翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

日本はよみがえるか?

私が最初にフィンランドに惹かれたのは、アキ・カウリスマキの映画『浮き雲』です。
夫婦揃って失業し、なかなか仕事がみつからないというストーリーで、おしゃれな北欧とは程遠い、地味で野暮ったい映画です。

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映画の舞台は1990年代前半、ソ連崩壊によってもたらされた大不況の時代。
その後、フィンランドはIT立国化を進め、ノキアが大躍進し国も発展します。
そのノキアは2014年、マイクロソフトが買収。ニュースが流れたのは、ちょうど私がヘルシンキに滞在し、友人のエリカの出版社にお邪魔していた日でした。
「いつかはこうなると想像していたけれど、やはり悲しい」とエリカや同僚が嘆いていました。トヨタソニー外資の傘下に入れば、日本人だって心穏やかでいられないでしょう。

しかし、フィンランドは国を挙げて起業を後押しし、復活を果たしつつあります。
そのあたりの流れは、この本が参考になります。

国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由

国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由

読みながら、この夏に我が家に滞在して日本語を学んだヘンリク君のことを思い出しました。
ホームステイの終わりに一家がサプライズ来日し、新宿でご飯をご馳走になり、フィンランドのグローバルエリート家庭の教育方針を垣間見るかのような体験でした。

日本語を学ぶ若い欧米人というと、オタクをイメージします。ヘンリク君に実際に会うまでは、日本のアニメや漫画が好きなんだろうかと想像していました。
ヘンリク君は子供時代はポケモンに夢中だったそうですが、日本語を勉強することに決めたのは将来のキャリアを見据えてのことです。

フィンランドの人口は600万人足らずで北海道程度。「国内だけを相手にしていたのでは、私たちのような小国はとても立ち行かなくなります」とお母さん。
そして「フィンランドの教育はすばらしいと日本でも評判です」と言う私に、こんな言葉が返ってきました。
「たしかに、落ちこぼれを出さないという点ではフィンランドの教育はよく機能しています。でも、突出した才能を伸ばすという点では劣っています」

ヘンリク君はしきりと「高校が退屈」とメールしてきます。
「大学進学前の大切な時期に、まったく関係ない日本語なんて勉強して大丈夫なの?」とよく聞いたものですが、家庭内ではフィンランド語とスウェーデン語のバイリンガルで、さらに英語、ドイツ語をマスターしたヘンリク君にとっては、日本語でも勉強しなくては知的能力を持て余しているのかもしれません(スウェーデン語とドイツ語はよく似ているから、たいしたことじゃないと彼は言います)。

そして、渋谷の日本語学校では寮もあるのに、わざわざホームステイを選んだのは、教科書で学べる日本語だけでなく、日本の文化や生活をダイレクトに体験したかったからかもしれません(典型的な日本家庭から外れている我が家でよかったのか疑問ですが)。

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ヘンリク君は最近、スラッシュでボランティアを始めたそうです。
スラッシュとは、フィンランド発祥の起業イベントで、今年4月には、お台場で「SLUSH ASIA」も開催。親日国であり、ヨーロッパでは日本に一番近い国であるフィンランドは、起業というテーマに日本と組みたいのかもしれません。

上記の本で最も心動かされたのが、古市憲寿氏による最終章の一節です。

 日本では現在、根拠のない悲観論(もしくは祈りのような楽観論)が流行している。「このままでは日本は終わる」と言われると身構えてしまうが、その意味でフィンランドは何度も「終わってしまった」国だ。
 戦争により領土を奪われ、敗戦国として戦後賠償に苦しめられ、大国ロシアに翻弄され、深刻な不況を経験している。しかしそのような挫折のたびに、フィンランドはよみがえってきた。変わり続ける勇気を持つ限り、国は終わらない。
 それがフィンランドという国から最も学ぶべきことなのではないだろうか。

私は「日本終わり」の悲観論に傾いていました。
フィンランド人の日本オタクに細々と日本語を教えたいと思い立ち、日本語教師養成講座に通うようになり、世界には日本語を学びたいというニーズがけっこうあることを知りました。
日本だって変われるし、よみがえるかもしれない、そんな希望も少し芽生えてきました。


水道橋のムーミンカフェにて。鳥谷選手のユニフォームを着ているのは、東京ドームで阪神巨人戦を観た日だから。ヘンリク君、なんと店内でじゃんけん大会に勝ち抜き、ムーミンと記念撮影です。