JALの「どこかにマイル」で行先が熊本に決まり、「東京するめクラブ」の旅行記 を再読しました。
村上春樹、吉本由美、都築響一の3人による名古屋、熱海、サハリンなど一風変わった旅のレポートです。
その後、吉本由美が故郷の熊本に帰り、「東京するめクラブ」は消滅しましたが、同窓会として、村上春樹と都築響一が熊本を訪ねます。
ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 (文春文庫 む 5-15)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/04/10
- メディア: 文庫
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その中で紹介されていたのが、県道沿いの不思議な光景です。動物の形に刈り込まれた樹木が延々と続いているのです。
熊本空港から黒川温泉へのバスが一日2本しかなく、「どこかにマイル」の羽田からの到着便では間に合いませんでした。
しかたなく、観光タクシーを頼んで、阿蘇の観光スポットを回りながら黒川温泉に向かうことに。JALのマイルを使って交通費のかからない旅のはずだったのですが、思わぬ出費です。
人生はこんなことの連続でしょう。得したと思えば損をするし、損をしたと思えた得をする。
しかし、出費以上の価値がありました。旅先では地元の人の話を聞くのが一番おもしろい。ネットを検索して個人タクシーをお願いしたところ、話好きで質問にも気持ちよく答えてくれる運転手さんに遭遇しました。
阿蘇の観光スポットを回り、運転手さんが「最後に千羽鶴を見に行きましょう」と言います。
内心「千羽鶴なんて見てもしかたがない、それより早く温泉宿にチェックインしたい」と思ったのですが「とにかく、あっとおどろく場所です」というので連れて行ってもらうことにしました。
千羽鶴は折り紙じゃなくて、「トピアリー」と呼ばれる園芸細工でした。鶴だけでなく恐竜、馬、亀、そしてくまモンまでいます。県道沿いの焼きトウモロコシ屋さんのご主人が仕事の合間に作っているそうです。
村上春樹のエッセイに紹介されているスポットです。こんなマニアックなところには一生行けることはないだろうと読み飛ばしていたのに、何の因果か実際に目にすることになりました。
園芸細工はおよそ700体。そして、本物の鹿まで飼育されるようになり、タクシーの運転手さんは「千羽鶴・鹿公園」と呼んでいました。
それを「芸術」と呼ぶことはおそらくむずかしいだろうが、少なくとも「達成」と呼ぶことはできるはずだ。そして我々が住むこの広い世界には、批評の介在を許さない数多くの達成が存在するのだ。僕らはそのような達成、あるいは自己完結を前にしてただ息を呑み、ただ敬服するしかない。
おもしろそうだけど、一生行くことはないはずだった場所に、思いがけず足を踏み入れました。これだから旅はやめられません。
そして「何が好きか、嫌いかわからない」と堂々巡りしている私にとって、「とにかく作りたい」と延々と木を刈り続けてできた光景は衝撃的。
村上春樹と同じように私もただ敬服するのみでした。
熊本地震から2年半。まだ仮設住宅に暮らす人もいるという中、園芸細工は健在で、焼きトウモロコシ屋も盛況でした。
これからの人生、県道沿いの園芸細工のシーンは何度も思い出すことでしょう。願わくば私も、そうした達成目標を持ちたいものです。