翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。

ここではないどこか、ここにはない何か

栃木方面に旅する時、いつも楽しみにしているのがレモン牛乳

黄色と緑のパッケージになつかしい味。東京を離れて旅に出たという高揚感もあり、とてもおいしく感じます。

宇都宮、鬼怒川の土産物屋には、レモン牛乳だけでなくレモン牛乳味のクッキーやチョコレートなどのお菓子類、パッケージデザインのTシャツや文房具も売られています。

 

近所のローソンでレモン牛乳を発見! 大喜びで買いました。

 

でも、ありがたみが薄れたような気がして、記憶に残っている味ほどおいしく感じません。レモン牛乳は旅先という非日常の味。近所で買えるなら、単なる甘い飲料です。

パッケージを見ると、栃木産ですらなく、横浜の工場で作られているようです。

 

手に入らないものを美化してありがたく感じます。

 

冷戦下のソ連には「ボーン・レコード」なるものがあったそうです。

欧米のロックやジャズを禁じられた当時の人々は、病院から廃棄されるX線写真で海賊盤を作り、音楽を楽しんでいました。録音できるのは3分で、ぺらぺらの盤ですから10回も聴くとすり減って使い物にならなくなります。

しかも、当局に見つかると逮捕されるリスクもあります。

 

そこまでして聴く西側の音楽は、心をどれほど激しく揺さぶったことでしょうか。

 

ネットサービスを使えば音楽も聴き放題、映画も観放題。読みたい本もすぐに手に入ります。恵まれた環境のようでいて、「どうしてもこれが聴きたい、観たい」というものがなくなります。

 

だから旅に出て非日常感を味わうのです。栃木だけでしか飲めないレモン牛乳はその象徴です。

しかし近所のローソンでいつでも手に入るとは…。

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右側が栃木で買ったラングドシャ・クッキー。左のレモン牛乳は栃木より関東の字が大きく、製造工場は静岡です。 

 

東京の生活がつまらないと感じる私に活を与えるのは、ドナルド・キーンの『短くても強烈な』というコラムです。2003年の朝日新聞の切り抜きはすっかり黄ばんでしまいましたが、折に触れて読み返しています。

 

 ソ連へ旅行する機会があってそこの日本研究の状態を見た。レニングラードで日本文学の教授に会った。私と違い、ソ連の日本研究家は好きな時に日本へ行けなかった。五十歳位の教授は一回しか日本へ行ったことがなかった。団体の通訳だったので見物などができなかったが、ある朝団体の用事がなかったために一人で自由に東京を歩くことができた。この三、四時間を一生忘れられないと教授は語った。

 この話を聞いた私は一種の罪悪感を覚えた。私は数年も日本で過ごしたし、また行くだろうが、私に負けないほど日本に深い関心を持っていた教授は三、四時間で満足しなければならなかった。不公平だというしかない。しかし、自己弁護になるかも知れないが、教授の数時間の日本のイメージは数年間にわたって出来た私の日本のイメージより純粋で強烈だったのではないかと思う。そう信じたい。

 

ドナルド・キーンコロンビア大学を退職し、2011年9月に日本に永住するために来日しました。契機となったのは東日本大震災です。

 

 「どうして日本に生まれたのか。選べるのならアメリカに生まれたかった」と若い頃に思っていたので、ドナルド・キーンの行動に驚きました。そして、日本語学校の教師になり、「あこがれの日本」に嬉々としてやってくる若者たちに接しました。

 

自分の生まれた場所、持っているものに満足して一生を終えたら、それはそれですばらしい人生です。

その一方で、「ここではないどこか」を夢見る人生もなかなか楽しいのではないでしょうか。

東京のローソンで買えるレモン牛乳に満足せず、これからも本場栃木のレモン牛乳を求めて旅に出ることにします。 

おごれるエリザベスと鬼怒川温泉の廃墟

NHKのEテレ「100分de名著」、録画がかなり溜まっているので少しずつ観ています。

 

日本史が苦手でも『平家物語』の回ははとてもおもしろく、ためになりました。

解説と朗読の両方を担当するのは能楽師の安田登氏。

諸行無常」、「栄枯盛衰」は仏教を学んでいると繰り返し出てくる概念ですし、易の基本思想でもあります。

 

人生がたまたまうまくいっているからといって、有頂天になってはいけない。

反対に、うまくいかないことが続いても、絶望してはいけない。

 

安田登氏によると、「平家が全員、思い上がっていたわけでなく、サスティナビル(持続可能)にしなくてはいけないと考えた人もいた」とのこと。

でも、これが本当にむずかしい。幸運に恵まれると、ずっとその状態が続くような気がするのです。人は信じたいことを信じる傾向がありますから。

   

高慢と偏見』の回も最高でした。ジェーン・オースティンのこの小説は、何回も読み返しています。


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末の妹の駆け落ちにより、自分たち姉妹は良家との縁組とは無理だと考えるエリザベス。娘ばかり生まれたベネット家では、財産は遠縁の男性が相続することになっていますから、絶望的な状況です。

 

ところが、高慢で鼻持ちならなかったはずの大金持ちのダーシーの尽力により、スキャンダルは封印され、最後はエリザベスとダーシーの縁組も整います。

 

ことの顛末を伯母に伝える手紙でエリザベスは「姉のジェーンより幸せだ、ジェインが微笑だとしたら、私は大笑いだ」と書きます。

I am happier even than Jane: she only smiles, I laugh. 

 

解説の廣野由美子教授によると「大笑い」というのは、駆け落ちした末の妹リディアの口癖。

エリザベスが軽蔑していたはずの母親の虚栄心が彼女の心にも芽生えたのではないかと辛口の詩的です。

 

平家物語』と『高慢と偏見』。東西の名著を通して、共通の教訓が浮かび上がってきます。『高慢と偏見』は映画のブリジット・ジョーンズのシリーズで現代によみがえりましたが、広大な敷地の英国貴族で税金が払えなくなって没落していった家もたくさんあります。

 

そして50代後半の私は、日本経済の栄枯盛衰も目の当たりにしてきました。

先日、訪れた鬼怒川温泉

 

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東武鉄道鬼怒川温泉駅から一つ先の鬼怒川公園駅まで行って、川沿いに下っていくと、廃業した旅館が並んでいます。

バブル経済が永遠に続くような気がして、事業を拡大。銀行からも大量の資金が融資された時代。団体客の画一的な温泉旅を見込んだ旅館は徐々に市場のニーズと乖離していき、バブルが弾けると資金難に陥ります。

権利関係が複雑にからみあっているのか、売却も再建もされず放置されたまま霧の中に立つ建物群をながめていると、7月というのに寒気がしてきました。

 

ボブ・ディランの『廃墟の街 Desolation Row』が頭の中で自動再生。

Now the moon is almost hidden, the stars are beginning to hide

The fortune telling lady has even taken all her things inside

今、月はほとんど隠れ、星も隠れ始めた

女性占い師でさえ、道具を片付けた

 

月も星も見えないのでは、運命を占うことさえできません。

占い師は運命がお見通しだと思われがちですが、そんなことはなく、運が悪かったり、経済的に困窮している占い師も山のようにいます。

 

経済アナリストも同じです。誰も暴落を予測できません。

ニューヨーク株式市場が最高値を更新していますが、そろそろ潮時なんじゃないか…。かといって数年前からそう考えて投資を控えていた人はチャンスを失ってきたわけです。

後付けの解説なら、いくらでもできますが、今を生きる私たちは「諸行無常」「栄枯盛衰」の教えを胸に、ダメージを最小限にするような方法を選択するしかありません。

 

エクストリーム出発で宇都宮を堪能

夏休みシーズン、どこも混雑しているし、JALの「どこかにマイル」もあまり魅力的な候補地が出ません。

近場で気分転換、鬼怒川温泉に行くことにしました。

 

ただ行って帰るだけではおもしろくない。というわけで、宇都宮に前泊しました。

 

最近よくやるのが、「エクストリーム出社」ならぬ「エクストリーム出発」。

エクストリーム出社は、早朝に活動して定刻に会社に行くこと。

朝が苦手でそもそも会社勤めもしていない私には不可能ですが、自由に出発時間を決められる旅なら、出発前にもう一つのお楽しみを計画できます。

 

たとえば、JALの「どこかにマイル」の出発時間を19時以降にして、大田区の銭湯に寄って羽田空港に向かいます。大田区は温泉の銭湯が多いのです。

目的地の空港到着は夜遅くなりますが、割り切って格安のホテルにして、翌日は朝から動けます。

羽田空港を朝出発しようとすると、通勤ラッシュに巻き込まれますし、現地到着がお昼ごろとなり、空港バスの接続が悪いとその日に使える時間はあまりありません。だったら夜到着のほうが効率的です。

 

鬼怒川温泉は東京から2時間ほどの距離なのでエクストリーム出発はないかと思ったのですが、地図をながめていたら、途中に宇都宮があります。

新宿から宇都宮まで埼京線で行けるし、なかなかいいかも。一泊すれば宇都宮という街の雰囲気をなんとなくつかめるでしょう。

 

宇都宮には北関東最大級の広さを誇る「ザ・グランドスパ 南大門」があります。

水風呂もしゃきっと冷たく、露天風呂もあり「サウナでととのう」には最高の環境でした。

村上春樹は知らない土地に行くと必ず走り、自分にしか感じられないことを感じようとするそうですが、私の場合は地元の銭湯に入ることがそれに当たります。

 西日本出身の私にとっては、浴槽で聞こえる北関東のことばも新鮮で、いかにも旅行中という気分に。旅行者しかいない温泉宿より、地元の人が通うスーパー銭湯こそ旅の醍醐味をしっかり味わえます。

 

 

「ザ・グランドスパ 南大門」はその名の通り、焼き肉が名物。お風呂に入らず、食事だけのお客さんもいるそうです。

サウナに焼き肉。おじさん街道まっしぐらですが、宇都宮まで来たからにはやらないわけにはいかない。今年の3月、自宅のリノベーションのために3週間のホームレス生活を送り、サウナにも泊まったことで怖いものがなくなりました。

 

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「ザ・グランドスパ 南大門」にはおひとり様用のカウンター焼き肉席もあり、館内着のまま利用できます。女一人で焼き肉を食べようが、気にする人なんていません。

 

そして夜は餃子ざんまい。

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できればこんな気楽な旅を続けたいものです。

 

宅を卜(ぼく)せず、隣を卜(ぼく)す part2

先日の午後、玄関のベルが鳴りました。

私が住んでいるマンションはオートロックで、ほとんどのベルは1階のエントランスから鳴らされ、誰が来たのか画像でチェックできます。

 

珍しく、玄関まで誰かが来ているようす。インターホンを取り上げると、すぐ上の階に住む奥様でした。

 

玄関ドアを開けると、1歳ぐらいの男の子を抱き、片手には菓子折りの袋。

「この子が歩くようになって、音が下に響いているんじゃないかと思い、ごあいさつにうかがいました」とのこと。

 

築20年のマンションですが、防音はなかなかいいらしく、上の階の音を意識することはあまりありません

迷惑に感じるどころか、こんなに子供を育てにくい今の時代の東京で、よくがんばって子育てしているものだと若いお母さんを応援したくなりました。それに、とても愛想のいい男の子で私にもにこにこしています。

「音は全然、聞こえません。歩けるようになってよかったですね。子供は元気なほうがいいですし、お気になさらないでください」と力説しました。

 

きらいな人間の立てる音は小さくても気に障るものです。

最初にいい関係になっておけば、たとえ、男の子が大きくジャンプして音が響いたところで、「元気そうだな」とほほえましく思うものです。

 

人間心理を熟知して、あらかじめトラブルを回避するこのお母さん、若いのになかなかの切れ者だと感心しました。そして、こういう人が近隣に暮らしている幸運をかみしめました。同じマンションに住んでいるのは運命共同体のようなものですから。

 

風水では家の中心から見た方位別にラッキーカラーのアイテムを置いたり、気が乱れないように掃除や整頓をするのが開運につながるという記事をさんざん書いていました。

 

でも、その前に大切なのが近隣との関係です。

湯島聖堂で学んだ『晏子春秋(あんししゅんじゅう)』を思い出しました。

中国春秋時代の名宰相、晏嬰(あんえい)は、自分の住居の吉凶を家相や方位ではなく、隣近所にどんな人が住んでいるかで占っていたのです。

 

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英語でもこう言います。

A man is knouw by the company he keeps.

つきあう友を見ればその人がわかる

 

「運が悪い人とはつきあいたくない」と口にして「同情心というものがないの!」と非難されたことがあります。

本当に運が悪いだけなら、助けたい。でも、大半の人は、自ら運が悪くなるような行動をとっているとしか思えないのです。

 

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鹿児島・天文館には星座が埋め込まれています。

運がいい人は別に占いなんかに頼る必要はありませんが、なぜかうまくいかないことが続くなら、視点を変えるために占いからヒントを得てみるのもいいかも。

 

 

同調圧力による死  知覧特攻平和会館

九州の豪雨のニュースを目にして、先月の鹿児島の旅を思い出しました。

JALの「どこかにマイル」で鹿児島がよく当たり、去年から3回、訪れています。本州最南端の鹿児島は人が温かく、食べ物もおいしいし、いつも楽しい旅になります。

 

初回は指宿、2回目は霧島、そして3回目は枕崎へ。

枕崎まで南下したなら、知覧にも足を伸ばさないわけにはいきません。

知覧といえば、特攻隊。できたら行かずに済ませたいけれど、「どこかにマイル」で鹿児島ばかり当たるのは、行かなくてはいけないという天の声なんでしょう。

 

枕崎から知覧へ行くバスの時刻を調べていたのに、ネットの情報が古くて3時間ほどのロスタイムが生じました。

 

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もう知覧に行かなくてもいいかと思いました。特攻なんておぞましい日本の歴史に向き合いたくなかったのです。でも、枕崎の観光案内所の女性が「知覧にはぜひ行ったほうがいい」と勧めてくれました。

 

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知覧特攻平和会館に展示されている、遺書や手紙。読んでいくうちに苦しくなってきます。本当は死にたくないのに、死なざるを得ない状況。

 

当時、少年航空兵に選ばれるのは大変な名誉。町や村を挙げて万歳三唱で送り出されました。しかし、戦局が悪化するにつれて、自分の命を犠牲にして敵艦を撃沈することが求められたのです。

 

拒否なんてできないでしょう。死ぬのが嫌で逃げだしたら、自分の家族がどんな目に遭うか考えたら。

 

視聴覚室で語りを聞かせてくださった方は、終戦当時子供だったそうです。戦争なんて昔のことではなく今につながっているという感覚になりました。でも、リアルタイムで戦争を知っている人たちは高齢化して世を去っていきます。

 

ホロコーストを生き延びてアルゼンチンに渡った少年が70年ぶりに故郷のポーランドを目指す映画『家へ帰ろう』。 

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当時を伝える場所や本、映像に接して、今を生きる幸運をかみしめたいと思います。