翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

帰るために旅に出る

 忙しいため、方々に不義理をしています。

なにしろ、日本語学校の授業準備は待ったなしです。30人近くに膨れ上がった学生の作文に目を通して添削して、質問なり次に書くべきテーマを提示するだけで一週間が過ぎて行きます。

 

新規の仕事は引き受けないようにしているのですが、その一方でしょっちゅう旅に出ています。

「あちこち旅をしている暇があるなら、仕事しろ!」と突っ込まれますが、どこにも行かず、家に引きこもって仕事だけしていると煮詰まってしまいます。

 

旅というご褒美があるから、ハードな締め切りがこなせます。

とはいえ、旅先にもパソコンや書類を持参して仕事をしていると、バカなことをしているような気になってきます。

 

しかも、私はあちこち出歩くよりも家にいるほうが好き。どこにも行かなくてもいい真っ白な予定の日があると、小躍りしたくなるほどうれしくなります。

 

何十年も前に読んだ伊丹十三のエッセイに、こんな内容がありました。

アイルランド人は、本当は来客が大嫌い。来客があると、時間がたつにつれて歓待する。なぜなら、客が帰る時間が近くなるのがうれしくてたまらないからだ」

 

30代の私はアイルランドにハマり、会社を辞めてフリーランスになる前の3か月、アイルランドを放浪しました。今の若い人に行っても信じてもらえないでしょうが、日本の景気がとてもよくて、食べていけるかどうかの心配なんてしなくてよかった時代でした。

 

ロンドンからリバプールに向かい、船でアイルランドへ。

やさしそうな老婦人の隣に座りました。

「私はイギリス人だけど、結婚してアイルランドに移りました。故郷に里帰りして、自分の家に帰るところ」と彼女は語ります。

「故郷で家族や親戚、古い友達に会って、それなりに楽しかったけれど、今ではアイルランドが私の家。早く帰りたい。旅に出て一番いいことはね、自分の家に帰れること」

 

あこがれのアイルランドへ意気揚々と向かっている私にはとっては風変りな話でしたが、老婦人は「あなたも年を取ったら、私の気持ちがわかるはず」と言います。

 

その老婦人の年齢に近づいた今となって、しみじみとこの言葉を思い出します。

旅に出るのは、家に帰るため。

いくら家が好きでも、家にずっと引きこもっていたのでは、家のよさが味わえません。

 

そんなわけで、旅から帰ったら、次はどこに行こうと考え始めます。 

  

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 指宿と鹿児島中央を結ぶ「たまて箱」。海岸線を走ります。