翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

待っているだけでは王子様は現れない

ヘンリク君に会った私の友人の一人が「王子様みたい」とうっとりしていました。

しかもヘンリク君は、心優しい王子です。
ある日、ハチ公前で学校の友達と待ち合わせだというので、「ハチ公の話を知っている?」と飼い主が死んでも帰りを待ち続けた話をしようとしたら「お願いだから、やめて。僕は悲しい話は苦手なんだ」とさえぎられました。

ヘンリク君のお母さんによると、子供の頃はアニメのムーミンを見るたびに泣いていたそうです。ムーミンってそんなに悲しいお話だったかと不思議に思いましたが、ヘンリク君はムーミンがあまりにも好きで、30分で終わってしまうことが悲しくて泣いていたそうです。
ホームステイの最後の夜は、お互い涙目でした。

サプライズ来日でヘンリク君の両親と弟とも新宿で会って食事をご馳走になりましたが、けっこう緊張しました。

ホテルのロビーで家族の登場を待つ間、「ヒュヴァ―・フオメンタ(おはようございます)。ハウスカ・トゥトゥストア(初めまして)。発音はおかしくない?」とヘンリク君相手にフィンランド語の挨拶の練習。
「そんなにナーバスにならないで。両親はオープン・マインドで気楽なタイプなんだから」とヘンリク君は言いますが、純真な彼は私の黒い下心を知りません。

いつかフィンランドで日本語を教えたいという野望を持つ私は、ヘンリク君には帰国後にも、日本語の勉強を続けてほしいと強く願っています。そのためのキーパーソンはどうやらお母さんのようです。ホームステイ前のヘンリク君からのメールを添削していたぐらいだから、かなり教育熱心でしょう。私からのメールはお母さんのお眼鏡にかなったらしく、「ヘンリク、このホストならあなたの日本滞在はすばらしいものになるでしょう」と送り出したそうです。

しかし、「息子の希望で日本に語学留学させたけど、ホームステイ先で息子は野球ばかり見て、ホストはフィンランドの歌手の追っかけをしたいという変な日本人だった」なんて思われたら元も子もありません。

フィンランドの職業人の多くはネット上に学歴や職歴をオープンにしています。
ヘンリク君の両親はどちらもМBAホルダーで、国際企業で働いています。だからこそ息子のホームステイ終了に合わせて一家で来日するなんて発想が出てきたのです。
そして、今回の来日は、ヘンリク君に日本語の勉強を続けさせるべきか、自分たちの目で確かめる目的もあるのではないでしょうか。

日本語教師養成講座で、「外国語学習者の数は国力に比例する」という話を聞きました。
日本語学習者が一気に増加したのはバブル時代。多くの外国人が出稼ぎのため学生として来日し、名ばかりの日本語学校も乱立しました。
それが今や、アジア経済の中心は中国に移り、学ぶなら日本語より中国語となっています。

ヘンリク君のお父さんは海外出張も多いのですが、中国には何度も行ったけれど日本に来たのは今回が初めてだといいます。
はたしてヘンリク君の両親が、世界市場での日本語能力の価値をどう判断するのかが気になりました。

新宿伊勢丹が、とてもいい仕事をしてくれました。
ヘンリク君のお母さんが伊勢丹でショッピング中に帽子をなくし、「日差しの強い東京では帽子は絶対必要なのに」と総合案内に駆け込みました。「遺失物センターは隣です」と教えられて、隣のビルに行ってみたところ、すでに帽子は届けられていました。
「ストックマン(ヘルシンキの老舗デパート)では絶対にこんなことは起こらない」と、ヘンリク君のお母さんは一気に日本びいきになりました。

「ヘンリクが去年の秋から通っている日本語講座は、先生もフィンランド人で週1回のカルチャー教室みたいなところだから、もっと本格的なところを探さなくては」とお母さん。これはいい予兆です。

フィンランド人と外国人が友達になるのはむずかしいと読んだので、カウチサーフィンでフィンランド人のホストを始め、ヘンリク君のホームステイにつながった」と説明する私に、お母さんはこんな言葉をかけてくれました。
「たしかにフィンランド人は新しい人とはなかなか親しくならないけれど、ひとたび打ち解ければ(ice breaking)、それは一生の関係となります。あなたとヘンリクもそうなるでしょう。なにしろ日本から送られてくるヘンリクからのメールは、あなたのことばかり書かれていたのだから」

占い師仲間の天海玉紀さんが阿佐ヶ谷七夕祭り占いイベントを紹介するブログでこんなことを書いていました。
http://tamaki-amami.com/blog-entry-1282.html

世の中で言われる「引き寄せ」という言葉には、わたし抵抗を感じます。自分からはなんにも放出しないで、ただ自分のほしいものだけ手に入れるなんてないよね。それじゃバランスおかしいですからね

いつもの玉紀節が炸裂です。

友人は「あんな王子様が来るなんて、運がよかったね」と言います。たしかに運はよかったと思います。
今回のホームステイは学生の国籍(フィンランド)は指定できましたが、カウチサーフィンのようにプロフィールをチェックしたりメール交換して気が合いそうにないから断るということはできません。疲れるだけの3週間になった可能性もあります。

しかし、私は王子様が現れるのを待っていただけではありません。
フィンランドとつながるためにカウチサーフィンを活用し、フィンランドに滞在する最適な理由として日本語教師になろうと思い立ちました。

いくらヨレ様が素敵だからといって、「トータル・バラライカ・ショー」を何百回観たところで、ヘンリク君は現れなかったと思います。


王子様はやはり馬に乗っていなくては。東銀座の歌舞伎ギャラリーにて。

将来への下心はあったものの、ヘンリク君が我が家に滞在した3週間はそれだけで価値があるものでした。彼がこれからの人生で18歳の夏を思い出す時、記憶の片隅に私という存在があるだけで、十分です。