翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

「わたしのうちへ帰って、お掃除しなきゃ」

12月になると「年末大掃除進行」が気になります。
年末ぎりぎりになってあわてないよう、掃除すべき場所をリスト化。
一日に一つずつ片づけていく。
そういうことを考えるのですが、雑誌のライターにとって年末は年末進行がスタートして超多忙な時期。
そのうち忘年会の予定も入り、大掃除は未消化のまま大晦日を迎えることになります。

掃除といえば思い出すのはムーミン・シリーズのフィリフヨンカ。
家事を生きがいにして、掃除や料理が大好き。
ムーミンママも家庭的ですが、どこか大雑把なのに対し、フィリフヨンカは完璧な家事を目指します。

ムーミン谷の十一月 (講談社文庫)

ムーミン谷の十一月 (講談社文庫)

そんなフィリフヨンカが11月のある木曜日、屋根裏部屋の窓を拭くことにしました。
お湯をわかして粉石けんを入れて、屋根裏部屋へと運びます。
まず窓ガラスの外側を拭こうとして、窓の敷居をまたいだのですが、足をすべらしてしまいます。
屋根から落下して死ぬかもしれない危険な状況から生還したフィリフヨンカは、コーヒーでも飲もうと台所の戸だなを開きます。

戸だなの中には、やけにぎっしり、せとものがつまっていました。
こんなにせとものがあるなんて、いままでまるっきり気がつかなかったわ。コーヒー茶わんなんて、ぎょっとするほどあるし、野菜ざらや肉ざらだって、ありあまるぐらいあります。おぼんは、山づみになっているし、食器だって入れものだって、何百というほどあるんだから。それなのに、それをつかうのは、たったひとりなんだわ。わたしが死んでしまったら、あとはだれがつかうのかしら。

フィンランドを旅した時、ある女性から「日本では、家の中に物があふれていて、それを捨てる方法を教えているって本当?」と質問されたことがあります。
断捨離とか、人生がときめく片付けの魔法のことを指しているのでしょう。
私が滞在したフィンランドの家はどこもすっきりしていて、物を持ちすぎているのは日本人だけかと思いましたが、フィリフヨンカだって似たようなものです。

フィリフヨンカは、ムーミン一家を訪ねることにします。
しかし、ムーミン一家は不在。人恋しさからムーミン屋敷にやってきたホムサやヘムレンさん、スクルッタおじさん、ミムラ姉さん、そしてスナフキンと奇妙な共同生活が始まります。

屋根から落ちて死にそうになったトラウマからフィリフヨンカは、掃除という言葉が頭に浮かんだだけで、めまいがしてきます。
そして、こう思います。
「お掃除もできない、お料理もできないでは、生きていたってしょうがないじゃないの。
ほかには、する値打ちのあるものなんて、なにもないもの」

そのうち、魚料理がほめられたり、徐々に自信を回復したフィリフヨンカ。
ミムラ姉さんからは、ムーミンママの真似をしても、ムーミンママにはなれっこないといじわるなことも言われますが、みんなと暮らすうちに少しずつ心がほぐれていったようです。

ついにフィリフヨンカはムーミン屋敷の大掃除を決行。
こんな楽しそうな大掃除のシーンが繰り広げられます。

ありとあらゆるポットがならんで、かまどでお湯がわき、ブラシやぼうきれやおなべが、しまってあった戸だなからおどりだし、ベランダの手すりには、いっぱい敷きものがかかりました。ものすごい大掃除でした。
<中略>
お掃除が、またできるようになったなんて、すばらしいことでした。フィリフヨンカはどんなごみがかくれているところでも、ちゃんと知っていました。ごみくずは、ふわふわした灰色のかたまりになって、ほうぼうのすみっこに、ちゃっかりおさまっていました。ころころころがっていくうちに、大きく太って、髪の毛だらけになり、ぜったいに見つかりっこないと安心しているごみというごみを、フィリフヨンカはかたっぱしから掃き出しました。
<中略>
楽しそうなお掃除を見ているうちに、スクルッタおじさんだけは別ですが、そのほかの人たちは、みんなうきうきしてきて、自分たちも一緒なって、お掃除がしたくなりました。水はこびや、じゅうたんふるいや、あちこちの床を、ちょっぴりみがいたり、あちこちに分かれて窓をふいたり、みんないっしょになって、掃除を始めました。おなかがすくと、食べものおきばにはいっていって、家族の夕べのお料理の食べのこりをさがしました。

すべてがぴかぴかに光ってきれいになると、フィリフヨンカは、頭にかぶっていたハンカチをとり、エプロンをはずして、こうつぶやきます
「さあ、こんどはわたしのうちへ帰って、わたしのうちもお掃除しなきゃ」

そして、「きれいにお掃除してくれて、ありがとう」とヘムレンさんにお礼を言われたフィリフヨンカはこう答えます。
「わたし、しないではいられなかったんですもの。あなただって、わたしとおなじように、したくてたまらないことをすればいいんだわ」

こんなふうに思いながら大掃除ができれば最高なのですが、現実はそうもいきません。


フィンランドの伝統的な農家の室内。フィリフヨンカの家もこんなふうなのかなと想像しました。