翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

求めすぎると与えられない

ディープな湯治宿、増富温泉の「不老閣」。二泊の滞在であれこれ体験できました。

 

初日は夫と滞在して、二日目からは一人泊。浴室で知り合ったご常連のおかげで、心細い思いをせずに済みました。夕食時、ほとんどのお客さんはお酒を注文しないので私も二日目は休酒できました。

 

 二日酔いであの強力な岩風呂に入れないと思ったからです。重い病の人が救いを求めてここに通うのもよくわかりました。

 

「このお湯は強力ですね」という私にご常連がこう言いました。

「強力だから、入りすぎないように」

そして、こう解説してくれました。

「1日に1回か2回にしておくべき。病気を治したい一心で3回も入る人は早死にするらしいから」 

 

たしかに、このラジウム泉に入るとエネルギーをかなり消耗します。

部屋には布団が敷きっぱなしになっていて、入浴の後は必ず布団に横になって休むように指導されます。岩風呂から出て布団に入ると、真昼間だというのに一気に深い眠りに落ちました。

  

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岩風呂の神棚。これまで何人の病人がラジウム泉の効能にすがり、ここで手を合わせたのでしょうか。

 

引き寄せの法則」では、願望を明確に、具体的にするように説かれています。

病気になったら苦しいから、治りたい。それは心の底からの強い願いであり、そのために効果のありそうなことは徹底的にやる。そういう生き方もあるでしょうが、あまりにも強く願いすぎると、病気である自分が許せなくなって、ますます苦しいのではないでしょうか。

 

そして、人に求めすぎると距離を置かれてしまいます。

 

感謝の言葉を伝えられても、「もっとお願い」という気持ちが垣間見えると、興ざめします。

 

たとえばカウチサーフィン。お金を介在させず人の家に泊まったり、自分の家に泊めるねネットワークサービスで、旅人に親切にしていあげたいという善意、あるいは異文化交流や知的好奇心が動機となっています。

 

意気投合して、ホスト側が「もっといてもいいよ」というケースがありますが、泊めてもらうカウチサーファーのほうから最初の取り決めより長く滞在したいと要望してはいけません。料金を支払えば延泊できるホテルとは違い、「もっと善意を」と要求するのは関係を壊す可能性が高いでしょう。

 

易の六十四卦の一つ、水地比(すいちひ)。

「比」は「親しむ」という意味で、大地に水がしみ込んでいく象です。

五爻の辞に「王もって三駆(さんく)して前禽(ぜんきん)を失す」とあります。天子が狩りに出たら、すべての獲物を捕ろうとせず囲みの前面だけを開いて、そこから逃げるものは追いません。

 

「もっと、もっと」と求めすぎてはいけない。小人にはむずかしいことですが、老いを迎えるにあたってはぜひとも身に付けたい作法です。老いを意識するまで生きたということは、すでに十分与えられているから。