ある曲との出会いが、人生を変えることがあります。
NHKのアナザーストーリーズ『”ダンシング・クイーン”ABBAと王妃の知られざる物語』を見てそう思いました。
『ダンシング・クイーン』が初めて披露されたのは、スウェーデンのシルビア王妃の結婚式前夜のセレモニーです。
二人が出会ったのは1972年のミュンヘン・オリンピック。語学が堪能なシルビアはグスタフ国王担当のコンパニオンでした。
番組に登場したスウェーデン人の記者によると、グスタフ国王はさまざまな女性と浮名を流したけれど、シルビアに心奪われる決定打となったのは、デートの際に彼女が自分の支払いをして、おごってもらおうとしなかったから。興味深い話です。
さて、結婚前夜のおめでたい席なのに、王立オペラ座に入場したシルビア王妃は暗い表情です。この結婚は国民にあまり受け入れられていなかったから。
どの国にも王室や皇室に口を挟む人がいるものなんですね。シルビア王妃は貴族じゃない上に外国人。国王より3歳年上で、スウェーデン語もたどたどしい。しかも、ドイツ人の父親は戦時中にナチ党員だった…。
結婚を前にしてかなり不安が募り、オペラの演目もあまり楽しめなかったのではないでしょうか。そこにABBAが登場。『ダンシング・クイーン』をシルビア王妃に捧げると、しおれた花が水を得たように一気に表情が明るくなります。歌詞はスウェーデン語じゃなくて英語だし。
その後、シルビア王妃は率直で明るい人柄で国民に受け入れられます。後のインタビューで「もちろん私は17歳じゃなかったけれど、『ダンシング・クイーン』に大いに励まされた」と語っています。
そして『ダンシング・クイーン』は通俗的で中身がないと批判され続けてきたABBAにとっても転機をもたらしたし、オーストラリアでは性的マイノリティを励ます曲となりました。たしかに自己肯定感を上げる曲です。
外出自粛が続き、家で楽しめることを探す日々ですが、自分の人生を変えた曲をしみじみと聞くのもいいものです。
私にとってはボブ・ディランの『スペイン革のブーツ』。
『木綿のハンカチーフ』の元歌とされており、男女が入れ替わっています。恋人を置いて出かけるのは男性でなく女性。ニューヨークに残されたディランがヨーロッパに渡った当時の恋人にあてた曲です。
去年の秋に旅したマドリード。立派な建物があると思ったら、王宮のあるゾーンでした。
元ニュースキャスターのレティシア王妃も人気がありますが、民間出身で離婚歴のある女性を迎えるのはスペイン王室初。ノルウェー王室のメッテ・マリット妃の父親は麻薬常習者で服役中、彼女自身も麻薬に手を染めたことがあるシングルマザー。ヨーロッパの王室にはまるでドラマのような展開が数多くあります。