翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

井波律子とザ・バンド

中国文学者の井波律子さんが亡くなりました。享年76歳。

 

井波律子さんの本を読むようになったのは、彼女がザ・バンドを偏愛していると知ったからです。

ボブ・ディランノーベル文学賞受賞に際し、井波さんはこう書いています。

ディランの「歌詞」は音楽と不可分であり、いわゆる詩や文学ではないという向きもあるようだが、それはちがうと思う。詩はもともと歌であり、たとえば、中国最古の詩集「詩経」も元々は歌謡であった。「詩経」は孔子弟子集団の教科書だったが、それもただ読むのではなく、演奏したり、歌ったりして学んだ。

 

六十四卦の一つ、雷地豫は雷が地上で響き渡る象。雷は音であり、中国古代の王はこの卦にのっとって音楽を創造しました。 雷地豫豫は、楽しませるという意味。祭りで音楽を奏でるのは、人間とともに神を楽しませるからです。

 

高校時代にボブ・ディランを知り、ザ・バンドに行きつきました。

 

ザ・バンドはかつてザ・ホークスと名乗っていました。ウッドストックでディランとともに隠遁生活を送り、地元の人から「ディランとあのバンド(ザ・バンド)」と呼ばれたことからグループ名を変えました。日本人のとって冠詞の"a"と"the"の使い分けがむずかしいのですが、このエピソードで"the"の使い方が頭に入りました。

 

高校生だった私にとって、1976年11月25日、彼らの解散コンサートが開かれたサンフランシスコは遠い海の向こう。リアルタイムでこのコンサートを観ることはできませんでしたが、繰り返しDVDを再生しています。

代表曲の一つ「ザ・ウェイト」の歌詞は、ナザレやモーゼなど聖書の言葉が散りばめられ難解ですが、「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」という家康の遺訓に通じます。

 


The Band - The Weight

 

この曲が生まれた50年後のコラボ。日本からはギタリストのCharが参加しています。世界中のミュージシャンの共演はまさに「雷地豫」です。

 


The Weight | Featuring Robbie Robertson and Ringo Starr| Playing For Change | Song Around The World

 

西洋かぶれでも東洋思想を学んでもいいんだという確証を与えてくれた井波律子さん。そのおかげで、家に閉じこもっていても心は自由に世界中を駆け巡っています。

 

生き残るためにどこまでするか?

 

昨年から本格的に終活を始め、NPO法人と正式に生前契約を結びました。公正証書も作り、いつ死んでも大丈夫という状態です。

延命処理は行わないように文書化して実印も押しています。医療崩壊が起こったら、若い人に治療の機会をゆずるつもりです。苦しいのは避けたいのでモルヒネぐらい投与してもらいたいのですが、緊急時にはそういうことも言ってられないかも。

 

bob0524.hatenablog.com

 

これまでタブーとされていた命の選別について語られるようになりました。

 

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自動車を製造を止めれば、交通事故で死ぬ年間100万人の命を救えたはずだ。でも僕らは歴史上決してその選択肢をとらなかった。


意識するかしないかに関わらず、我々はリスクと共存し、それを許容して生きてきたのだ。

それなのに今、コロナによる恐怖と医療従事者による「ゼロリスク」の先導は世界中の経済を止め、生活を破壊し、人々は自らカゴの中に入ろうとしている。

 

高齢者医療の現場では、ゼロリスク神話による管理・支配によって高齢者を寝たきりにして人工的に栄養を与えていると書かれています。

 

パーキンソン病を患った私の母は、食物を咀嚼する筋肉の衰えで栄養が摂れなくなり、医師から胃ろうを勧められました。10年ほど前だったので胃ろうについて社会的な議論も起こっておらず、「このままだと栄養失調で死ぬ」と言われれば、患者の家族として受け入れるしかありませんでした。

しかしその後の10年の母を思うと、胃ろうを選択せずに自然死に至ったほうが彼女の意思に沿っていたのではないかと考えざるを得ません。口から食べなくなると、脳が衰え、最後の数年間はただベッドに横たわっているだけで、誰が面会に来たのかもわからない状態でした。

 

「高齢者は死ねというのか?」と言われると口を封じざるを得ませんでしたが、それはあくまでも平時のこと。

今の日本では60歳はまだ若いとされますが、姥捨て山の伝説では、山に送られる年齢は60歳。なし崩し的に高齢者福祉を拡大してきた日本ですが、コロナをきっかけに「これまでのような高齢者医療は続けられない」という流れになりそうです。

 

私の世代は、日本の高度経済成長期に子供時代を送り、社会人でバブル経済も体験しました。そろそろ引退を考える年になってコロナウイルスに直面しています。老後の身の処し方は社会に頼らず、各自で考えておくべきでしょう。

 

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バンコクで最もインスタ映えする寺院、ワット・パークナム。死ぬのも悪くないのではと思わせる美しい涅槃の世界。

コロナの時代に考える命の選別

アマゾンプライムでシーズン1から『クリミナル・マインド』を観ています。

ネットフリックスとアマゾンプライムがあるから外出自粛も退屈せずにすんでいるのですが、なんと『クリミナル・マインド』は5月25日でシーズン9までの配信終了! あわてて延々と見ています。動画配信サービスに慣れてしまうとわざわざ出かけるDVDレンタルはとても面倒に感じられます。

 

『クリミナル・マインド』にハマるのは、アメリカのエンターテインメント業界の底知れぬ力を感じるから。第二次大戦後、映画『風と共に去りぬ』を観て日本とのあまりの国力の差に敗戦は当然だったと悟ったという話がありますが、これほどのドラマを作れるアメリカはすごい国だと改めて感服します。

 

シーズン2の『出口のない迷路』。

カンザスシティでホームレスや麻薬中毒者、売春婦など60人以上が失踪。気づいたのは地区を巡回するマクギー刑事。FBIに直訴して捜査が始まりましたが、マクギーの上司は大反対。国全体を捜査の対象とするFBIに対して、地元警察の反発はかなり強いのでしょう。失踪届もまったく出ていません。ホームレスは失踪者にもなれないのです。

しかもマクギー刑事は強迫神経症ぎみ。父親が警察官で殉職したことからお情けで職を得たもののあまり役に立たず、街の見回りを担当していたのです。

 

捜査は難航し「やはり無駄なこと、事件性はない」というマクギーの上司にFBIはこう反論します。

「もし消えたのが娼婦やジャンキーじゃなくて、チアリーダーや母親だったら」。

下敷きにあるのは、ヨークシャーの切り裂き魔。13人が殺害された事件ですが、初期に殺されたのは売春婦で、一般女性が殺され始めるまで警察は本腰を入れて捜査をしませんでした。組織の中で無能とされていたマクギー刑事が大量殺人を発見したことでストーリーが厚みを持っています。

 

FBIのプロファイリングによると、このケースは「浄化殺人」。犯人には罪の意識どころか社会を浄化することで世の中のためになると殺人を正当化しているのです。「私が何をしたというの?」という売春婦に「病気をまき散らしている」と答えます。やまゆり園事件の犯人も「障碍者は不幸を生むだけ」と主張しました。

 

 

『出口のない迷路』を観て、現在の世界にも思いを馳せました。

医療崩壊を起こしたイタリアは80歳以上の高齢者に対する治療を断念しました。自分より若い患者に人工呼吸器を譲った72歳の神父もいました。

 

もし日本がイタリアのような状況に陥ったら…。

ただでさえ超高齢化社会で財政が圧迫されているなか、コロナで高齢者だけが亡くなるのはちょうどいいと考える人だっているでしょう。

 

私自身は終活の一環で延命治療を一切拒否することを書類にしましたが、そういう選択をしない高齢者も見殺しにすべきだとは言えません。

とりあえず日本は医療崩壊を免れたとしても、いつか命の選別を迫られることがあるでしょう。

コロナによって、答えを先延ばしにしていた問題が目の前に差し出されています。

 

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スペインの港町カディスのカフェ。観光客が多いので朝食メニューはわかりやすく表示されています。人生の選択もこれぐらいシンプルならいいのですが。

易者の身の上知らず

コロナウイルスによって外食や旅行など多くの業界が打撃を受けています。政府からの経済支援はどこも切望しているでしょうが、予算には限りがあります。

 

「うちはこんなに大変」と窮状のアピール合戦で最も失敗したのが演劇業界。

始まりはNHKのインタビュー。

製造業は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。

たしかに演劇業界が大変なのはわかりますが、スポーツやイベント業界も同じですし、旅行やホテル業界も増産できません。そして製造業にしても、簡単に増産はできないし工場を休業しても固定費はかかります。

 

極めつけはこの発言。

漫画を読むと感染するウイルスが発生したと思ってください。漫画家さんは過去の印税でしばらくはしのげるかもしれませんが、アシスタントさんは全員、解雇ですよね。

照明や音響などフリーランスのスタッフに触れているのですが、たとえ話がしっくりこなくて、非常事態でささくれ立っている人々の心に着火して大炎上しました。こんな回りくどい言い回しより「演劇業界には明日の食事に事欠くスタッフも出てきます、助けてください」のほうが通じるだろうに。

 

たとえ話はうまくはまれば、最大限の効果を得られます。私はミッション系の学校に通ったのですが、キリスト教学の授業で学んだのは、イエス・キリストがたとえ話の名人だということ。

「新しいぶどう酒は新しい革袋に」「野の花は働きもせず、紡ぎもしない」「あなたたちは地の塩である」等々、こういうたとえ話ができてこそ宗教が広まり定着します。

 

口舌の徒は気が利いた言葉を使うことで食べていきます。へたなたとえ話を使ったのが、ことばとは関係のない実業の関係者だったらここまで炎上しなかったのでは。この人はコミュニケーション教育も推進しているというのに、どうしてこんなたとえ話を? それほど演劇業界が切羽詰まっていたからでしょうか。

 

人のことをあれこれ言うと自分に跳ね返っています。

「医者の不養生」「紺屋の白袴」と同じ系列のことわざに「易者の身の上知らず」があります。いつも開運だと金運上昇を説いてきた占い師がコロナ禍によって貧乏になるのは、自分のことが占えないから。

 

東日本大震災後、開運記事の発注が大幅に縮小し、収入が減りました。今回もそうなりそうです。

このところの女性週刊誌の特集は「型紙付き・簡単マスクの作り方」「感染リスクを徹底的に下げる!」「自粛生活を乗り切るおこもりメニュー」など時流に合った実用記事が目立ちます。

 

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1月にでかけた石垣島で見かけた民宿。外見がとても素敵だったので「次はここに泊まりたい!」と写真に撮りました。昭和初期の木造二階建だそうです。玉城デニー知事が「沖縄に来てください」と言うのはいつになるのでしょうか。

クリミナル・マインドな日々

外出自粛があまり苦にならないのは、本や映画・ドラマを延々と楽しんでいるから。アマゾンプライムでクリミナル・マインドFBI行動分析課」を見始めたら止まらなくなりました。

 

コロナが収まるまでに見終わるかと思いましたが、シーズン15まであるのでとても無理でしょう。

メインキャラクターが7~8人いて、途中で入れ替わりもあるので飽きません。

行動分析課のチーフ、アーロン・ホッチナーを演じるトーマス・ギブソンは『ふたりは最高!ダーマ&グレッグ』のグレッグ役でした。ヒッピーの両親を持ち東洋思想に傾倒しヨガを教えるダーマと、上流階級出身でエリート弁護士のグレッグが結婚するというコメディ。NHKの深夜放送を毎週楽しみに見ていました。ヒロインの名前ダーマ(Dharma)は仏教の教え(ダルマ)だと、ケネス田中先生の仏教英語講座で知りました。

 

FBIすなわち連邦捜査局ですからアメリカ全土をカバーし、事件が起これば専用ジェットで現地に飛びます。そして、オープニングとエンディングで登場人物が名言を引用するのですが、ニーチェからアインシュタインユング孔子まで幅広くカバーしています。

 

放送が始まったのは2005年で、この15年間のアメリカ社会の変化が見て取れます。リアルタイムで見るには忙しすぎたので、ちょうどいい機会です。

 

連続して女性を誘拐し拷問シーンを撮影、DVDを両親に送付。銀行強盗に入って客の服を脱がして支配。仲のいい女子高生3人を監禁して「1人を殺せば2人は助かる」とハンマー2本を投げ込むなど、異常犯罪のネタは尽きません。こういうドラマに夢中になるのは自分の中にもそういう異常性があるからなのか、ちょっと不安になりますが、この手のドラマやミステリー小説はちょっとしたガス抜きです。そして、このドラマを見ている間はコロナを忘れることができます。

 

今のところ私にとってのベストはシーズン1の14作目「死刑へのカウントダウン Riding The Lightning」。

シリアルキラーの夫に支配された妻が、幼い息子を安全な場所に移すため無実の罪をかぶって死刑台へ送られるという話。モーセの母が息子をかごに入れて川に流したという出エジプト記がベースになっています。

FBI捜査官としては無実の者を救いたいけれど、妻の無実を証明すると裕福な家で才能が開花している息子が殺人者の子だと知られてしまうというジレンマ。

アメリカ人だって忖度するんだと感心しました。子供を託された養父がすべてを理解して、FBI捜査官に感謝するシーンが印象的でした。

この回だけ監督はイギリス人のクリス・ロング。だから異色の展開なんでしょう。

 

そしてこの回の引用句。

What we do for ourselves dies with us. What we do for others and the world remains and is immortal.

自分のための行いは死と共に消えるが、人や世界のための行いは永遠に残る。アルバート・パイク(南北戦争時の南部連合の将軍)

 

外出自粛期間は老後の予行演習のようなもの。歳を重ねて認知症ぎみになったら、シーズン1からどきどきしながらまた見るのも楽しいでしょう。

 

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 ポケモンGOも家の中で。相棒のヤブクロンは、ゴミポケモン。ゴミ袋と産業廃棄物が化学変化を起こして生まれたポケモンです。毎日、餌をやって友情を深めています。