中国文学者の井波律子さんが亡くなりました。享年76歳。
井波律子さんの本を読むようになったのは、彼女がザ・バンドを偏愛していると知ったからです。
ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞に際し、井波さんはこう書いています。
ディランの「歌詞」は音楽と不可分であり、いわゆる詩や文学ではないという向きもあるようだが、それはちがうと思う。詩はもともと歌であり、たとえば、中国最古の詩集「詩経」も元々は歌謡であった。「詩経」は孔子弟子集団の教科書だったが、それもただ読むのではなく、演奏したり、歌ったりして学んだ。
六十四卦の一つ、雷地豫は雷が地上で響き渡る象。雷は音であり、中国古代の王はこの卦にのっとって音楽を創造しました。 雷地豫の豫は、楽しませるという意味。祭りで音楽を奏でるのは、人間とともに神を楽しませるからです。
高校時代にボブ・ディランを知り、ザ・バンドに行きつきました。
ザ・バンドはかつてザ・ホークスと名乗っていました。ウッドストックでディランとともに隠遁生活を送り、地元の人から「ディランとあのバンド(ザ・バンド)」と呼ばれたことからグループ名を変えました。日本人のとって冠詞の"a"と"the"の使い分けがむずかしいのですが、このエピソードで"the"の使い方が頭に入りました。
高校生だった私にとって、1976年11月25日、彼らの解散コンサートが開かれたサンフランシスコは遠い海の向こう。リアルタイムでこのコンサートを観ることはできませんでしたが、繰り返しDVDを再生しています。
代表曲の一つ「ザ・ウェイト」の歌詞は、ナザレやモーゼなど聖書の言葉が散りばめられ難解ですが、「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」という家康の遺訓に通じます。
この曲が生まれた50年後のコラボ。日本からはギタリストのCharが参加しています。世界中のミュージシャンの共演はまさに「雷地豫」です。
The Weight | Featuring Robbie Robertson and Ringo Starr| Playing For Change | Song Around The World
西洋かぶれでも東洋思想を学んでもいいんだという確証を与えてくれた井波律子さん。そのおかげで、家に閉じこもっていても心は自由に世界中を駆け巡っています。