山梨に増富ラジウム温泉という湯治場があり、そこは冷泉であることを知りました。沸かし湯と交互に入るそうです。
交互浴にハマり、水風呂のない温泉宿には泊まりたくありません。温泉自体が冷たいのなら、それは好都合。
湯治場にも興味があります。生老病死から人間は逃れられません。どんな湯治場がいいのか、元気なうちに確認しておきたい。大病を得たら、新しい場所を探索する気力がないかもしれないから。
というわけで、「不老閣」に電話してみました。増富温泉を代表する老舗らしいし、山道を歩いて入るワイルドな岩風呂にも入ってみたかったから。
人気の宿らしく2か月先でようやく予約が取れました。夫婦で連泊したかったのですが、2日目は一人部屋しか空いていないというので、夫は一泊で私だけ二泊することにしました。一泊だけではこの宿の全体像はつかめないような気がしたからです。
ホームページはありますが、ネットで予約はできず電話のみ。クレジットカードも使えず現金払い。常連の湯治客でいっぱいになるから、わざわざ新しいシステムを入れる必要もないのでしょう。
中央線の「特急あずさ」で韮崎まで。そこからバスに揺られて1時間ほど。どんどん山の中に入っていきます。
宿に到着後、温泉の入り方の指導を受けました。温泉の効き目が強いから、長く入りすぎてはいけないし、入浴後は布団に横になって休むように言われました。
いきなり岩風呂に行くのは過激かと思い、まずは建物内の浴室へ。
源泉は冷たいといっても30~36度ですから、サウナの後の水風呂に慣れている私には生ぬるい感じ。お湯は濃い黄色で、独特の匂いもあり、成分がとても強そうです。
満室の湯治宿ですから、お風呂には必ず数人のお客さんがいます。
初めて来たのは私だけで、皆さん、何度も泊まっているとのこと。毎月という人もいました。チェックアウトの際に次の予約をしていくそうです。
そして皆さん、何らかの病があるか、病気の家族につきそっているか、それぞれ事情があるようす。「丸山ワクチンを週2回やっているので、3泊しかできないんですよ」という人に、「今は健康でズンバを週4回踊っていて、病気になった時のために体験しに来ました」なんてちょっと言えません。幸い、人の事情を詮索するような不躾なお客さんはいませんでしたから、助かりました。
夕食は野菜中心で薄味の健康的なメニューでした。
宿のホームページからお借りした写真です。
つい、いつもの習慣からとりあえずビール、そして甲府ワインのボトルまで注文てしまいましたが、そこまで飲んでいるのは私たちぐらいでした。
二日目、夫をバス停まで見送り、一人部屋に移動。ご常連の話によると、一人部屋が空いているのは珍しく、一人部屋から予約が埋まるそうです。
そして岩風呂へ向かいました。男性と女性で時間帯が決まっています。
山道をけっこう歩きます。病人がここを歩けるのでしょうか。やっとの思いで一歩一歩進みながらたどりつく人も多いことでしょう。
外観はちょっと雑然としていますが、中の岩風呂は神々しくて、地中から湧きだした恵みを一身に受けるスポットでした。
常連さんによると、入る場所によって水と風の流れが微妙に違うとのこと。「私はこの場所が一番好き。ちょっと代わってみましょうか」と場所を譲ってくれました。とても奥の深い温泉です。
不老閣に泊まって、「これに似た体験をしたことがある」と思い出したのが、西式の体験入院です。
温泉というより長期療養の病院のような雰囲気だった不老閣。
本当にここが必要な人の場所を奪うことがないように、健康なうちは行かないつもりです。病を得たら、再びお世話になることでしょう。