翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

旅先で垣間見る人生

ちょくちょく旅に出ているのですが、観光スポットを回るのはあまり興味がありません。

今回の島根旅行は、前半、婚活中のお嬢さんたちと一緒だったので、いわゆる観光旅行を体験しました。
お嬢さんたちは2泊3日で私は4泊5日の旅。連休だったので出雲は大混雑で、優春翠の実家がある川本町に着いてほっとしました。
それでも、石見銀山はお嬢さんたちの新幹線や飛行機の時間から逆算して広島行きの高速バスに乗る時間が決められています。
おもしろいものが目にとまったら、そこでゆっくりしたいのですが、そうもいきませんでした。

旅の後半は優春翠と二人でひたすらマイペースでディープな旅に。

秘湯・湯抱(ゆがかえ)温泉の中村旅館では、私たち一組だけの宿泊。

女将さんと手伝いの方の二人で切り盛りしているようなので、一組だけで手一杯なのでしょう。
食事の時間からお風呂の湯加減まで、すべて私たちに合わせてもらう贅沢な体験となりました。
料理は「これで採算が取れるのだろうか」と思いたくなるほどの量が二階までわざわざ運ばれてきました。お風呂は湯の花が蓄積し、クレーター状に。昨年の小屋原温泉と同じぐらいすばらしいお湯でした。

優春翠は地元出身なので、女将さんがどこの町からお嫁に来たのかなど、話が弾みました。
この旅館に嫁いで来たときはお姑さんもいたのでしょうか。若女将として仕事を覚え、今では中心となって旅館を切り盛りする人生。お客は一組だけでも、多くの部屋があるので掃除も大変だし、食事の準備と運搬も重労働です。

与えられた人生を受け入れ、淡々とやるべきことを丁寧にこなしている姿に頭が下がります。

川本町の優春翠の実家にも泊めてもらい、今回の旅のハイライトは、お母さんに太巻き作りを教えてもらったこと。
フィンランド人のカウチサーファーが泊まりに来ると巻き寿司でもてなし、ヘルシンキのエリカの家でも材料を工夫して寿司を巻いてみました。しかし、自己流なので形がいびつになったり、具がうまく中央に収まらないこともしばしば。
優春翠のお母さんが太巻きの名人だというので、レッスンをお願いしたのです。

人参と干し椎茸は前の夜から煮て味を染み込ませます。高野豆腐、ほうれん草、卵焼きと、一つ一つ下ごしらえしておきます。赤いカマボコは切るだけかと思ったら、しいたけの煮汁で蒸します。一度熱を通しておくと食品衛生的に安心だからです。煮ると色が悪くなるので蒸すそうです。

酢飯にはしっかりと酢を効かせます。作りたてを食べると酢の味が強いのですが、一晩置くと味が落ち着いてまろやかなになっていました。

太巻きを作るのは、遠足や運動会、お祭り、神楽など特別なイベントがあるとき。外で食べることを前提に、醤油をつけずに手でつかんでそのまま食べておいしい味に仕上げているのです。コンビニのサラダ巻きのぼんやりした味とはまったく違います。

慣れた手つきで巻いていくお母さん。要所でぐっと力を込めるのがコツのようです。

こんなに手のかかる作業ですが、太巻きを口にする子供たちや共同体の人々のことを思いながら、丹精込めて何度も作ってきたのでしょう。

自分の生き方とはまったくかけ離れた人生の一面を垣間見ること。それこそが旅の醍醐味です。