翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

聖地・甲子園には野球の神が降臨する

今から30年ほど前の学生時代、甲子園でファールボールを回収するアルバイトをしていました。
夕方ぐらいに甲子園に行き、タイガース風の制服とボールを入れるバッグを支給されます。
ボールガール用に席もちゃんと用意され「試合から絶対に目を離さないように」と注意を受けます。

タイガースファンにとっては夢のような仕事ですが、配置される席によって楽しさはずいぶん違いました。阪神ファンの多い席なら観客と一緒に楽しめますが、ビジター側ではあくまでも「球場係員」の立場を貫かねばなりません。

当時を思い出しながら読んだ本。

トラキチオヤジたちの遺言集に「阪神の優勝は人生で3度まで。それ以上は望むな」とあります。
私は1985年を覚えていて、2003年、2005年と優勝しましたから、もう一生分の優勝は見ました。
でも今年は、優勝を逃してCSからの日本シリーズ出場ですからカウントしないはず。

この本の筆者の朝日奈ゆかさんが書いているように、長らく下位に低迷した暗黒時代は、梅雨頃にシーズンが終了し、あとは親善試合。気が向いたときだけ試合を見て来季の構想を練るというのが虎ファンのパターン。

665666641。
1995年から2003年までの阪神の順位です。この期間、ライターの仕事がかなり忙しく、締切に追われる日々でしたが、仕事に支障をきたすことはなく、2002年の4位浮上、そして2003年の優勝で浮足立ちました。

2004年からは、41232424522。
2位が多く、暗黒時代を思うと夢のような好成績です。

タイガースは短期決戦に弱いところをさんざん見せられてきたので、今年のCSもあまり期待していなかったのですが、ぎりぎりのところでファーストステージを突破、そしてまさかの4連勝。

夏の間、タイガースが勝てば祝杯、負ければヤケ酒だったのですが、日本シリーズ進出を決めたのをきっかけにアルコールを断つことにしました。タイガースも、CS突破では祝勝会もビールかけもやっていません。

たかがプロ野球の一球団にそこまで入れ込むのかと、虎ファン以外の人には不思議がられるでしょうが、一種の宗教のようなものです。

上記の本には宗教人類学者の植島啓司先生が『甲子園―聖地のチカラ』を寄稿しています。

植島先生によると、甲子園は「聖地」の条件をすべて満たし、「夕方になって観客が少しずつ入りはじめた時間の甲子園は気が遠くなるほど美しい」と絶賛しています。

ナイターは18時開始で、宗教行事はだいたい日没とともに開始されます。
そして、「甲子園球場のすり鉢状の形状は人々の願いをひとつに沈殿させ、激しい熱情を反響させあう」とあります。

たしか甲子園はもともと武庫川の反乱によって生まれた支流の枝川・申川の中州につくられたと記憶している。1924年8月1日(甲子の年)に枝川と申川の川床を埋め立てて、いよいよ甲子園球場が完成することになるわけだが、(中略)

熊野本宮大社も今から100年ちょっと前に水害で流されるまでは大斎原という熊野川と岩田川・音無川の中州に建てられたのだった。川の中州というのはしばしば聖地とされることが多く、甲子園が今の場所にあるのもとても偶然とは思いえない。(中略)

かつては聖なる水のただなかにあったわけで、まさに禊の場なのだった。
いまや人々はそこ=甲子園に集まって、外野とアルプススタンドの狂騒のなか、祈りをささげたり、願いをこめながら、神の降臨を待つ。ジェット風船を飛ばし、いっせいにメガホンをたたいたりするのも、そのために欠かせない神事なのかもしれない。

植島先生の聖地の定義については、こちらのエントリーで紹介しています。
http://d.hatena.ne.jp/bob0524/20130120/1358680847

そして「甲子園」の由来についてはこちら。
http://d.hatena.ne.jp/bob0524/20111117/1321493424

東京に暮らすようになってから、タイガースを観戦するのはもっぱら神宮球場です。
こちらも「神」とつながりの深い球場で、神宮球場には小説の神様が降臨するようです。

1978年の4月のことでした。僕は東京にある神宮球場で野球の試合を見ていました。太陽が照っていて、僕はビールを飲んでいました。ヤクルト・スワローズのデイブ・ヒルトンが完璧なヒットを打って、その瞬間に小説を書こうと思ったのです。気持ちの良い高揚感で、今でも胸にそれを感じることができます。

(ドイツのDER SPIEGEL誌の村上春樹インタビュー。『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』より)

2009年に那覇の酒屋さんで買った泡盛。「六甲おろし」をかけながら熟成し、その名も「萬虎(マントラ)」。
店主も阪神ファンでした。「阪神が優勝したら飲むことにする」と話すと「それじゃクースー(古酒)になっちゃうかも」「何年物になるかなあ」と会話が弾みました。

今年は優勝しなかったけれど、日本シリーズが終わったら、日本一になってもならなくても飲んでみようかと思っています。日本一祈願の断酒明けにはこれほどふさわしい酒はありませんから。