翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

現世は束の間の旅のようなもの

須賀敦子を再読しています。今年はイタリアに行きたいと思ったのですが、どうも無理なようなので、須賀敦子の描くイタリアを楽しんでいます。

最初の著作『ミラノ 霧の風景』が出版されたのは1990年。作家の関川夏央が「須賀敦子はほとんど登場した瞬間から大家であった」と評しました。

海外留学が今ほど容易ではなかった1950年代にローマに留学し、ミラノのコルシア書店を拠点とした共同体の活動を通じてイタリア人の夫と結婚します。

コルシア書店の仲間たち (文春文庫)

コルシア書店の仲間たち (文春文庫)

この本を読んで、文学を通して海外の人々と交流することにあこがれたものです。

文学も語学も専門ではない私にはとても無理だとあきらめていたのですが、フィンランドの人々とはカウリスマキ小津安二郎の映画、レニングラードカウボーイズ村上春樹、宮崎アニメなど共通の話題がたくさんみつかりました。フィンランド人にとっても英語は外国語なので、語彙が貧弱で文法にまちがいがあっても大目に見てもらえます。

ミラノの大聖堂に船のイメージを重ねた須賀敦子は「中世の教会にあった、現世を束の間の旅とみなす思想」を想起します。そして「帆を上げさえすれば、いつか、どこかに行ける可能性を秘めている」ことに安心します。

実際に旅に出なくても、現世は束の間の旅のようなもの。
そんなふうに実感できるようになったのは、50代になってからです。

アドラー心理学のブームに乗ってあれこれ読んだうちの一冊。

著者の岸見一郎氏の専門は西洋哲学で、アリストテレスのキーネーシス(動)とエネルゲイア(現実活動態)という言葉が出てきます。

キーネーシスは普通の運動で、始点と終点があります。効率やスピードが重視され、快速や急行列車に乗って目的地にできるだけ早く到着することが重視されます。
若い頃の私は、いかに短時間に多くの仕事をこなすかを追求していました。その結果は出版社からの原稿料振込という形で銀行通帳に記載されました。

年齢的な影響に加えて出版不況の影響もあり、次々と締切に追われることもなくなり、今はエネルゲイア的な生き方を模索しています。
エネルゲイアとは、どこかに到達したかどうかではなく、すでに完成している動きです。

旅もエネルゲイアとしての動きの例になります。家を出た瞬間から始まるのが旅です。目的地に着く前であっても、その時々がそのまま旅です。旅においては、常とは違う時間が流れ始めます。効率的に旅をすることに意味があるとは思えません。

どこかに到達しなくても、今、生きていることに意味がある。

フィンランド人に人気の村上春樹も、フルマラソンに挑戦して10年前のベストタイムを更新したいという34歳の女性にこう答えています。
http://www.welluneednt.com/entry/2015/01/18/113000

時間や数字なんて些細なことです。大事なのは生きるという作業のクォリティーです。相変わらず毎日走っています。なによりそれが大事なんですよね。

若い頃は、おもしろい本があれば、続きを一刻も早く読みたくて徹夜したこともありましたが、今は行間をゆっくりたどる読み方もできるようになりました。


1月の北海道の旅では、出発地の羽田空港から富士山がきれいに見えて、それだけでわくわくしました。