翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)、ビジネス記事翻訳。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。ウラナイ8所属。

勝ち目のない出来レースで迎える老後 『ノマド 漂流する高齢労働者たち』

映画『ノマドランド』の原作『ノマド 漂流する高齢労働者たち』、映画を観る前に読んでおくべきでした。

  

 

この本の元になった『ハーパーズ・マガジン』の記事のタイトル。

The End of Retirement: When You Can't Afford to Stop Working.

(リタイアの消滅――働くのをやめる余裕がなくなった時代)

 

現代のアメリカに生きることはなんと大変なんでしょう。

中流階級は消滅し、「格差」なんて生やさしいものではなく「深淵」だと書かれています。

 

 法定最低賃金で働く正社員の収入でワンベッドルームのアパートの賃貸料をまかなえる地域は全米でわずか12の郡と大都市圏が一つだけ。

 

 いまのアメリカ人にとって長生きしすぎてお金がなくなることのほうが、死ぬより怖いという現実だ。高齢アメリカ人のほとんどが、リタイア後は「余暇の時間」だと考えているが、その余暇にまったく働かずに過ごせる見込みの人はわずか17%しかいないことが、別の調査で判明している。

  

勝ち目のない出来レースから降りる手段の一つは、家を手放すこと。家賃やローンの支出をなくし、キャンピングカーやトレーラーハウスに住み、季節労働でガソリン代を稼ぐという生き方です。

 

深刻なテーマですが、ぐいぐい読めるのは、登場する人物がみんな魅力的だから。

リンダ・メイ(64歳)はシングルマザーとして二人の娘を育て上げ、能力も向上心もあり、対人スキルも抜群。ノマドの集会ではお母さん的役割として多くの人に慕われます。映画には実名で登場し、アカデミー女優のフランシス・マクドーマンドに引けを取らない存在感がありました。

そして、リンダ・メイの親友となったラヴォンヌ(67歳)は元ABCラジオの放送記者としてキャリアを築き管理職に昇進したけれどうまくいかなくて解雇。50代になって仕事を見つけるのがどれほど困難か思い知ります。「賞味期限が切れていたのね」とラヴォンヌ。

 

元記者がいれば元広告アートディレクターの男性ノマドもいます。

映画『ノマドランド』で元教え子から「先生はホームレスになったの?」と聞かれた主人公のファーンが「いいえ、ホームレスじゃなくてハウスレス」と答えるシーンがありますが、ネタ元はこの男性。広告業だったので言葉にうるさいのです。ハウスは単なる建物だけど、「ホームタウン」「ホームカントリー」というように、ホームは自らのアイデンティティ。家を失っても人間性まで失っていないので、ハウスレスと自称するのです。

元アートディレクターは「広告の仕事はここ数年減っていて、わずかに残った仕事は若い者に行く」と言います。日本の広告、出版業界も同じです。占い学校に行って本格的に学んだこと、翻訳もできるライターという特技を生かして60代になっても仕事を回されているのはなんて幸運なことだろうと改めて思いました。

リンダ・メイは「仕事の選択肢は長年の経験によって広がるのではなく、むしろ年齢によって狭まっていく」と語っていましたが、専門的な仕事をしていた人でも幸運に恵まれないと、高齢ノマドになる可能性があるのです。

 

占いができるノマドも登場します。リンダ・メイとアマゾンの倉庫の深夜勤務で出会ったシルビアンはタロット占いができます。そして、車中生活に至った数々の不運は、神さまのご意思だったのだと思うようにしています。

 

映画では、アマゾンの倉庫での仕事を楽しく描いていましたが、これは撮影許可を得るためにはしかたなかったのでしょう。実際はかなり過酷です。

 勤務はシフト制で、最低でも十時間は通して働く。その間すっと、コンクリートの固い床の上を歩き回り、屈んだりしゃがんだり背伸びしたり階段を上ったりしながら、商品のバーコードをスキャンし、商品を仕分けし、箱詰めする。一回の勤務で24キロ以上歩く人もいる。

 

 フェイスブックのアマゾンのコミュニティでは、ある女性は3カ月働いたら11キロ以上痩せたと報告。だれかがそれに答えて「毎日欠かさずハーフマラソンの距離を歩いたら、それくらい痩せるのは簡単。しかも疲れすぎて食べる気にもならないし」。

 

繁忙期だけとはいえ、60代や70代でこの重労働に耐えられる人じゃないとノマドになれません。そして、大型車を長時間運転できる体力も必要です。

 

そして思い出したのが、日本の刑務所がまるで介護施設になりつつあるという話。高齢者用に食材を細かく切ったり、浴室に手すりをつけるなど対応に追われているそうです。「刑務所のほうが楽だから」「身よりがないから」と刑務所に入りたがる高齢者もいるとか。

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博物館網走監獄で見た受刑者の部屋。車中泊してアマゾンの倉庫で働くより快適そうだと感じてしまう私は、高齢ノマドにはとうていなれません。

 

定山渓の宿でこれからの仕事について考える

1985年に結婚して36年。半端な年数ですが、1985年は丑年で十二支が3巡しました。結婚後に東洋占術を学んで、子丑天中殺なのに丑年に結婚したことに気付きました。

次の丑年までの12年間は旅行も楽しめるだろうけれど、次の12年はどうでしょうか。日本人の寿命は延びていますが健康寿命となると、男性は72.14歳、女性は74.79歳です。

いつもは「どこかにマイル」で旅をすることが多いのですが、結婚記念日ぐらい行きたいところに行こうと6月の札幌を選びました。ベストシーズンの北海道ですから、ウルトラ先得で春先に予約。6月頃にはコロナも収まっているだろうと楽観的だったのです。

 

宿泊したのは札幌の奥座敷定山渓温泉の旅籠屋。

「定山渓商店」と名乗っているのは、肉屋と酒屋が併設されている温泉宿というコンセプトだからです。サウナと水風呂があるので選びました。一泊二食付きのツイン、事前決算で一人1万1000円。夕食は焼き肉、朝食はカレーか雑炊という温泉宿にしては個性的なメニューですが、旅館の料理を食べきれないことが多いのでちょうどいいと思いました。

 

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北海道も緊急事態宣言下で、夕食の席には五組ほど。本来なら6時と8時スタートの二部制ですが、7時も選べました。

レストランのスタッフは一人だけ。テーブルには六段の容器がセットされていて、一番上が前菜、二番目がサラダ、残りが肉です。部位の説明、焼き方のコツ、おすすめのタレは印刷された紙が置かれています。ご飯とスープは自分で取りに行くスタイル。そしてお酒はとなりの酒店のカウンターで注文して自分で運び、チェックアウト時に清算です。酒屋で酒を買うのですから、緊急事態宣言下でも飲めるわけです。

一般の旅館ではテーブルごとに担当者がついて、食事の進み具合をみながら料理を運びお酒の注文を取っていましたが、旅籠屋のスタッフは簡単な説明と焼き肉用に火をつけるだけですからフロアに一人で事足りるのです。

 

お客さんが少なかったのでチェックアウト時にこの宿についてあれこれ聞いてみました。ビジネス誌の記者をしていたころの癖がつい出ます。

もともとこの建物は札幌市の保養所。部屋はリノベーションしてお風呂はそのまま使っているそうです。オーソドックスな温泉旅館も経営していて、新しいスタイルの宿として誕生。サービスは最小限にしてコストを徹底的に抑えています。

夕食のメニューが一種類だけで、ワ―ケーションで連泊する場合はどうしているのか質問したら、二日目からは朝食のみのプランにして外に食べに行ってOK。メニューを絞っているからこそ、効率的に仕入れができて最上級の食材を提供できると強調していました。

 

温泉旅館の老舗だから、オペレーションは手慣れたもの。コロナで観光業はどこも大変でしょうが、アフターコロナはこうした企業が伸びるでしょう。

 

これからの社会に求められている能力は、変化に合わせて仕組みを作ること。

7年前に読んだこの本の一節を思い出しました。「10年後の仕事のカタチ」とありますが、今でも内容は古くなっていません。超高齢化を迎える日本では、高齢者だからといって働かないわけにもいかないだろうから参考にしようと思って読みました。

 

今後、労働者を分断するのは、「仕組み」をつくる側になれるかどうか。

仕組みを作ってマニュアル化し、人に任せられるようになったら効率は一気に上がります。そして仕組みに従って単純化された作業をこなす人は最低時給で雇われます。

極論は「うまく回る仕組み」をつくるのがうまければうまいほど、出世を重ねて、支配階級になるんです。面白いビジネスの仕組みを考えつく人ってそれなりに沢山いるんです。「根性」とか「長時間働いた」とかっていうのは全然評価されません。評価されるのは「結果」であって、今まで10のリソース使ってやっていた作業が3でできちゃったとか、ミスが劇的に減る仕組みとかが評価されるわけです。 

 

大変な時代になるんだ、この時代に若者じゃなくてよかったというのが正直な感想です。

映画『ノマドランド』で描かれた下層ノマドの話も書かれています。「仕組みをつくりだす側」がハイパーノマドで、アマゾンの配送センターで仕組みに従って必要とされる期間だけ体を動かして働くのが下層ノマドです。

その一方で、最後までなくならないのが「ラスト・ワンマイル・ジョブ」。室内への電気や配管の工事、医療、介護、建設、料理人など絶対に人間が相手をしないとできない仕事です。ただし、ノマドを選ばない人が一気に参入してくるので給料は期待できず、ラスト・ワンマイルという分野で仕組みをつくる側に回れるかどうかが分かれ目です。

 

そして、感情労働もなくなりません。

そもそも人であることを売りにしたもの。笑顔だったり、共感してくれたり、励ましてくれたり。占いとか、飲み屋のママだったり、こういうのを、感情労働というらしいんですが、要するに、人間に付き合ってもらいたい、人間の感情が欲しいと思うような仕事なんですよね。

 

出た、占い師!。占い原稿を書くために占い学校で学んだ私が、中華街の占いのお店に座ってみようと思い立ったのも、占い師という職業はなくならないと思ったからです。

 

そして、定山渓の旅籠屋のような仕組みの宿もあれば、昔ながらの旅館のおもてなしを期待する客相手の、名物女将さんとか中居さんの需要もなくならないでしょう。

 

結婚記念日旅行だというのに、考えるのはこんなことばかり。

学校を出てからほぼ働きづめで、ここ2年でようやく暇ができてきましたが、完全リタイアはもう少し先のようです。

「楽しかった」と言える人生

甲府の珈琲専門店ダンのように忘れがたい旅先の店が旭川の四條食堂。旭川四条駅前にあり、「しじょう」ではなく「よじょう」と読みます。こういう読み方の違いで、よそ者だとばれてしまいます。

 

テレビ東京のドラマ「サ道」の旭川編に登場したお店で、常連から「お母さん」と親しまれる名物おかみが一人で切り盛りしています。

お昼時を外したので、先客が一人。カツカレーを注文しています。「あなた、前回もカレーだった?」「いいえ、他の人が食べているの見て食べたくなって」というやりとりが聞こえます。このお母さんは単に料理を出すのではなく、客との交流を好むタイプのようです。

 

ラーメン通にも聖地とされている店なので、しょうゆラーメンを注文。スープはこってりしていてコクがあります。昔はラードを使っていたけれど、今は使わずに昔と同じ味を再現。「健康によくないものをお客さんに食べさせたくないから」とお母さん。

 

お父さんとお姉さんが経営してた食堂を手伝い始めて、50年近くになると言います。昔は工場や酒造メーカーで働いている人が朝から夜まで食べに来て、お客さんが望むままにお酒も出すようになり、夜は居酒屋みたいになったそうです。お母さんが作るラーメンの力強い味は、額に汗して労働する人が満足するように工夫した結果でしょう。

 

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サウナ界のレジェンド「濡れ頭巾ちゃん」は旭川出身で四條食堂の昔からのお客さん。ドラマ「サ道」にぜひ出てほしいと頼まれたそうです。「濡れ頭巾ちゃん」といっても女の子ではなく、サウナを極めた男性で、「ととのう」という言葉を使い始めた人。湿度の低いサウナで顔が乾燥するのを防ぐのと、情報をシャットアウトして集中するために濡れタオルを頭にかぶります。おしゃれなサウナ―はわざわざ専用のサウナハットを持参しますが、タオルや手ぬぐいで代用できます。

 

四條食堂のお母さんの口癖は「楽しかった」。

家族で食堂を切り盛りして朝から晩まで大勢のお客さんが来ていた頃、ドラマ「サ道」の撮影、芸能人の来店も、すべて「楽しかった」で話が終わります。とにかく人が好きで、人がたくさんいるところが好きで、ジャズも大好き。東京の人はいつでも生の音楽が聴けるからうらやましい、と話は尽きません。

 

上京していたらまた違う華やかな人生が展開していたかもしれませんが、家族から店を受け継いで楽しく働いているのなら、それはそれでとても幸運な人生です。

 

旅の醍醐味の一つはこうした個性的な店を訪れること。

それぞれの場所で、いきいきと働いている人と接して、私も最期に「楽しかった」と言えるような人生を送りたいと思います。

 

老いのアマチュア

アン・タイラーの小説『結婚のアマチュア』。主人公の夫マイケルは、熟年夫婦になれば結婚のベテランのはずなのに、自分たちはいつまでもアマチュアのままだとボヤきます。

 

bob0524.hatenablog.com

 

先日、ある書類に書き込んでいたら年齢欄が60歳以上でひと区分になっていました。 昨年末に還暦を迎えた私は90歳や100歳の人と同じグループにカウントされるのです。

まさに老いのアマチュア

できれば老いのプロフェッショナルを目指したい。でも、目指すべきモデルがなかなか見つかりません。ニュースに出てくるのは、高齢者だから優先されて当然だと開き直ったり、ネットはできないとすべて丸投げの老人。コロナで出生数が落ち込み、日本の高齢化はさらにスピードアップし、老人が目の敵にされる世の中が目の前に来ているような気がします。

 

先日の甲府旅行で訪れた珈琲専門店ダンで、高齢者のロールモデルのようなすばらしいマスターにお会いしました。ネットの口コミでは、人柄が絶賛されています。

 

12時になるとランチ客で混むだろうから、11時半に入店。一人なのでカウンター席に座ろうとしたら、「テーブル席でも構いませんよ」と声をかけられました。ネルドリップでコーヒーを淹れながら接客するマスターを観察したかったので「ここがいいんです」とカウンター席を選びました。

 

テーブル席を勧められたのは、先客の老人がいたからかもしれません。

ちょっと危うい感じで、支払いは1円玉や5円玉も混じっているよう。何度も数え間違って時間がかかるのですが、マスターは嫌な顔一つせず対応していました。そして老人が店を出ると、「すみませんね、落ち着かなかったでしょう」。マスターはこうして店全体に目配りしながら甲府の名店に育ててきたのだろうと想像しました。創業1972年とありますから、そろそろ半世紀。もしかしたらリタイアのタイミングも考えているのかもしれません。 

  

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料理担当の女性も感じがよく、BLTサンドイッチも丁寧に作られたのがわかります。

BLTを初めて食べたのは40年前のアメリカ。ハムや卵のサンドイッチしか知らなかった私には衝撃的なおいしさでした。ホームステイ先の家族がレストランに連れて行ってくれてもBLTばかり頼んで「もっと高いものを注文したら」と言われたものですが、私にとってはまさにアメリカの味でした。

 

とりあえず原稿書きと翻訳の仕事は続けているものの、先細りは目に見えています。知力の衰えは感じますが、体力はまだまだあります。できたら下の世代に「あんな風に老いるのもいいかも」と思ってもらえるような仕事がしたい。BLTをかじりながらそんなことを考えました。

小松菜ばかりじゃつまらない

先週は一人静かに甲府を旅してきました。 

 

甲府は徒歩圏内にドーミーインが二つもあり、繁華街に近い老舗のほうに泊まりました。

サウナ、水風呂後の外気浴が最高。東京より富士山がぐっと近いのがわかります。

惜しむらくはサウナにテレビがあることですが、それもまたよし。夕方の時間帯は『相棒』の再放送を流していて、犯人のトリックが知りたくてサウナから出られなくなり、のぼせました。

 

朝の時間帯はNHK総合の「あさイチ」が流れ、東京のインディアンタウン、西葛西の特集でした。ウラナイ8の仲間の深瀬まるさん向けだなと思ったら、後にまるさんもリアルタイムで見ていたと知りました。

 

インド系インターナショナルスクール、すばらしい。授業はインド公用語の英語でプログラミングやヨガの授業があるなんて、私もこういう学校に通いたかったものです。

 

水風呂、外気浴を終えてサウナ室に戻ると話題はインド野菜に。

江戸川区の社会人向け大学に講師として招かれたインド人女性。インドの野菜メティが食べたいと言うのをたまたま耳にしたJA東京の職員。第二のパクチーになるかもしれないと大いに期待して地元の農家に打診したのですが、断られてばかり。すでに小松菜がブランドとして確立しているからです。そんな中、引き受けたのは小松菜を作って49年という小島さん。「小松菜ばかりじゃなくて、新しい野菜を育てたかった」と話していました。

かなりのお年だろうに、過去の実績にあぐらをかかず新しい挑戦をして、その理由を「楽しい」と語るのがすばらしいと思いました。

さらにすばらしいことに、メティは小松菜より高値で取引され、収益面でもしっかり報われたそうです。 

年を取ると、新しいことを始めるのがおっくうになりがちですが、思い切ってやってみたいもの。そしてその理由は「儲けたい」じゃなくて「楽しいから」がいい。

 

サウナのテレビを毛嫌いしていますが、ふと耳にした情報から開運のヒントが得られることもあります。神戸のサウナでは、欲を出し過ぎると命まで危険にさらすと知りました。

 

uranai8.jp

 

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3年前の冬に訪れたハノイの野菜市場。葉物野菜の種類が多い! 値札もなく並べられていますが、地元の人にはこれで商売できるのでしょう。
白菜は日本を代表する野菜だと思っていたら、伝来したのは明治時代と知り意外でした。世界にはまだ食べたことのない野菜がたくさんあるのでしょう。チャレンジ精神旺盛な農家に期待しています。