日本好きの外国人旅行者を中心にカウチサーフィンのホストをしていると、よく話題に出るのが村上春樹。彼らは英語で読んでいるわけですが、とても読みやすいとのこと。
『雑文集』によると、村上春樹自身も、自分の小説の英語翻訳を読むそうです。
読みだすとけっこうおもしろくて(というのは自分で筋を忘れてしまっているから)、わくわくしたり笑ったりしながら、最後まですっと読み終えてしまったりする。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01/31
- メディア: 単行本
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そのうち時間がたっぷりできたら、英語で読んでみたいものです。
『羊をめぐる冒険』/"A Wild Sheep Chase"
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』/"Hard-Boiled Wonderland and the End of the World"
『海辺のカフカ』/"Kafka on the Shore"
『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』/"Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage"
英文タイトルを眺めているだけでわくわくしてきます。
フィンランド人のアンネが好きなのは、『ねじまき鳥クロニクル』/"The Wind-Up Bird Chronicle"
戦争の残虐シーンが生々しくて、一回読んだきりです。
文庫本の初版が平成9年ですから、15年ぶりに再読してみました。
最初に読んだときは、主人公のオカダ・トオルがいわゆるニートで奥さんがフルタイムの仕事で働いている状況がとても斬新だと感じたのですが、今はそう特殊なことではありません。
そして、占い師や霊能者が特別な役割を果たすことも感慨深く読みました。15年前も私はフリーランスのライターをやっていましたが、医学とかビジネスといった硬めの取材ものが中心だったので、まさか自分が占い原稿をメインで書くようになるとは想像していなかったのです。
主人公はニートになる前は法律事務所で働いていたのですが、占い師の本田さんにこう言われます。
法律というのは、要するにだな、地上界の事象を司るもんだ。陰は陰であり、陽は陽であるという世界だ。
<中略>
しかしあんたはそこには属しておらん。あんたが属しておるのは、その上かその下だ。
本田さんの言う通り、主人公は井戸の底や壁の向こう側とかに行ってしまうわけですが、本田さんはこんな風に続けます。
流れに逆らうことなく、上に行くべきは上に行き、下に行くべきは下に行く。上に行くべきときには、いちばん高い塔をみつけてそのてっぺんに登ればよろしい。下に行くべきときには、いちばん深い井戸をみつけてその底に下りればよろしい。流れのないときには、じっとしておればよろしい。流れにさからえばすべては涸れる。
なかなか含蓄に富んだ言葉です。でも実際の占い鑑定の現場では、もう少し具体的なアドバイスが求められます。
『ねじまき鳥クロニクル』には、加納マルタと加納クレタという霊能者姉妹も登場しますが、実践的な開運法としては、主人公の叔父のアドバイスが役に立ちそうです。
妻のクミコが出て行ってしまい、次々と不可解なことに巻き込まれ「いろんなことがものすごく複雑に絡み合っていて、どうやってほどけばいいのかわからない」と嘆く主人公に叔父はこう言います。
それをうまくやるためのコツみたいなのはちゃんとあるんだ。そのコツを知らないから、世の中の大抵の人間は間違った決断をすることになる。そして失敗したあとであれこれ愚痴を言ったり、あるいは他人のせいにしたりする。
<中略>
コツというのはね、まずあまり重要じゃないところから片づけていくことなんだよ。つまりAからZまで順番をつけようと思ったら、Aから始めるじゃなくてXYZのあたりから始めていくんだよ。お前はものごとがあまりにも複雑に絡み合っていて手がつけられないと言う。でもそれはね、いちばん上からものごとを解決していこうとしているからじゃないかな。何か大事なことを決めようと思ったときはね、まず最初はどうでもいいようなところから始めた方がいい。誰が見てもわかる、だれが考えてもわかる本当に馬鹿みたいなところから始めるんだ。そしてその馬鹿みたいなところにたっぷり時間をかけるんだ。
主人公は叔父に言われるまでもなく、この開運法を実践しています。
頭が混乱してくるとシャツにアイロンをかけるのです。襟(表)に始まり左袖・カフで終わる12工程。ひとつひとつ番号を数えながらきちんと順序通りにアイロンをかけていきます。
優先順位をつけて、重要なことから片付けろと多くのライフハック記事は言いますが、重要なことはなかなか片付きません。怖気づいたり、手を付けずにあきらめてしまうぐらいなら、目の前にある簡単なことを片付けてしまうのはいい方法です。
混乱してどうしていいかわからない事態に陥ったら、頭を抱えて座り込むのではなく、シンクの中の汚れた皿を洗ったり、取り込んだままの洗濯物を畳む。機械的に手を動かしていくうちに、世界は少しずつ秩序を取り戻していきます。
カウチサーフィンで泊めてもらったヘルシンキの編集者エリカの家。夫のサムと協力して、家事をシステマティックに片付けていることに大いに啓発されました。