翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

初筮は告ぐ

占いは、生まれた時で占う命術、偶然性で占う卜術(ぼくじゅつ)、姿形で占う相術の3種類があります、といったことを占い学校で最初に学びます。命術の代表が西洋占星術四柱推命、卜術がタロットや易、相術が手相や人相です。

命術については、前回にも書いた通り出生時刻のデータがあやふやなことがよくあります。そして、たまたまその時に生まれた偶然性で占うと考えると、卜術的な要素もあるといえます。

卜術のキーワードであるシンクロニシティ共時性)という言葉を日本で広めたのが河合隼雄氏です。

宗教と科学の接点

宗教と科学の接点

この本には、河合氏がアメリカに留学してユング派の分析を受けていた時に易を立てた話が出てきます。

ユング派の分析家の資格を取るためには、250時間以上の経験を積まなくてはいけないのですが、昭和39年当時、東洋人に分析を受けてみようという患者がいるのか、それに語学力にも自信がないため、河合氏は不安になります。
思いがけず5人の患者が次々と見つかったものの、4人が次々とやめてしまいます。これでは資格が取れないと落ち込んだ河合氏が易を立てるのです。

得られた卦は「地雷復(ちらいふく)」。6枚のコインを投げる方式とあるので、爻までは出さなかったのかもしれません。地雷復は、一本の陽爻の上に五本の陰爻が乗っている形です。冬至を象徴する卦であり、陰が極まって陽に転じるのですから、「今が底。これから上昇する」と易者なら占います。
しかし、河合氏は、5つの陰に対して陽が1つという偏りに目を向け、日本人は西洋人に比較すると陽(男性性)があまりにも弱すぎると解釈し、悲観します。

そこで女性の分析家フレイ博士に相談に行くと、「易を再度立てよう」と提案されます。
「易は二度立てるべきではない」と河合氏。
山水蒙の卦辞「初筮は告ぐ。再三すれば涜(けが)る」です。Wilhelm/Baynes版では"At the first oracle I inform him. If he asks two or three times it is importunity."と訳されています。(importunitiyは、しつこいという意味ですから、冒涜の「涜(けが)る」というニュアンスからは少し離れているように感じます)

しかしフレイ博士は自分が関与することによって状況は変わったのだから、新しく易を立ててもいいと熱心に主張します。
そこで彼女がコインを投げて得た卦が、再び「地雷復」だったのです。

占い学校の易の講座で「出た卦が気に入らなくて、何度も易を立てていると、同じ卦が出る。まさに初筮は告ぐ」と聞いたのですが、まさにそのような状況が起こったわけです。

地雷復は、すべてをもとに返すことも意味しているので、河合氏は一人残った患者に、「自分は未熟だからもう一度やり直すために、2ヶ月間の休暇が欲しい」と、初心にかえって自分の分析に集中します。
そして再び、患者の分析を始めると、待っていた患者に加えて去っていた2人も戻ってきて、まさに地雷復のイメージ通りになったそうです。

ユング派はしばしばオカルトのレッテルを貼られますが、河合氏もそのあたりを危惧してか、こう書き加えています。

これによって、筆者が患者さんのために易をたてたとか、未来の予測をするために易をたてたなどと誤解されないようにお願いしたい。易の提示するイメージを私は自分の状況を把握する上で、意味あるものとして受けとめてみたのである。

大学で心理学を専攻していた私は、この箇所を読んで易はおもしろそうだと思いつつ、学ぶまでには至りませんでした。
女性誌の占い原稿を書くために入った占い学校で易の講座を受けたのは20年以上も後のことです。


地雷復のイーチン・カードと算木。つながった線が陽、分断された線が陰です。地雷復の卦は陽の上に5つの陰が乗っており、これから陽が伸びていくことを示します。