翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えていましたが、2019年3月で卒業。フィンランドが大好き。

誰でもすべり落ちてしまう 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』

月800円でネットフリックスに加入してテレビ視聴がぐっと減りました。

おしきせで与えられるものより、自分で選んで観たい。そして、わざわざ映画館に出向いて観るのはおっくうだけど、気になっている映画が観られるのがうれしいところ。

 

わたしは、ダニエル・ブレイク』もその一つです。

 


「わたしは、ダニエル・ブレイク」予告編

 

 途中で観るのが苦しくなってきました。

舞台はイギリスのニュー・キャッスル。59歳の熟練した大工のダニエル・ブレイクは、心臓発作を起こし医師から仕事を止められます。

落ち目になったとはいえイギリスは「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家。右翼が目の敵にする移民ではなく、ダニエル・ブレイクは生粋のイギリス人ですし、これまでちゃんと税金を払ってきました。だから雇用支援手当が出たのですが、継続手続きでダニエルは致命的なミスを犯します。

審査を担当するのは、外注されたアメリカの会社。医療と関係ない質問が延々と続くのにいらだったダニエルは反抗的な態度をとってしまい、支援は打ち切られることに。

 

ダニエルは抗議の電話をかけますが、たらいまわしにされて延々と待たされるばかり。電話料金がかさむ一方です。制度上「就労可能」と診断されたので、求職者手当の申請のために職業安定所に行くと、受付はオンラインのみ。大工仕事は得意でもパソコンも持っていないダニエルはお手上げです。

 

この映画が公開された時、イギリス国内では「国の恥だ」という批判の声も上がったそうです。でも、こういうことは日本でも起きているのではないでしょうか。

昨年、母が死去して手続きのために役所や金融機関を回ったのですが、手続きの煩雑なことと言ったら…。数年間、母の後見人になりましたが、法務局や裁判所で話される日本語が理解できないことがしょっちゅうでした。作家の橘玲の「年金や生活保護などの行政サービスの社会システムは『みんなが偏差値60程度の認知能力を持っている』ことを前提としてつくられている」という発言を読みましたが、ずっと税金を払ってきても、高齢になって認知能力が衰えて行政に助けてもらおうとすると大きな壁が立ちふさがるのです。

 

ヒルベリー・エレジー』はアメリカの貧困家庭から上流へと這い上がっていくという、めったにないサクセス・ストーリー。その逆、中流から下流、さらに下へと簡単にすべり落ちてしまうケースのほうが圧倒的に多いでしょう。

  
bob0524.hatenablog.com

 

この映画で救われたのは、ダニエルが自分より困難な状況にあるケイティに手を差し伸べるところ。ケイティは物価の高いロンドンで暮らすのはむずかしいと幼い子供二人をかかえてニューキャッスルに引っ越してきたシングルマザーです。ケイティ一家に割り当てられたぼろぼろの家を得意の大工仕事で修繕するダニエルに人間の尊厳がよみがえってきます。

そして、ダニエルがぎりぎりまで追いつめられ家財道具を売り払った自宅にとじこもっていると、ケイティの娘は「私たちにも、あなたを助けさせて!」と声をかけます。

 

誰でも生活苦にすべり落ちてしまう可能性があるから、精一杯お金を貯めるのも大切ですが、それ以上に、いざという時に手を貸してくれるネットワークが必要です。まるまる面倒をみてもらうのではなく、行政や支援団体へ橋渡しをしてくれる人がいるだけでもずいぶんちがってきます。高島忠夫一家は介護保険を使わなかったために財産を使い果たしてしまったと報じられています。

   

f:id:bob0524:20170908130216j:plain

 仏教の「一切皆苦」をケネス田中先生はよく"Life is a bumpy road(人生はでこぼこ道)"とおっしゃいます。"Life is a roller coaster"という言い方もされますが、日本ではジェットスター。遊園地なら、一気に下がっても上に上がれますが、下がりっぱなしになるのが人生のおそろしいところ。

北九州のスペースワールドのジェットコースターは2017年末の閉園後、どうなっているのでしょうか。