翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

阪神タイガースで学ぶ日本語

フィンランドの18歳、ヘンリク君の通っている日本語学校は、スウェーデンで生まれ、現在の本社はスイス。「現地の言葉を現地で学ぶ」というポリシーで、世界各国に学生を留学させています。
渋谷校で日本語を学ぶ学生の大半は10代から20代の欧米の若者のようです。

ヘンリク君には、「学校が終わった後、友達と遊びに行って遅くなってもいいからね」と送り出しています。10代の若者は同世代と出歩きたいものでしょうし、世界各国の友人ができるのも貴重な体験だと考えたからです。

到着したのが日曜日のお昼だったので、その日は中野ブロードウェイと近所を案内しましたが、次の週末は土日とも学校の友達と出かけました。

平日は、友達と夜遊びすることもなく夕方に帰って来ます。
「ホームステイしている外国人学生が、毎晩自分の部屋に閉じこもって、ネットやスカイプばかりやって、あまり交流できなかった」という話も聞きますが、ヘンリク君は私と一緒にリビングルームで過ごします。映画『かもめ食堂』、『ロスト・イン・トランスレーション』、阪神タイガースの試合を観たり、フィンランドや日本についておしゃべりします。

学校の友達について尋ねたところ、どうやらディープなオタクばかりでリア充のヘンリク君とは少し合わないようです。
まんだらけに一緒に行くと、時間がかかってしょうがない」
「今日のランチはハンバーガーだった。食べている時間は短くして、その分オタク・グッズを見て回りたいとオタク・フレンドが言うから。日本まで来てハンバーガーを食べるなんて信じられなかった」
「今日のクラスにフィンランド人の女の子がいたけど『あなたとはどこかで会った気がする。ヘルシンキのコスプレイベントだったけ?』って言われた。勘弁してほしいよ」

ヘンリク君の見立てによると、生徒の7割はオタクだそうです。ビジネス目的ではない学生向け短期留学の日本語学校ですから、そうなるのも当然なのでしょう。

しかし、オタクが高じて日本語を学ぼうという姿勢は高く評価できます。
ヘンリク君によると、オタク・フレンドたちの夢は「英語の字幕なしでアニメを観ること」「日本語版でマンガを読むこと」だそうです。

サッカーをやっているヘンリク君ですが、野球も大好きだといいます。
フィンランド式の野球(ペサパッロ)?」と聞いたら「違うよ、本物の野球。プレイステーションで野球ゲームをやるし、メジャーリーグの試合もよく観ている」とのこと。
メジャーではロサンジェルスドジャーズのファンで、日本の球団はどこのファンでもないというので、タイガースファンになるように洗脳しました。
今では「日本で何が好きですか?」と質問されると「阪神タイガース」と答えるほどのトラキチになりました。野球中継を見ながら、アナウンサーや解説者の言葉を熱心に聞き取ろうとしています

そこで、自宅でのヘンリク君の日本語学習はもっぱら日本のプロ野球解説が教材となっています。
外国人選手の名前でカタカナの読みの確認、「投げる」「打つ」「走る」「盗む(盗塁)」「オモテ、ウラ」「一塁、二塁、三塁、本塁」「同点」「逆転」「サヨナラ勝ち」などの野球英語の他に、「リリーフ」「ホームラン」などのカタカナ英語でLとRを区別しないことなどを学びました。

無味乾燥な教科書で学ぶよりずっと身に付いたようで、こんな風に使っています。
「今日の授業は、日本語で外国の名前を習った。先生が国旗を見せて国名を答えるんだけど、アメリカの女の子がベルギーの国旗に自信満々で『ドイツ!』と答えたんだ。あれは見事なカラブリだったな」


学校での英語の勉強は嫌いだった私が、ボブ・ディランに目覚めて「英語がわかるようになりたい」と切実に願ったからこそ、フィンランド人学生をホームステイさせるぐらいの英語力は身に付きました。
ディランは現在74歳ですから、リアルタイムで好きだったわけではなく、完全な後追いです。同じクラス、いや学年にだってディランのファンという女子はいませんでした。

ヘンリク君も、通っている高校の中で日本語を勉強しているのは彼一人で、メジャーリーグの野球を観戦している友達もいません。フィンランドでメジャーなスポーツはアイスホッケー、F1、スキージャンプ。サッカー仲間はいるけれど、趣味では孤高の道を歩いているのです。

外から強制されるのではなく、内からこみあげてくる気持ちに従って学んだことこそ、一生の財産となるはずです。