「二人の愛は永遠に」というラブソングに、みうらじゅんが「仏教を学べ」と突っ込んだというのが前回のエントリー。
みうらじゅんの信奉するボブ・ディランも数多くのラブソングを書いています。
『風に吹かれて』『時代は変わる』などのプロテスタントソングがディランの代表作と思われていますが、私はラブソングでディラン先生に夢中になりました。
たとえば、"It Ain't Me Babe"。
「定期的に花を贈り、生涯の愛を捧げたりする恋人を求めているのなら、僕はそうじゃないよ」という歌です。
私が初めて買ったディランのアルバムは菅野ヘッケル編集のディラン来日記念の3枚組でした。この曲がラブソングのカテゴリーに入っていたので「これがラブソング!?」と、高校生だった私は衝撃を受けたものです。
"It Ain't Me Babe"は1963年の作品で、12年後の1975年に作られた"If you see her say hello"もラブソングに入っていました。菅野ヘッケルのおかげで、ディラン先生の多彩な才能を一気に聴くことができたのです。
「彼女に会ったら、よろしくと。彼女はタンジールにいるかもしれない」という歌詞の始まりから引き込まれました。
タンジールってどこなんだろうと世界地図で調べ(当時はネットなんてありませんでした)、ボブ・ディランの元恋人だからおそらくアメリカ人で、モロッコを旅する女性を想像したものです。
「僕は大丈夫だと伝えて」と続けて、ディラン先生はこう続けます。
She might think that I've forgotten her, don't tell her it isn't so
(彼女は、僕が彼女のことなんか忘れていると思っているかもしれないけれど、そうじゃないとは言わないで)
"It Ain't Me Babe"では「君が探しているのは僕じゃないから」と冷たく言い放っていたのに、年齢を重ねて成熟し、愛する女性と出会えば、こうも変わるものか。
And though our separation, it pierced me to the heart
She still lives inside of me, we've never been apart
(僕たちの別れは、心臓まで突き刺さるほどの痛みだった。彼女は今でも僕の中にいて、決して離れない)
うわー、ここまで言えるんだ。と、ディラン先生の世界にすっかりノックアウトされ、追い打ちをかけるように次の歌詞。
I always have respected her for busting out and gettin' free
Oh, whatever makes her happy, I won't stand in the way
(僕はいつも彼女を尊敬してきた、常に自由であろうとする姿勢を。彼女を幸せにするものが何であろうと、僕は邪魔をしない)
フェミニストのディラン先生。
別れた恋人にここまでリスペクトされ、世界を旅する自由な女性。そんな女性になりたいと願ったものですが、それはかなわぬ夢のままです。
フィンランド人のアンネと7月上旬に優春翠の故郷の島根を訪れた時の写真。昨年の豪雨で不通となっていたJR三江線の復旧が間近で、駅には人懐こい猫がいました。