本の中に入り込み、ページをめくるのがやめられず、一気に読了。たまにそんな本に出合います。この本もそうでした。
息子が殺人犯になった――コロンバイン高校銃乱射事件・加害生徒の母の告白 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズII-16)
- 作者: スー・クレボルド,仁木めぐみ
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2017/06/24
- メディア: 単行本
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生き地獄があるとしたら、これほど過酷な地獄があるでしょうか。
良き社会人であり、二人の息子を育てた良き母から、大量殺人犯の母への転落。
欧米は個人主義だから、家族が犯罪を犯しても別人格として扱われるという話を聞きましたが、息子が高校生であり、殺人の規模があまりにも大きかったため、両親は激しく糾弾されました。
父親である夫は「この苦しみが終わるのは死ぬとき」と言います。自殺するほうがずっと楽な状況です。
眠れない夜が続き、やっと眠れても、目覚める時が最悪です。「悪い夢を見た」と思って目覚めたら、夢よりもひどい現実が待っています。
アウシュビッツ強制収容所を描いた『夜と霧』で悪夢にうなされる仲間を起こそうとしたフランクルは、結局そのままにします。目覚めた状況のほうが悲惨だから。
掲載された写真を見ると、幸せそうなアメリカ人一家としか見えません。殺人犯となった次男のディランも金髪のハンサムな少年。高校のスクールカーストの最下層とも報じられましたが、事件の三日前にはタキシードを着てガールフレンドとプロムに行きましたし、大学進学も決まっていました。
長男の名前はバイロン。二人とも詩人にちなんで名付けたそうです。
ボブ・ディランもウェールズの詩人、ディラン・トーマスから命名したという説もあります。
バイロンとディラン、兄弟に名づけるなら、これ以上素敵な名前はないほどセンスのある命名です。
女の子の殺害事件が起こるたび、女の子の母親は「わが子を犯罪から守るためにはどうしたらいいのか」と考えますが、男の子の母親は「わが子を犯罪者にしないためにはどうしたらいいか」と考えるそうです。
子供のいない私には想像できないことですが、子育ては人生の喜びである反面、大きなリスクを抱える大事業だと思います。
著者のスー・クレボルドの残酷すぎる運命に胸がつぶれる思いでしたが、彼女に心を寄せる人たちの存在が心を打ちました。
職場の上司は、仕事に復帰するように彼女を励まします。気が狂いそうな苦しみの中で何とか生き延びるために仕事は大きな助けになったでしょう。
世間が「親なのに、息子の異常性にどうして気づかなかったのか」と責める中で、思いやりを示す人もいました。
自宅にはマスコミが殺到したため親戚の家に避難。病気持ちだった猫は環境が変わったため、動物病院に預けるしかありませんでした。
顔を見られないように、脇のドアから動物病院に入り、猫を医師に託して駐車場に戻る時、背後から名前を呼びながら追いかける足音がします。動物病院のスタッフです。
一瞬、彼女は走って逃げようかと思いますが、その必要はありませんでした。
スタッフの女性は両手で彼女を抱きしめ、「男の子というものが、どれだけ信じられないようなばかなことをしかねないのかよくわかっている」と言ってくれたのです。
自分の子供を犯罪者に育てようなんて母親はいません。でも、人間は不完全なものだから、まちがいを犯します。
犯罪者の親を一方的に糾弾するのではなく、思いやりを示すような社会に暮らしたいと思います。