私が教えている日本語学校はけっこう学費が高いようで、学生たちは裕福な家庭の子弟が大半です。
「大学に入学する前のギャップイヤーで見聞を広めるために日本にやって来た。本当は秋葉原に入り浸っていたいけれど、親がせっかくなら日本語を勉強しろというので学校に来ている」というタイプ。留学ビザではなく観光ビザでの入国なので、日本でアルバイトすることはできませんし、する必要もありません。
観光ビザでは日本に3か月しか滞在できないので、長期生は学校主催の韓国ツアーに参加し、再度入国して滞在を延長します。
去年から外国人労働者の受け入れ拡大がさかんに議論され、技能研修生の名のもとに奴隷のように働かされる外国の若者の姿が報道されました。外国人として来日するのは同じでも、生まれた国、家庭によってこんなに差があるなんて、世の中はなんと不公平なんだろうと思いました。
しかし、お気楽なはずの裕福な学生たちも、日本でさまざまな運命が待ち受けています。
学生たちが滞在するのは、寮とホームステイが半々。
ホームステイは当たり外れがあり、留学生との文化交流を望む親切なホストファミリーの当たれば、着物を着せてもらったり、週末は家族と温泉旅行へ。
その一方で、数人ぐらいまとめて引き受けてして、ほとんど交流しないというホストファミリーも。入学時期がばらばらなので、先に来ている留学生が新入生にあれこれ教えてあげて何とか回っているようです。
ホストファミリーの謝礼は一人一泊2500円。一人だけホストするなら効率が悪いのですが、4人なら1日1万円。民泊の規制がきびしくなったのでホームステイに切り替えたというケースもあるそうです。
カレー、焼きそば、お好み焼き、うどん、チャーハンといったお手軽料理をローテーションで回せば、利益が出るかも。学生たちは外で食べてくることも多いし。
教室で教えるよりも、広い家を借りて学生をホストするほうが楽しいかとも思ったのですが、それはそれで気苦労があるだろうし、家事がきらいな私には無理でしょう。
食事の内容もそれぞれで、ある女子学生(カナダ人)は「食事の量が少なくて、空腹で夜、眠れない」と言います。「おかわりをもらったらいいじゃないの」とアドバイスしたのですが、「最初から盛り付けられていて、それで終わりなんです」とのこと。
カナダやアメリカの家庭での食事は、大皿で出して各自が食べる分だけ取り分けることが多いから、好きなだけ食べられますが、一人ずつの盛り付けでは人によって多かったり足りなかったりすることもあるでしょう。
小柄でやせている女子ですが、ボルダリングが趣味でスポーツ万能。エネルギーレベルが高くカロリーがたくさん必要なんでしょう。あまりにもかわいそうで、一度、焼き肉食べ放題のレストランに連れて行ってご馳走しました。
アコモデーション担当部門がどうやって学生をホストファミリーに割り振っているのか謎ですが、この世は決して公平じゃないということをつくづくと思い知らされます。
「スーパーのレジでずっと並んでいるのに、前の人が支払いに手間取り、私よりあとから並んでいる人が隣のレジでさっさと会計を済ませてしまった」というささいなことから始まり、「女というだけで医学部に不合格になり、私より成績の悪い男子が合格していた」など、程度の差はあれど、日々、不公平なことはどこでも起こっています。
差別を生み出すシステムには反対しなくてはいけませんが、すべてを平等にするなんてとても無理。不公平に扱われたからといっても許容できる範囲なら、不機嫌にならず「こういうこともある」と笑い飛ばしたいものです。
ホストファミリー運が悪い学生たちも、友達と学校帰りにオタクスポットをめぐり、それなりに日本滞在を楽しんで帰国していきます。
NHKの紅白歌合戦にAKB48の姉妹グループ、BNK48が出場していましたが、バンコクでの日本人気も盛り上がっているようです。ショッピングセンターの一画に日本ゾーンが出現し、唐突な漢字のディスプレイが並んでいました。