オランダといえばチューリップ。「本当のチューリップを持ってきたかったんだけど…」と クラウス君は木製のチューリップの花束を差し出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のAnne

子どものときに夢中になって読んだのが『赤毛のアン』と『アンネの日記』。昔から外国かぶれでした。

 

 『赤毛のアン』のアンはAnnじゃなくて、Anne。同じ発音でも、綴りが違うと受ける印象も変わってくるので、「eのついた綴りのアンで呼んでください」とマリラに頼むエピソードが印象的でした。日本人の名前も、同じ発音でも漢字が違うとイメージはがらりと変わります。

 

そして『アンネの日記』は物書きを目指す世界中の女の子のバイブル的存在でしょう。アンネの生涯は短く、悲惨な結末を迎えるものでしたが、自分の書いた日記が世界の人の心を打つなんて、文学少女の夢です。

 

ある日の日本語学校の作文クラス。テーマは「私の国」。

カナダのトロントから来た女子学生が書いた「私の国の有名人」はトルドー首相とセリーヌ・ディオン

うーん、たしかに有名だけど、あなたの国の少女文学で日本でとても有名なのがあります。『赤毛のアン』は日本独自のタイトルなので、グリーンゲイブルズのアンと言い換えます。アメリカではほとんど読まれていないそうですが、本国のカナダの女の子なら知っているんじゃないかと一縷の望みをかけました。

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さすがにカナダの女子学生は『赤毛のアン』を知っていました。アンの国から来た女の子に日本語を教える日が来るなんて、中学生の私は想像もしていませんでした。

 

そして、カナダの女子学生の隣に座っていたのはオランダの女子学生。

アンネ・フランクはオランダ人ではありませんが、アムステルダムで潜伏生活を送りました。「アンネ・フランクを知っていますか」と聞くと、「私の家はアンネ・フランクの家のとても近くにあります。毎朝、アンネの家の前を通って学校に行っています」とのことでした。

 

「ごめんなさい、私の日本語が上手じゃありません。アンネ・フランクについて上手に書けません」とオランダ人の女学生。

「あやまらないでください。あなたはアンネ・フランクの家の近くに住んでいます。それだけで、私はとても感動しています」と私。

 

こういうやりとりがあるから、日本語学校の教師はやめられません。

 

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愛媛県の伊予大島の道の駅にいた二匹の猫。

祖父がこの島の出身なので、ルーツ探しのために出向きました。

「餌をやらないと、猫が店に出ちゃうんで」と照れくさそうに語ったお店の人が印象的でした。

 

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この時に会った猫は、再度訪問すると、もういませんでした。痛ましいことですが、新しい猫がいて、犬と出会いました。こうやって人生は回っていくのでしょう。

 

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養老渓谷へ小さな旅

外国人に日本語を教え始めて、まとまった休みがとりにくくなり、海外旅行に行かなくなりました。

その代わりに国内の小旅行に頻繁に出かけています。がんばれば日帰りできる場所に一泊してのんびりします。

日本語教師の仕事に慣れない時期は、小旅行がご褒美でした。

授業がうまくいかなくて胃がきりきりと痛み「辞めたらどんなに楽になるか」と思い詰めていた時期は、「あと何回授業をこなせば、旅に出られる」と自分をごまかしながら続けてきました。

 

何時間も飛行機に乗って外国に出かけなくても、国内にもおもしろい場所はたくさんあります。おもしろそう、いつか行ってみたいと思っているだけでは、一回も行くことなく人生が終わってしまいます。思い立ったらどんどん出かけよう。

というわけで、先週は千葉県の養老渓谷へ1泊2日で出かけました。

 

きっかけは昨年12月、いすみ鉄道の伊勢海老急行。

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このときのお土産で、いすみ鉄道の一日乗車券をいただきました。有効期限は2018年3月末。うかうかしていると、あっという間に期限切れでしょう。

というわけで東京から外房線で大原へ。いすみ鉄道に乗り換え上総中川で途中下車。「かさや」で、ばくだん定食のランチ、国吉に戻り國吉神社と出雲大社を参拝、再びいすみ鉄道に乗車し上総中野で小湊鉄道に乗り換え養老渓谷に宿泊という計画を立てました。行きと帰りで房総半島を横断することになります。

 

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「かさや」のばくだん定食。ボール状のメンチカツの中には味玉が入っています。

 

8月だからどこも混雑しているかと思いましたが、子連れの房総半島旅行なら海を目指す人が多いのか、のんびりしたいい旅になりました。

 

宿泊したのは養老渓谷の滝見苑。8月とは思えない涼しい日で、格好の温泉日和でしたから、「ごりやくの湯」にも足を伸ばし温泉を満喫しました。

 

翌朝は養老渓谷を散策。

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粟又の滝(養老の滝)。

伝説の通り、流れる水が酒だったらどんなにすばらしいか…。

夕飯で頼んだ地酒「大多喜城」が飲みきれず、部屋に持ち帰りました。グラスも貸してもらったのですが、結局、翌日の小湊鉄道のトロッコ電車で車窓を楽しみながら飲みました。

 

ふらりと入ったお店の人や旅館の人はみな温かく、国吉駅養老渓谷駅の猫とも遊べました。みんなそれぞれの場所で生きている。そんな当たり前のことに気づけるのも、小さな旅の醍醐味です。

 

尾野寛明さんは「風の人」

朝日新聞の土曜版フロントランナーに尾野寛明さん登場。

 

www.asahi.com

尾野さんとは島根で三度、東京で一度お目にかかったことがあります。

 

占い学校で知り合った親友の優春翠から、島根と関東の二拠点生活を送る計画を聞いたのは10年ほど前。当時は、島根はとても遠いイメージがあり、そんなことが可能なのか半信半疑でした。

彼女に誘われて島根に遊びに行き、「おもしろい人がいる」と紹介されたのが尾野さんでした。当時の尾野さんは島根と東京を2週間ごとに行ったり来たりしていました。

その後、小野さんは地域再生のキーパーソンとして島根だけでなく、全国各地を飛び回るようになりました。現在は「3日と同じ場所にいない」「1週間動かないと体の調子が悪くなる」とのことです。

 

フィンランド人ジャーナリストのアンネを連れて島根に行ったときも尾野さんがたまたま滞在中でした。

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尾野さんは「風の人」。

地域に新しい風を吹かせ、滑り出したら『あとは頼んだ』といなくなる。 (ローカルジャーナリストの田中輝美さん)

「風の人」と呼ばれることについて尾野さんはこう語っています。

土地に根ざしている「土の人」と対比して、地元に根づかない人という意味ですよね。どうせいなくなるのに無責任だと僕も批判されました。でも土の人は風の人を使い倒してくれればいいんです。違う考え方や情報、人脈だってもっていますから。<中略>

いろんな人を紹介したり、連れてきたりして火を起こすのが僕の役回り。あとは地元の人がやる方がいい。

 

東洋占術の基本である陰陽五行は木火土金水。「木」は自然界では「風」です。風は新しい情報であり、人脈。風を活用することで「火」は勢いよく燃え上がって「土」は肥沃になり、豊かな実りがもたらされます。

風水では、「気」のよどみを嫌います。閉め切った家、何年も開けていない納戸や引き出し、段ボール箱は家の気を停滞させます。

 

尾野さんレベルのスケールの大きな「風」でなくても、毎日の生活にちょっとした風を取り入れるようにしています。

ワンパターンの料理ではなく、新しいメニューを試したり、通勤の経路をちょっと変えてみたり、読んだことのない作者の本に手を伸ばしたり。

土地に根ざして生きる「土の人」はまじめで立派な生き方ですが、それだけでは行き詰まってしまうし、第一、おもしろみに欠けます。風を上手に取り入れて、発見のある毎日にしたいものです。

  

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