翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

アイルランドのような田舎へゆこう

エドナ・オブライエンの『カントリーガール』を読んだのは10代の後半でした。
舞台がアイルランドというのが、手に取った理由です。

当時、田舎の高校生だった私にとって、外国ははるかに遠く、一生のうちに何回、海外に行けるのだろうかと考えていたものです。
ロンドンやパリといった大都会を舞台にした小説は、あまりにも遠い世界。海外でも「田舎」とタイトルにある「カントリー・ガール」なら共感できる部分がたくさんあるんじゃないかと考えたのです。

しかも、アイルランドといえば、田舎。丸山薫の『汽車にのって』です。

汽車にのって
アルランドのような 田舎へゆこう
ひとびとが 祭りの日がさを 日がさを
くるくる回し

日が照りながら 雨のふる
アイルランドのような 田舎へゆこう

車窓(まど)にうつった 自分の顔を道づれにして
湖水をわたり トンネルをくぐり
めずらしい少女や うしの歩いている
アイルランドのような 田舎へゆこう

1899(明治32)年生まれの丸山薫は、一度もアイルランドに行ったことがありません。
東京高等商船学校(現・東京海洋大学)に入学しますが、脚気のためやむなく退学。文学の道を志し、遠い世界へのあこがれを詩に綴ったのでしょう。

今はフィンランドオタクの私ですが、20代の頃は、ひたすらアイルランドにあこがれていました。
会社を辞めてフリーランスになり、3ヶ月間のアイルランドの旅が実現した時、バックパックには「カントリーガール」のペーパーバックを入れました。この本の舞台で、原語で読んでみようと思ったのです。

The Country Girls (Country Girls Trilogy 1)

The Country Girls (Country Girls Trilogy 1)

首都ダブリンではなく、エドナ・オブライエンの出身地である西海岸クレア州の田舎町のカフェで『カントリーガール』を開きました。
英語を読むのに疲れてぼんやりお茶を飲んでいると、地元の人が話しかけてきました。
エドナ・オブライエンの本を読んでいたでしょう。彼女の本、ここではしばらく発禁になっていたのよ」

『カントリー・ガール』が発表されたのは1960年代。田舎の若い女の子と中年紳士(ミスター・ジェントルマン)との恋の物語は、保守的なカトリック国であるアイルランドの田舎では受け入れられなかったのでしょう。エドナ・オブライエンは祖国を離れ、イギリスで作家活動を続けました。

ヨーロッパの田舎だったアイルランドは、1990年代に爆発的な経済成長を遂げます。アメリカとの距離の近さ、英語という共通言語から、多くのIT企業がヨーロッパ本社をアイルランドに置きました。しかし、その後は不況に苦しみ、ギリシャポルトガルと並んでEUのお荷物になっているようです。

最後にアイルランドに行ってから20年近くがたってしまいました。おそらくもう行くことがないでしょうが、折に触れて「アイルランドのような田舎にゆこう」と口ずさんでしまいます。


島根県には、親友の優春翠の好意で一年に一回は訪れています。最高の温泉があって、食べ物もおいしくのんびりできますが、暮らすのはハードルが高そう。ペーパードライバー歴30年の私は、移動の手段がありません。
ローカル線の三江線はまさに「汽車にのって田舎にゆこう」という趣のある路線でしたが、JR西日本が廃止を正式に表明しました。