前回、ダッハウ強制収容所に送られたアドラーの弟子、ファロウ氏について書きました。
id:kamomeskyさんがファロウ氏が生還できたかどうかを調べ、二匹の蛙のエピソードの英語バージョンも紹介してくれました。
http://d.hatena.ne.jp/kamomesky/20150505/1430830393
ナチスの強制収容所はあまりにも残虐で、「昔のことだから」と流してしまいたいのですが、中学生の時に『アンネの日記』を読んで以来、心の隅に引っかかっています。
アドラー心理学について読んでいたら出てくるのはしかたがないとしても、片付け本だと思って気軽に手に取って、ぎょっとしたこともあります。
http://d.hatena.ne.jp/bob0524/20150305/1425518069
学生時代、心理学を専攻していたので、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』を苦行のように読了し、強制収容所関連の本や映画に努めて触れるようにしてきました。
この本も、なんとか読み終わりました。

- 作者: レナ・K.ゲリッセン,ヘザー・D.マカダム,Rena Kornreich Gelissen,Heather Dune Macadam,古屋美登里
- 出版社/メーカー: 清流出版
- 発売日: 1996/11
- メディア: 単行本
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たとえば、午前4時に叩き起こされ、トイレには長い列。レナの妹のダンカは収容所に来たばかりで勝手がわからずトイレに行きそびれます。
点呼の前にどうしてもトイレに行きたくなったダンカを連れて、自分の棟の前に戻ったレナですが、中に入れてもらえません。収容所の規則は厳しいのです。しかし、服を汚したらひどい目に遭います。
結局、姉のレナが棟長を押さえつけ妹をトイレに行かせるのですが、女性親衛隊に見つかり、ブーツで蹴り上げられ、立ち上がれなくなるほど殴りつけられます。
トイレに行くだけでもこんな目に遭うとは…。
女性たちの多くは収容所に入れられたショックで生理が止まるのですが、レナは体が丈夫だったせいか生理が始まってしまいどうやって処置したらいいのか困惑したという話もあります。
そして、レンガ移動の労働。
3メートルほど離れて収容者が並び、レンガを拾い上げてとなりに投げていきます。少しでもスピードが落ちると鞭で打たれ、素手で重いレンガを扱ううちに手の皮は破れ出血します。
これだけでもひどいのに、本当に残酷なのは翌日。一日がかりで移動させたレンガを元に戻すように命じられるのです。肉体だけでもなく精神にダメージを与え、囚人の生命力を奪うために考え出された労働です。
悲惨な場面だけではなく、人間の生命力を描くシーンもあります。
収容所の近くを通りかかった農夫が「わざと」荷車からキャベツを落としていきます。囚人たちを表立って助けるのは違法ですから、偶然、キャベツが落ちたようにふるまうのです。
飢餓状態にあるレナがキャベツを生のままかじると、ビタミンやミネラルが体中に行き渡っていくのを感じます。
久しぶりに、『レナの約束』を手にとったのですが、もう通読する気力はありません
ヴィクトール・フランクルの名言。
「どのような状況になろうとも、人間にはひとつだけ自由が残されている。
それは、どう行動するかだ」
『レナの約束』の作者は、「妹を生きて連れて帰る」という一念を支えに生き延びました。
極限の状況の中で生き延びた体験は、強く心を打ちます。
そして、その背後には、何も語ることなく命を落とした何倍もの人がいます。