翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

無意識の井戸から水を汲む

冬至の日は、易者にとって一年で最も大切な日です。ウラナイ・トナカイで受講者の皆さんと年筮を立てるようになって、ますます私の中で冬至の意味が強くなりました。一年が終わり、また次のサイクルへと入る切り替わりのタイミングだとしっかり実感します。

参加者の一人、maruさんの卦は「水風井(すいふうせい)」でした。
ameblo.jp

水風井の「井」は井戸の「井」。
水(坎)の下に木(巽)があり、井戸の釣瓶が何度も上下することから、日常的に繰り返す仕事を象徴します。ルーティンワークではあるけれど、生命に欠かせない水をくみ上げるのですから、仕事の意義はかなり大きいと言えます。

maruさんといえば、私の中では本格カレー作りに邁進しているイメージが強く、水風井にぴったりだと思いました。
でも、maruさんのブログを読んで、重大なことに触れていなかったと気づくのです。
maruさんは私がホワイトボードに書いた「井」という字から、こんな連想をします。

これを見てたら、ふとインド占星術の四角いチャートに見えました。
そして今月から始めたインド占星術モニター鑑定をする場所が、実は「井戸」のつく地域で始めたんですよね。げっ!!!と内心思いましたよ。

うわっ、これこそ易の神髄。
八卦で森羅万象すべてを示すのですから、八卦の象意は膨大です。その中から、占った本人にぴったりとはまるものをピックアップするのが易者の役割です。
玉紀さんの地風升の上爻も爻辞の「冥升」から西洋占星術の12ハウスを連想すべきでした。
参加者の方々にもそれぞれのストーリーがあったはずです。これからの1年でそれぞれの方が体験を通して「これが易の神様からのメッセージだったんだ」と感じることでしょう。

易では連想や駄洒落、使えるものは何でも使います。
「沢水困(たくすいこん)が出たら、タクシーが来なくて困った。『タクシー来ん』で沢水困」。
おやじギャクじゃありません。発言主は人相の大家にして易の達人の天童春樹先生です。
占い雑誌で天童先生の連載原稿を担当していた頃、編集者の求めに応じて自在に易を立てる天童先生のスタイルから大いに学びました。

村上春樹の作品では、井戸は無意識や精神世界への入り口です。
ねじまき鳥クロニクル』では、ノモンハン戦争の井戸と主人公の近所にある枯れた井戸が重要な意味を持ち、井戸に落とされたり、自ら降りていくことで、普遍的無意識という地下水脈を探ります。
そして、村上春樹には日本におけるユング心理学の第一人者、河合隼雄との対談集もあります。

maruさん、ごめんなさい、「水風井は地道なルーティン」なんて薄っぺらい読みしかできませんでした。
maruさんのインド占星術は、普遍的無意識という井戸の水を汲み出す行為です。

冬至の日、ウラナイ・トナカイの年筮の会に先立ち、日本語学校ユングの話をしました。外国人学生には村上春樹の愛読者もいます。そして、年筮の会では、ユングから易に興味を持ったという方もいらっしゃいました。

易の神様は、「年に一度の冬至だから、これだけヒントを与えたのに、それでも読めなかったのか」と、さぞかしあきれていらっしゃることでしょう。


フィンランドの農家の井戸。