翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

街の隠者、旅する女帝

家事をしながら、録音したNHKラジオのビジネス英語講座を聞いています。集中して聴いたほうがいいのでしょうが、本格的に英語を学ぶよりアメリカ社会の流れをつかむのが目的です。

 

「絶滅危機の職業」がテーマの回は特に興味深く聞きました。

アメリカの企業では秘書という職種はほとんど消滅したそうです。一昔前はボスのスケジュールを管理し、手紙を口述筆記したり出張のために飛行機やホテルを予約するのは秘書の仕事ですが、今はパソコンのアプリが取って代わっています。

旅行業者、銀行員、レジ打ち、タイピスト、運転手、時計職人などが絶滅危機として挙げられていました。郵便配達員もかつては中流の安定した職とされていましたが、今では手紙を書くという行動がほとんどなくなっています。

 

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スペインの港町、カディスの食品市場。

魚や肉、野菜が圧倒的な存在感で並んでいました。コロナで大きなダメージを受けたでしょうが、人間は食べないと生きていけませんから、食関係の専門職はなくならないでしょう。

 

金運(仕事運)を占ってほしいというニーズは多いのですが、ロジックだけでは占えません。時代が変われば、換金性のあるスキルも変わるからです。

 

ビジネス誌の記者をしていた頃、成功した創業者に話を聞いたことがあります。

「幼い頃に父と死別し、母が和裁の腕で私を大学まで出してくれました」と語ってくれた人は私と同世代。昔なら手先が器用なら和裁や洋裁で母子家庭でも子供を育てることができましたが、着物の需要が減りファストファッションが街にあふれる今はどうでしょうか。ニッチな市場を探し当てるマーケティング力が必要です。

 

私の職業人生も同じです。

同窓会で「雑誌や書籍の原稿を書いている」と言うと恩師や同級生は「ああ、昔から作文が得意だったからね」と反応します。

たしかに文章を書くのは得意でしたが、せいぜいクラスで一番か二番ぐらい。専業の小説家や詩人になるほどの才能はなく、クライアントや編集者の注文に合わせて器用に書くことで収入を得てきました。

時代の恩恵もありました。ネットが普及する前の時代は、東京に住んでいるだけで広告代理店や出版社とダイレクトにつながることができたからです。私以上の文才があっても地方に住んでいるため換金できなかった人や山のようにいるでしょう。そして現在は、ネットには無料で読めるおもしろい文章があふれています。

 

持って生まれた命式だけでなく、時代の流れも合わせて考えなくてはいけません。とてつもなくむずかしく、おもしろいのが占いです。

 

占い仲間の玉紀さんが「街の隠者」として占いの関り方の変遷を書いています。

uranai8.jp

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私は玉紀さんの逆バージョンで、女性誌のライターとして占いを仕事としてきましたが、今は純粋な趣味としても楽しいと思っています。

目指すは「旅する女帝」。九星気学を使って旅の計画を立て、献血ルームのボランティアとしてカードを読み、易について学び続ける。そんな老後を思い描いています。

誰かの一日を作ろう

先日、ネットで見かけた話題。

きょうコンビニで、ひとりでひたすら長蛇の列をさばいてて、やっと一段落したわ、と思ったその列の最後のお客さんに「ようがんばったなーー!」って言われてびっくりした
長い列に並んで待たされて、文句のひとつも言っておかしくないのに、なんでそんな優しいことが言えるん…泣きそうなったわよ…

医療や福祉だけでなく、公共交通、生活必需品の流通に携わる運送業や販売業などのエッセンシャルワーカーは在宅勤務ができません。社会全体ぴりぴりとしている中、大変な思いで働いていることでしょう。

できれば私もこんな一言がかけられる人になりたい。

 

昨年の今頃はコロナがこんなことになろうとは想像できず、沖縄の離島の旅を満喫していました。 

石垣島には楽しい飲み屋も多いのですが、一番気に入ったのは喫茶「海坊主」。バスターミナルの向かいにあります。

 

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いかにも沖縄らしいスパムと卵、キャベツのサンドイッチ。スパムはチャンプルーやおにぎり使われることが多い食材ですが、サンドイッチもいけます。

そして、コーヒーもおいしくてびっくりしました。それもそのはず、喫茶のとなりでコーヒー豆を販売しているのです。

コーヒーのおいしさに惹かれて二日連続で訪れ、店の人に「コーヒーが本当においしくて、また来てしまいました」と告げると、とても喜んでくれました。

 

こういう時、英語なら"You make my day."という言葉がかけられたかもしれません。

映画『ダーティ・ハリー』のキャラハン刑事がの決め台詞は”Go ahead, make my day”と決め台詞を放ちます。「やれるもんならやってみろ」と相手を挑発する台詞ですが、本来の"make someone's day"は、いい言葉をかけて、誰かの一日をすばらしいものにしするという意味です。

 

コロナによって失われたのは、ささやかだけど心を満たすこうした触れ合いですが、マスクをかけていればお店の人にちょっとした感想やお礼を伝えることはできます。

 

英会話のレッスンでは単に「ありがとう」と言うのではなく、何に対して感謝するのか具体的に付け加えるように教わりました。発音や文法に少々難があっても、特別な何かを伝えようという気持ちが喜ばれるからです。リアルな会話はもちろん、ネット上のお付き合いでも同じです。

 

先日の四柱推命の講座で金のなる木の苗と鮭の中骨身付き缶詰を配りました。

自宅の窓を二重窓にすると住宅ポイントがもらえて、各地の名産品と交換できるので日持ちする缶詰を選んだのですが、どうも食べにくく持て余していました。一手間欠けるとこんなご馳走になるとは! 

 

こうして誰かに一日を作ってもらい、私も誰かの一日を作る…そんな循環の中で生きていきたいものです。

女が生きづらい社会は、男も生きづらい 『82年生まれ、キム・ジヨン』

本が好きでも、老化とともに思うように読めなくなるというネットの書き込みを見ました。うちの母も同じようなことを口にしていたのを思い出し、積読の本を次々と読んでいます。

韓国発のベストセラー『82年生まれ、キム・ジヨン』。読みだしたらとまらなくなり、一気に読了しました。

 

最も印象的な登場人物はキム・ジヨンの母のオ・ミスク。私と同世代です。

上に兄が二人、姉が一人、弟が一人という五人きょうだい。国民学校を卒業すると中学には行かず家事と農業を手伝い、14歳でソウルに出て姉が働く紡績工場に就職します。劣悪な労働環境で得た賃金は実家に送り、兄や弟の学費になりました。五人きょうだいの中で一番勉強ができたのに。

最初に産んだのが女の子だったので、オ・ミスクは姑に涙を流して謝ります。「大丈夫、二人目は息子を産めばいい」と優しく慰められたものの、二人目も女の子。姑は再び「大丈夫、三人目は息子を産めばいい」と慰めます。

 

私の世代では男子出産の圧力はそれほど強くなく、むしろ女の子のほうがいいという風潮もありました。しかし、結婚したのに子供を産まない嫁への圧力はあり、夫の実家に行くと嫌な思いをしたし、自分の実家でも伯母から「親に孫の顔も見せない親不孝者」と叱られたものです。

ちょうど私の親の世代がオ・ミスクの状況と似ています。父は中国地方の農家から東京の大学に進学しましたが、姉妹が働いて仕送りしたそうです。その父の娘である私に文句を言う権利があると伯母は考えたのでしょう。

 

娘には自分と同じような人生を送らせたくないというオ・ミスクの生き方は胸を打ちます。三人の子を育てながら姑の世話をして、現金収入を得る仕事を休みなく続け、不動産を買い投資でお金を増やします。

 

オ・ミスクの夫は安定した公務員でしたが、IMF危機で退職を迫られます。40代や50代の管理職が部下の雇用を守るために早期退職を選ぶ「名誉退職」です。安定した仕事で妻子を養っているというのが最大の誇りだった夫にとっては大きすぎる衝撃です。

 

女が生きづらい社会は、男も生きづらい。

韓国社会で女性は二級市民扱いされる一方で、専業主婦となり子供と公園を散歩しているキム・ジヨンは男性から「俺も旦那の稼ぎでぶらぶらしたい」と憎まれ口を叩かれます。なんというストレス社会。

 

オ・ミスクの世代では果たせなかった大学進学が娘のキム・ジヨンの代で当たり前になったように、時代が進むとともに社会も変化します。

東洋占術を学んでいると「男は仕事や出世を、女は夫と子供を得るのが最大の吉」という価値観に出くわすことがありますが、そのまま現代社会にあてはめるのは無理があります。現代にふさわしい占術の解釈や使い方は常に求められています。

コロナは全世界に危機をもたらしましたが、性別を問わず自由な働き方が可能になるきっかけになればとと希望を持っています 。

  

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釜山の日式(イルシク)居酒屋。

国内旅行の感覚で気軽に渡航できるようになる日が再び来ますように。。

モンスターは実在する

昨年の11月から月1回、献血ルームのボランティアを始めました。コロナで深刻な献血不足になっていると聞き、できるだけ献血しようとしても女性の場合400mlの全血献血だと年に2回しかできません。そこで、献血した人へのサービスとして無料の占いを思い立ったのです。

 

ウラナイ8の仲間の杏子さんがボランティア経験者で話を聞けました。そして玉紀さんのインナーチャイルドカード講座でカード読みのおもしろさに目覚めたことで、どうせなら自分の特技で献血事業に貢献することに。一人10分から15分程度なので、誕生日から占う命術には短くて、タロットと必要に応じて手相ぐらいがちょうどいいいいのです。

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日赤本部での面接後、駅前ビルの献血ルームに配属が決定。パーテーションで仕切ったコーナーが用意されています。占いに訪れるのは、献血に協力するぐらいだから肉体も精神も健全な状態の人が大半。占いが初めてという人も多く、どんな質問がいいか一緒に考えながらカードを引いてもらい、その人だけの物語を組み立てていくのは、毎回わくわくします。日当たりのいいビルの最上階の広々とした献血ルームは、良好な「気」に満ちています。

 

しかし先日、献血ルームに到着すると、不穏なムードが漂っていました。

中年男性とスタッフが延々と話し込んでいます。献血に来たものの、過去に輸血歴があるために断られたようです。

献血できる基準はけっこう厳しく、残念だけどしかたないと静かに去って行く人もいます。この男性はどうしても納得できないようです。

現場のスタッフにさんざんからんだ後、携帯を取り出して電話をかけ始めました。どうやら日赤の本部のようです。男性は待合スペースにいる人たち全員に聞かせるような音量で話し、内容が筒抜けです。

「血液が足りないというニュースを見て、わざわざ献血ルームまで来たのに断られた」

「過去に一度でも輸血経験があれば断られるというのはどういう根拠があってのことなのか説明してほしい」

といったことを延々と訴えています。

「血液不足を加速させる理不尽な基準を正す」という正義感のようなものがあるから、その場のスタッフや献血者にもアピールしたいのでしょう。承認欲求をこじらせるとこうなるのか…。

 

男性が献血ルームを去ったのは3時過ぎ。なんと延々2時間以上も居座って、その場の雰囲気をどんよりさせたのです。電話を受けた担当者に深く同情します。

こんな場所はさっさと離れたいでしょうから、占いの希望者はまばらに。ぽつりぽつりと来てくれた人を占っていてもカードに集中できませんでした。

 

世の中にはモンスター級の顧客や患者、父兄がいると聞いていましたが、リアルでこんな長時間も同じ場所にいたのは初めてのこと。モンスターの相手をしなくてはいけない立場の方々の精神的消耗はいかばかりか。小心で利己的な私は、この男性が占いに来なくてよかったと内心ほっとしてしまいました。

 

 

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別府に行ったついでに寄った八幡竈門神社。『鬼滅の刃』のモチーフの一つとされる神社で、鬼が忘れた石草履があります。鬼に襲われた人間は鬼になってしまうけれど、人間のままでも鬼よりひどい存在もたくさんいます。

 

経験の欠如ではなく、欠如の経験

新聞を取るのをやめたいけれど、ずるずる続けています。昔から朝が苦手で寝起きが悪い私は、活字を読むことが朝の儀式でした。そして、新聞を配達している外国人留学生の生活を想像すると「もうやめる」となかなか言い出せません。

 

長官で真っ先に目をやるのが第一面の「折々のことば」。先週の水曜日はこんなことばでした。

仮に産んでいないということが、ひとつの欠如であるとしても、それは経験の欠如ではなく、欠如の経験です。

詩人の藤波玖美子さんの言葉。出産経験のあるなしは、女性を隔てる溝になりがちですが「産まない女である私」として、子どもたちが将来、無事に生き延びていけるよう、ともに案じ、環境を整えておくのが、この時代を生きる大人の責任だとあります。

 

結婚しているのに子どもを持たない選択をした私は、頭の固そうな高齢者からずけずけと批判されたり勝手に同情されることがよくあります。特に女性の高齢者。「子どもを産んだ」というアイデンティティにすがって生きている人にとっては、私のような存在は目障りなんでしょう。

 

少子化を食い止めるために女性は出産することが望ましいですが、産む・産まないの選択が本人に委ねられることこそ、成熟した社会ではないでしょうか。

 

占いの世界でも「子どものいない占い師は育児や教育の相談が苦手」と考えられがちですが、子どもがいないからこそ、客観的に鑑定できるとも言えます。

むしろ金運アップのアドバイスは、貧乏な占い師のほうが得意かもしれません。もともと金運に恵まれている占い師はお金がない状態をリアルに想像できないのです。お金がないという欠如の経験を積んでいないのですから。

同様に、とんとん拍子に結婚できた占い師の婚活アドバイスは役に立ちません。名選手名監督にあらず。大秀才は家庭教師として役に立たないでしょう。勉強ができない劣等生の経験がないからです。

 

人生にできる経験は限りがあります。自分が得たことだけでなく、得ることができなかった欠如の経験を自分の強みにすることもできます。

 

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勢いで結婚して早や35年。婚活アドバイスは苦手です。