翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌やビジネス誌の原稿書きを30年。現在はリタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。2025年夏、ガルシア=マルケスの作品舞台となった地を一目見たくてコロンビアへ。ウラナイ8https://uranai8.jp/で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで四刷になりました。

甘くて苦いビッグアップル

世界で一番好きな都市はニューヨーク。

学生時代から何度か旅していますが、最後に来たのは20年近く前。リーマン・ショックに加えて911事件の衝撃も残っており、街全体がぎすぎすしていた印象があります。スーパーのレジで、早口の英語がわからなくて聞き返すと「だから、カゴはここへ置けって言ってるんだよ!」と強い口調で返されました。用事が終わったらさっさと立ち去れと言われているような「ネクスト!」も好きじゃありません。

 

今回のニューヨークではまったくそういうことがなく、誰もが親切です。

たとえばエンパイアステートビルが見える人気のルーフトップバーの入り口に立つ黒服。いかにもアジアからのお上りさんだから断られるかも。勇気を出して「予約していないのだけど」と伝えると「何を言ってるんだい、ただのバーだよ」と笑って通してくれました。

 

6月の午後6時、日はまだ高く、バーというより談話室。日が暮れて夜景が広がる頃には大行列ができていました。

 

泊まったのホテルでは朝食を提供しない代わりに同じビルの1階で使える10ドルのクーポンをもらいました。パンを選ぶと温めるかどうか聞かれ、「どこから来たの?」「日本から」「日本のアニメ、すごいよね!」といったちょっとした会話が続きます。

日本人が海外旅行先で嫌われるのは、効率優先で注文だけ告げようとするから。お店に入ったらまず挨拶。手を上げて係を呼ぶのは絶対にやめるようにというアドバイスを読みました。サービスを提供する側と受ける側は対等な立場でパーソナルに交流し、そのために多少時間がかかっても誰も気にしていません。そもそもちょっとした言葉を惜しんで節約した時間で何をするというのでしょう。世界中で最も忙しい都市であるはずのニューヨークでこんな風に考えさせられるとは思ってもみませんでした。

 

地下鉄に乗ると若いアフロヘアの青年が「ここに座ってください」と席を譲ってくれました。高齢者に見えたのかとショックでしたが、ありがたく親切を受け取りました。東京の電車で席を譲られたことはまだありません。

これまでニューヨークに来るたびに限られた時間内にあれもこれもしなくてはと余裕のない旅でした。今回は時間をたっぷり取って、できる範囲で楽しんでいます。お店での注文やエレベーターに乗り込む際は「お先にどうぞ」。地下鉄でも急いで座ろうとしなかったから席を譲ってもらえたのかもしれません。

 

スペイン巡礼や熊野古道で学んだ旅の極意は急がないこと。ゆっくり行く者が遠くまで行くのです。Netflix「クィア・アイ」のジョナサンがよく使う「アフター・ユー」は旅を快適にする呪文。

bob0524.hatenablog.com

 

 

ニューヨークの美点ばかりに目が行きがちですが、物価は日本の3倍ほどでしょうか。外食だったら表示金額に加えて税金とチップ。日本円で考えるたびに頭がくらくらします。

せめて日本円がもう少し強かったら。そして世界のインフレに合わせてゆるやかに物価上昇していればこんなに差がつかなかったでしょう。世界中からお買い得の日本に観光客が殺到しているのもよくわかります。東京のコンビニで何気なく買っていた品々のなんと安いことか。経済戦争に敗れた国から来たことをひしひしと感じます。

 

 

ニューヨーカーがみんな裕福なわけではなく、タイムススクエア近辺には物乞いもいます。お金を入れる缶の横の段ボールにはこう書かれていました。

"I am too ugly to prostitute, and to honest to steal."

醜すぎて体を売れない、正直すぎて盗めない。

ここでは、路上で小銭を乞うにもちょっとしたセンスが求められるのです。