アン・タイラーの小説は、年を重ねて再読するたびに味わいが増します。
『結婚のアマチュア』も、結末がわかっているのに、ページを開くと一気に最後まで読んでしまいました。
- 作者: アンタイラー,Anne Tyler,中野恵津子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
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結婚30周年を迎えたパーティーで離婚を決意する夫のマイケル。
いつもの夫婦喧嘩だと深刻に考えなかった妻のポーリーンでしたが、マイケルは本気でした。
この二人が初めて出会ったのは1941年の12月。日本が真珠湾を奇襲攻撃して戦争が始まった年です。
実家の食料品店で働くマイケルは戦争に行くつもりはなかったのに、熱しやすいポーリーンは愛国者となり、マイケルはポーリーンの期待に応えるために志願します。
日本がアメリカに負けたのも当然かも。とんでもないほど国力の差があります。当時の日本は召集令状が来たら戦地に赴くしかない悲壮な状況だったのに、アメリカは色恋沙汰で軍隊に志願できたとは…。
ボルティモアの街から出征する若者の父親は「俺たちの力をジャップに見せてやれ!」と叫び、市場で魚をさばいていた日本人の老人はひっそりと姿を消します。「どこに行ったのだろう、とってもいい人だったのに」とポーリーンは思います。
マイケルは戦地に赴くことなく、訓練中に負傷して帰ってきます。
戦時中の高揚感と若さの勢いで結婚する二人。
それから30年たった1972年、結婚生活はそれなりに楽しかったとポーリーンは言うのですが、マイケルから出た言葉は「楽しくなんかなかった。地獄だった」。
マイケルとポーリーンの結婚生活だけでなく、アメリカ庶民の生活史も垣間見えます。
アメリカの夫婦は姑と同居なんかしないと思い込んでいたのですが、マイケルの母親は死ぬまで息子夫婦と暮らします。しかも結婚後数年間は一家が営む食料品店の2階に住み、夫婦喧嘩の声が従業員に筒抜けになるような狭さです。
姑が亡くなった時、最も悲しんだのは嫁のポーリーン。これだけでも申し分のない妻だと思うのに、マイケルは気分屋で少々エキセントリックなポーリーンに耐えられなくなってしまいます。
マイケルは「自分たちは結婚のアマチュアだ」と考えます。
入隊を決めた日、新兵たちが市内を行進した。結婚もそれと同じようなものではないか。ベテランは列を離れるけれど、アマチュアは残る。
ふつうの夫婦は、経験を積んで賢くなり、自分の役割に安らぎを見出していくのに、自分とポーリーンだけは未熟なままでアマチュアのパレードに取り残された最後のカップルのようだ。
50代の半ばを過ぎ、還暦も近いというのに、私はいつまでも「人生のアマチュア」」のような気がしています。高齢者になるという経験も初めてだし。
世慣れて見えるような人だってきっとアマチュアなんだと自分に言い聞かせて、これからの歳月を生きていきます。
高地旅行の時に見た土佐犬の子犬。大きくなったら立派な闘犬になるのでしょうか。
戦いたくない、いつまでも子犬でいたいという犬だっているのでは。