翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

ポーランドに行くことはないだろうけれど

香港から来たキャスとマッティのカップル。
出会ったのはロンドン。キャスは香港から、マッティはポーランドからの留学生でした。二人は結婚してキャスの故国に住むことになったそうです。

キャスは子供と動物専門の写真家。ホームページにはとても魅力的な写真が満載でした。自宅で柴犬を飼っているそうです。

マッティは心理学者で、香港ではセラピストとして働いています。
日本で興味があるのは修験道で、「東京ではどこに行けば修験道に触れられる?」と聞かれ、「調べてメールするから」と答えるのが精一杯。高尾山薬王院に英語のホームページがあったので、送っておきました。
そして、易(Ichig)に関してもいろいろと聞かれました。
「どんな時に易を立てるのか?」とマッティ。
「どちらを選ぼうか迷っている時に立てる」
「もし、易のメッセージに納得できなかったらどうするのか? たとえば、自分がやりたいことなのに、易にやめるように告げられたら…」
「本当にやりたいことなら、そもそも易は立てない。すでに自分の中に答えがあるということだから」
…と、禅問答のようなやりとりになりました。

易を始めたきっかけを聞かれ、ユング心理学と答えました。
マッティは「ユングは難解だ」といいますが、日本ではユングがとても人気があると伝えました。
そういえば、スイスからカウチサーファーのナタリーが来たときもユングを話題にしたのですが、「名前を知っているだけ。日本でそんなに有名なの?」とびっくりされました。
このあたり、河合隼雄氏の功績が大きいのでしょうか。西洋と東洋の垣根を超えた普遍的無意識という考えはたしかに日本人好みです。

そんな話をしながら上野公園を歩き、日高屋に落ち着きました。

「なんと言っていいか、あなたの気を悪くするかもしれないけれど」と前置きして、ポーランド人に聞きたかったことをマッティに話してみました。

「私の知り合いの息子さんが、寝具の輸入の仕事をしていて、ポーランドは羽毛の産地だから、出張した。取引先のポーランド人に『観光案内してあげる』と言われて連れて行かれたのが、アウシュビッツ強制収容所だった。悪夢のような体験だったと彼は言うのだけど、これは、日本人が嫌われているからだろうか? ドイツと組んでいたんだから、過去を学ぶべきだという意味?」

休日の夜、仲良くラーメンをすする日本人の親子連れは、隣のテーブルで強制収容所が話題になっているとは、夢にも思わないでしょう。

「彼が行ったのはどの都市? ワルシャワ?」とマッティ。
たしかクラクフだったと聞いています。
「だったら、純粋に観光として案内したんじゃないかな。今は博物館になっているしね。ポーランドにとっては観光スポットの一つだから。たしかにポーランド人はドイツが嫌いだけど、日本人を憎んでいるなんてことはないよ」

そう聞いて胸のつかえが取れました。この話を聞いて以来、ずっと気になっていたのです。
ポーランドには一生、行かないと決めました。好意とはいえ、アウシュビッツに連れて行かれたら、とても耐えられません。

カウチサーフィンの醍醐味はやはり会話です。
相手のバックグラウンドを何も知らず、単なる訪日観光客相手だと「日本の印象はどうですか」「寿司は食べましたか」「温泉には行きましたか」という通り一遍の会話しかできません。
マッティの経歴を知っていたからユングの話ができて、強制収容所ツアーに触れても大丈夫だろうと判断しました。いくらポーランド人だって、いきなり強制収容所の話題を出すのは、ためらわれます。日本人が海外で、最初の話題がヒロシマでは困惑するのと同じです。