海外で近藤麻理恵の『片づけの魔法』が受けるのは、禅とか、わびさびといった日本文化が背景にあると思われているからでしょうか。
日本語学校で私が教えているデンマークの女学生、トーベはかなり優秀。デンマークでかなり日本語を勉強してきたのでしょう。教師に詰め込まれたというよりも、自分の考えを外国語で表現することに興味があって独学を重ねてきたとのこと。
彼女は日本語能力だけでなく、鋭い観察眼を持っています。東京でホームステイを体験し、こんなことを言いました。
「神社に行ったり、茶道を体験すると、日本の美に触れることができます。ミニマリズムの美。だけど、日本人の家庭は物が多すぎです」
これは、痛い所を突かれました。
神社や茶室の整然とした空間。伝統的な日本家屋は布団や押し入れにしまわれ、何も置かれていません。
ところが現代の日本人の家といったら…。
2013年にフィンランドを旅した時、フィンランド人から「日本で片づけをアドバイスする本がベストセラーになっているって本当?」と聞かれたことがあります。近藤麻理恵の本のことを言っているのだろうとすぐにわかりました。
「フィンランドじゃそんなの誰も読まないだろう」と思ったのは、カウチサーフィンでお邪魔したフィンランドの家がどこも物が少なかったから。食器にしても、シンプルなイッタラの大皿、小皿、スープボウル、それにコーヒーカップとグラスが家族とお客の人数分あるだけですから、食器棚もすっきりしています。さして料理も好きじゃないのに和洋中の食器が雑然と詰め込まれた我が家の食器棚が恥ずかしくなりました。
フィンランドを代表するブランド、マリメッコは鮮やかで大胆なデザインのアイテムが多いのですが、あれはシンプルで広々としたインテリアの中でこそ引き立ちます。
同じ北欧の国であるデンマークから来たトーベが東京でホームステイして物の多さにびっくりするのもわかります。
ネットフリックスのMarie Kondoの片づけ番組で出てくるアメリカの家は、さすがに大きいのですが、その分、溜め込んだ物のボリュームもけた違いです。
第2回目のアキヤマ・ファミリー。名前からわかるように日系の家族ですが、リタイアを目前にして家中にあふれる物によって心穏やかな引退生活なんて送れそうにないと、近藤麻理恵に助けを求めます。
奥さんの服の量が尋常じゃありません。近藤麻理恵がこれまで見た中で一番多いというほど。
奥さんはこう語ります。
For me, clothes are a passion, an obsession, recreation.
私にとって洋服は、情熱と執着と、リクリエーション。
And, you know, whenever Ron and I would fight, shopping was a diversion, it was way to, you know, just calm down, de-stress.
ロン(夫)と喧嘩をしたときはいつでも、ショッピングは気晴らしになり、気持ちが落ち着くし、ストレスもなくなる。
手頃な値段で簡単に服が買えるのは日本もアメリカもおなじ。
フィンランドは、郊外に住んでいるとショッピングしようにも店がそんなにないし、物価が高いのでおいそれと買い込めません。人件費が高く通販も割高です。買い物より、森や湖、サウナで気晴らしをするのでしょう。
一方、夫のロンさんは野球カードの収集家。子供たちと30年以上かけて1000枚のカードをコレクションしました。
片づけのプロセスを通して、カードを所有することに意味があるのか、大切に保管すべきか、感謝して手放すべきか考えるようになります。そして10%、つまり100枚あれば十分で残したカードを大切にすべきだという結論に達します。
最初、ロンさんは片づけにあまり乗り気ではなく、奥さんに引きずられてといった感じでした。現状維持でいいじゃないか、変えなくてもいいと言っていたロンさんが片付け通じて残りの人生の送り方を再考するようになったのが印象的でした。
私自身がリタイア後のための片付けを始めなくてはいけない年齢にさしかかっています。
コレクションしているボブ・ディランとザ・バンドのCD、海賊版も含めたら一体何枚あることやら。今はネット上で視聴することもできますし、所有していることで満足するのではなく、本当に気に入った音源だけを選んでおかないと、老人ホームの入居の際に困ります。
ネットフリックスの視聴、月800円でここまで楽しめるとは。そして、一番いいことは、見終わったら削除、また見たくなったらダウンロードすればいいこと。DVDみたいに所有しなくていいことです。
小泉八雲の旧居の書斎。目を楽しませるのは庭の風景だけで、室内にあるのは机といすだけでした。