翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

マギーの『東京物語』

イタリア人のマギーが我が家に滞在したものの、週のうち4日は、ほぼ放置状態でした。

「本業と日本語学校が忙しくて、ほとんど相手できないから。食事もなし。外で食べるなり、コンビニで買うなりして」と伝えておきました。

 

カウチサーフィンやホームステイは、暇な時ならこちらも楽しみながら受け入れることができますが、忙しいとちょっと大変です。トイレや浴室が一つしかないし、誰かが家に泊まっているというのは心休まらないものです。

安請け合いしなければよかったと、ちょっと後悔したものの、マギーは若いながら人間ができているので、なんとか折り合って過ごしました。

 

おもてなし要素がまったくないのもなんだし、伊東の温泉旅行を計画しました。

マギーはジブリの『おもひでぽろぽろ』で熱海を見たと言います。

世界的に名画の評判の高い『東京物語』にも熱海が出てくると教えると、毎夜、パソコンで『東京物語』を見ていました。

 

ロバート・デニーロ主演の『みんな元気』は『東京物語』のオマージュと言われていますが、オリジナルはイタリア映画で、マルチェロ・マストロヤンニが都会に出た子供たちを訪ねる父親を演じています。

 

夫は戦死しているというのに、尾道から上京した義理の両親に徹底的に尽くす紀子。いかにも日本的なストーリーなのに、海外から高い評価を受けています。

 

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実の子供たちは目先の忙しさにかまけて、田舎から上京した両親を歓迎しつつも、内心は迷惑がっています。

父親役の笠智衆が旧友たちと酒場で交わす会話。

 

「親の思うほど、子どもはやってくれませんな」
「欲張ったらきりがない。あきらめなきゃ」
「あれもあんなやつじゃなかったけど、しょうがない。ええと思わんと」
「今どきの若い者の中には平気で親を殺す者もいる。それと比べればなんぼかましじゃ」

 

今の日本でも通用するし、海外でも同じようなものなんでしょう。

 

マギーは東京物語の日本語がとてもきれいだと言います。笠智衆や東山千恵子、そして原節子の台詞は早口ではなく、どれも聞きやすいのでしょう。

 

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「東京も見たし、熱海も見たし、もう帰るか」

マギーは笠智衆のセリフをまねてこう言いましたが、実際はイタリアに帰る気はさらさらないようで、JLPT(日本語能力試験)の受験勉強をしながら、東京での就職活動もしているようです。

 

東京物語」で原節子扮する紀子が、亡き夫の両親に対して完璧な嫁を演じるのは、夫と暮らして幸せだった日々の記憶を守るため。

日本語教師になった時、私は「語学を教えるだけの教師になりたくない、日本語を学ぶために来日した外国人の人生に多少なりとも関わりたい」と熱望しました。

2年前の教え子だったマギーを歓待しているのは、彼女のためではなく、私自身のためです。